異なるアレルゲンであっても、似た形をした部位があると特異的IgE抗体はそれらのアレルゲンに結合し、その結果アレルギー反応を引き起こすことがあります。これを交差反応といいます9)。
特定の野菜や果物を摂取した直後~1時間以内に、口の中がかゆくなったり、のどがイガイガして腫れたり、息苦しくなったりするなどの症状が現れる8)ことがあります。
これは「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)や口腔アレルギー症候群(OAS)」と呼ばれています。
もともと花粉症の人が、のちにその花粉のアレルゲンと交差反応する生の果物や野菜を摂取したときに口やのどの粘膜で起こるアレルギー症状です9)。軽度な症状が多いとされていますが、まれに生命を脅かすアナフィラキシーにつながる場合もあります10)。
くちびる、舌、のどなどで起こる
かゆみ(チクチク、イガイガ)、腫れ
シラカンバ(白樺)やハンノキなど、カバノキ科の花粉症の人の20~40%にバラ科のリンゴやサクランボ、桃を食べたときに症状がみられたとの報告もあります8)。同様に、イネ科の雑草やブタクサ花粉症の人がウリ科のメロンやスイカを食べたときに症状が現れることがあります。
(主な花粉と交差抗原性が証明されている果物と野菜については、以下の表を参照してください)
果物や野菜のアレルゲンは、多くの場合、熱で減弱することが多く、加熱調理されたものや加工品は摂取できることが多いです9)。
【表】「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)に関連する原因花粉と食物(野菜・果物・ナッツ類)」
豆乳に注意!
PFASは口腔症状など比較的軽い症状に留まることが多いといわれていますが、中には重篤なケースもみられます。
特に液体のため一度に大量に摂取できてしまう豆乳は原因となるGly m 4が熱処理の程度により完全に活性を失うわけではないと言われています。全身的な症状が出ることがあり注意が必要です11)。
花粉と果物・野菜で見られる「花粉-食物アレルギー症候群:PFAS (pollen-food allergy syndrome)のほかにも、さまざまなアレルゲンで交差抗原性が報告されています。
ラテックスーフルーツ症候群
ラテックス(天然ゴム)アレルギーを持つ人は、果物を食べることで症状が起こることがあります。
症状は口がピリピリする症状から、場合によっては重度な症状となる場合もあります。バナナ、キウイ、アボカド、クリとそれらの加工品による症例が報告されています5)。
納豆アレルギーを持つ人は、意外なことにマリンスポーツ愛好家の患者さんに見られることが多く、納豆の粘り気の成分がクラゲの触手にも存在する(交差抗原性がある)ことから、クラゲに刺されたこととの関連性も報告されています12)。
アナフィラキシーとは、アレルゲンなどの侵入により、複数の臓器において、全身にわたりアレルギー反応が起こっている状態で生命に危機を与えうる過敏反応を意味します。
アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴うと、「アナフィラキシーショック」といわれる、大変危険な状態となります1)。
アレルゲンとの接触の後2時間以内に症状が現れる「即時型」と、それ以降にまれに現れる「遅発型」があります2)。また、特殊なケースで「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」などもあります。
ピーナッツ、ナッツ類、甲殻類の食物アレルギーのほか、ハチ毒やラテックス(天然ゴム)アレルギーなど、アナフィラキシーが起こることの多いアレルギーと診断されている場合や、いままでアナフィラキシーを起こしたことがある場合、そのことを学校などの関係者に必ず伝え、緊急時のことを相談しておきましょう3)。
また、薬の処方や予防注射、歯科を受ける際は、アレルギーがあることを必ず医師に伝えてください2)。
アレルギー症状が、ほぼ同時に全身の臓器に現れます。皮膚・粘膜症状は必ず起こります。
口内の違和感、唇や手足のしびれ、じんま疹、顔色が真っ青になった後全身が紅潮、全身のむくみ、唇の腫れ、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、血便、せき、ぜーぜー苦しくなる、息苦しさ、のどの詰まり、胸痛、動機、不整脈、めまい、頭痛
アナフィラキシーが起こると、短時間のうちにショックに陥る危険性があります。循環器に症状が起こったら危険な兆候なので、その前の呼吸器症状の出現時点での対応が大切です。
血圧低下、失禁、意識がない、けいれん
アナフィラキシーが起こる原因には、食物、ハチ毒、医薬品、手術関連、ラテックス(天然ゴム)などがあります1) 。
