分子生物学実験には必ずといっていいほど使われる1.5mLチューブですが、実はどれも同じではありません。製品によってはターゲットの分子を吸着してしまい、感度の低下や直線性の低下を招くこともあります。チューブ製品を変更するだけで実験結果に大きく影響してくるケースもあります。今回は、チューブ製品の違いによりどのような影響が表れるか、DNA分子のチューブへの吸着についてリアルタイムPCRを用いて検証しました!
材料
試薬・サンプル
- HeLa cDNA (1ng/uL)
- TaqMan Fast Advanced Master Mix
- TaqMan Assay β-catenin (Assay ID # Hs00170025_m1)
検証した1.5mL tube
- メーカーの異なるチューブ製品A、B、Cの3種類
方法
- 検量線サンプルとしてHeLa cDNA (1ng/uL)から2倍希釈、5段階の希釈系列を作成した。その際にA、B、Cの各チューブにて作成した。
- ボルテックスによる混合は約5秒で統一し、ボルテックス後はスピンダウンを行った。
- 段階希釈系列を作成した後、マスターミックス, TaqMan Assayと混合し、20 uL/wellをn=2でプレートに分注した。
- StepOne/StepOnePlus リアルタイムPCRシステムを使用して測定した。
結果
チューブへのDNAの吸着を評価するため、すべて同じサンプル・試薬を用いて、段階希釈サンプルを作成しました。異なるのは調製に使用したチューブのみです。この段階希釈系列サンプルを用いてリアルタイムPCRを行ったところ、すべてのチューブおよび希釈段階において明瞭な増幅曲線が得られました(図1)。ただしチューブ製品Cにおいては、等しくなるはずの増幅曲線同士の間隔がよく見ると少しずつ広がってきているように見えます。
段階希釈サンプルからは希釈倍率とCT値を用いて検量線を作成できます。検量線から求められるPCR効率(Eff%)は、チューブ製品Cにおいて、チューブ製品A(96.296%)、B(93.669%)に比べ顕著に低い値(73.173%)となりました。特に低濃度の希釈段階において、CT値の増加(つまり検出感度の低下)が見られ、これがPCR効率に影響していると思われます。
次に、ボルテックスによる混合時間の影響について検証しました。影響が現れやすいよう、125 pg/wellの低濃度サンプルにて実施しました。ボルテックスは、機器最大出力にて1秒、5秒、20秒で行いました。
その結果、チューブ製品A、Bではボルテックス時間の影響は見られませんでしたが、チューブ製品Cではボルテックス時間が長くなるほど、CT値が増加することがわかりました(図2)。ボルテックス時間が1秒と20秒ではCT値の差がおよそ0.6となり、これは定量値にしておよそ1.5倍の差(2の0.6乗)となります。
一方で、ボルテックス時間が1秒だとしても、テクニカルレプリケートのばらつきは見られず、十分に混合が行えていることが確認できました。
考察
今回、チューブへのDNA分子の吸着をリアルタイムPCRにより検証しました。高濃度サンプルの場合では影響は見られませんでしたが、pgオーダー以下の低濃度サンプルではDNA分子の吸着が顕著に現れるチューブ製品があり、PCR効率が著しく低下しました。高濃度のサンプルでも吸着は起こっていますが、その影響が現れにくいものと考えられます。
また、ボルテックスのかけすぎも吸着を助長することが分かりました。サンプルの混合が不十分であるとばらつきの原因につながりますが、しっかり混合しようとしてボルテックスをかけすぎると逆効果となります。今回の検証からは、ボルテックスによる混合は最大出力であれば1秒程度で十分であることもわかりました。
まとめ
いかがでしょうか?
同じように見える1.5mLチューブですが、種類によっては特に低濃度サンプルで低パフォーマンスになっていることがあります。
どうしても直線性の高い検量線が得られない、低濃度サンプルで増幅が遅れてしまう、このようなことでお困りの場合、原因はチューブにあるかもしれません!
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