原因食物を食べたあとに運動することによってアナフィラキシーが誘発される病態があります。原因食物を食べてから2時間以内に誘発されることが多く、運動以外でも入浴や成人の場合は疲れ、NSAIDsの服用、飲酒などの複数の要因が合わさることでアレルギー症状がおこりやすくなると言われています。これを「食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:food-dependent-exercise-induced anaphylaxis)」といい、小麦が関連する場合は「小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA:wheat-dependent-exercise-induced anaphylaxis)」と呼びます。食物の摂取だけ、もしくは、運動しただけではアレルギー症状は起こりません。
原因食物の摂取と運動などの複数の要因で症状が引き起こされるため、必ずしも症状が引き起こされるとは限りません。問診と血液検査あるいは、皮膚プリックテストから原因食物を絞り込み、誘発試験(特定の食物を食べた後に運動負荷をかけて症状が起こるかどうかをみる試験)が行われますが、再現性は必ずしも高くないため診断が難しいといわれています。
WDEIAの診断には、『小麦』『グルテン』だけでなく、小麦の成分『ω-5グリアジン』の血液検査の結果も参考になります。特に成人の場合には、『ω-5グリアジン』の血液検査で90%以上が陽性となると報告されています。確定診断は、医師のもと血液検査の結果だけでなく食物経口負荷試験や誘発試験をもとにおこなわれます。
アレルギー性鼻炎と感染症には共通の症状もあります
小さなお子さんは、自分で症状を訴えることが難しいです。こんなしぐさや症状は、アレルギー性鼻炎に関連しているかもしれません3)。
ウイルスがついた手で目鼻をこすったり触ったりした場合にもウイルス感染する可能性があります2)。
くしゃみ1回で発生する飛沫の量は咳の10倍以上。アレルギー性鼻炎にウイルス感染が加わると周りへの感染拡大のリスクになってしまいます。
など
アレルギーの受診と検査について詳しくはこちら
アレルギーかも?と思ったら医師に相談しましょう。
日本アレルギー学会運営サイトにて、全国の拠点病院やアレルギー専門医を検索できます。
1) 日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン」, 2014 (最終閲覧日:2019年09月23日)
https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/guideline_slide.pdf
2) 海老澤元宏監修.子どものアレルギーのすべてがわかる本.講談社.2016;64-65.
3) 海老澤元宏監修.食物アレルギーのすべてがわかる本.講談社.2016;91.
4) 海老澤元宏監修.食物アレルギーのすべてがわかる本.講談社.2016;24-25.
5) 東田有智監修.アレルギー総合ガイドライン2019.協和企画. 2019;565-567.
6) 一般社団法人日本アレルギー学会ホームページ(最終閲覧日:2019年09月24日)https://www.jsa-pr.jp/html/knowledge.html
7) 海老澤元宏監修.子どものアレルギーのすべてがわかる本.講談社.2016;68.
8) 日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会・海老澤元宏・伊藤浩明・藤澤隆夫監修.食物アレルギー診療ガイドライン2021.協和企画.
9) 厚生労働省科学研究班による食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017.海老澤元宏研究;p17 (最終閲覧日:2019年09月26日)
https://www.foodallergy.jp/wp-content/themes/foodallergy/pdf/nutritionalmanual2017.pdf
10) 海老澤元宏編.症例を通して学ぶ食物アレルギーのすべて改訂2版.南山堂.2018;238-239.
11) 独立行政法人国民生活センターホームページ(最終閲覧日:2019年09月26日)http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20131205_1.pdf
12) 猪又直子. 特集/経皮感作からとらえる皮膚疾患 クラゲ刺傷と納豆アレルギー.MB Derma.2016;49-54.
本ウェブサイトの監修医のご紹介、ご担当ページの詳細はこちら
独立行政法人国立病院機構 相模原病院
臨床研究センター センター長
海老澤元宏先生
広島市立広島市民病院 病院長/
広島大学病院 特別顧問
秀道広 先生
アレルギーセンター長
中村陽一 先生
准教授・部長
後藤穣 先生