【簡単解説!】バイスペシフィック抗体精製の基礎とアフィニティ樹脂選択

導入 バイスペシフィック抗体(bispecific antibody、以下BsAb)は、2つの異なる抗原、またはエピトープを同時に認識できる次世代抗体医薬として、特にがん免疫療法を中心に開発が急速に進んでいます。

一方で、BsAbは分子設計の自由度が高い反面、以下の課題を伴います。
・重鎖・軽鎖の組み合わせが複雑
・構造的に類似した不純物が多数生成
そのため、「作ること(製造) 」よりも「きれいにすること(精製)」がボトルネックになるケースが少なくありません。

本記事では、なぜ従来の精製法では十分な対応が難しいのか、どのような考え方で樹脂を選択すべきかについて、
サーモフィッシャーサイエンティフィックの抗体精製向けアフィニティ樹脂を例に解説します。

このような方におすすめ!
・BsAbの精製検討・プロセス設計を担当されている方
・Protein Aキャプチャ後の不純物プロファイルに課題を感じている方
・抗体構造に基づいた精製戦略・樹脂選択の考え方を整理したい方

Protein A精製の限界を理解する

従来のモノクローナル抗体(mAb)では、Protein Aアフィニティクロマトグラフィーがキャプチャ工程の標準として広く使用されてきました。

しかし、BsAbにおいては、以下のような課題が顕在化します。

・ Fc領域が共通であるため、正しい抗体と誤った抗体が同時に結合してしまう
・ ミスペア体、過剰軽鎖、軽鎖ダイマーなどの分離が困難
・ 低pH溶出による分子安定性への影響リスク

つまり、Protein Aは「回収する」点では非常に優れていますが、“構造が正しい抗体のみを選択的に分離する”ことはできません。

注意事項: 抗体構造に基づく選択性を有するアフィニティ精製は、工程数の削減を通じて収率向上につながる可能性が示されています。

抗体構造に基づいて精製を考える

BsAb精製では、FcではなくFabや軽鎖、サブドメインの違いに着目することが重要です。
ここで重要となるのが、構造特異的アフィニティ樹脂です。
当社のThermo Scientific™ CaptureSelect™ テクノロジーは、
・ 単一ドメイン抗体(VHH)をリガンドとして使用
・ 分子サイズが小さく、隠れたエピトープにも結合可能
・ 高い選択性と安定性を両立
という特長を有しており、Protein Aでは対応が難しい抗体構造の違いを精製に生かすことが可能です。

図1:IgG抗体とVHH(単一ドメイン抗体)の構造比較図

図1:IgG抗体とVHH(単一ドメイン抗体)の構造比較図

BsAb精製で活躍するアフィニティ樹脂

CaptureSelect CH1-XL Affinity Matrix

Thermo Scientific™ C¥aptureSelect™ CH1-XL Affinity Matrix は、抗体のCH1ドメインに特異的に結合するアフィニティ樹脂です。
モノクローナル抗体のFc領域を含まないFab断片の精製において、第一選択肢として検討されます。また、BsAbなどでFc領域の構造的制約により、従来のProtein Aでは精製が困難な場合にも有効な選択肢となります。

特長
・ Fab構造を有する抗体および抗体断片を選択的に精製可能
・ 遊離軽鎖(free light chain)には結合しない高い特異性
・ 比較的温和なpH条件での溶出が可能

代表的な評価例
モノクローナル抗体Fab断片であるRanibizumab(Fab)を用いた検討では、単一工程で98%純度、86%回収率 を達成しています。

図2:CaptureSelect CH1-XL Affinity Matrix によるFab精製のSDS-PAGEおよびSEC解析

CaptureSelect CH1-XL Affinity Matrix を用いたFab精製の例を示しています。SDS-PAGEでは遊離軽鎖の共精製は確認されず、SEC解析においても高純度(98%)および高収率(86%)が確認されています。

CaptureSelect KappaXP Affinity Matrix
CaptureSelect LambdaXP Affinity Matrix

BsAbのκ鎖とλ鎖が混在する設計において、軽鎖のミスペアリングが課題となることがあります。Thermo Scientific™ CaptureSelect™ KappaXP Affinity MatrixおよびCaptureSelect™ LambdaXP Affinity Matrix は、それぞれκ軽鎖およびλ軽鎖に特異的に結合するアフィニティ樹脂であり、軽鎖タイプに基づく選択的な精製を可能にします。

・KappaXP:κ軽鎖特異的
・LambdaXP:λ軽鎖特異的

また、Fc領域の構造的な制約により従来のProtein Aでは十分な精製が困難な抗体に対しても、CaptureSelectシリーズは有効な代替手段となります。

特長
・軽鎖タイプ(κ/λ)に基づく選択的精製が可能
・高い動的結合容量(Dynamic Binding Capacity、DBC)
・温和なpH条件でシャープな溶出が可能
・軽鎖特異性および結合特性の違いを活用した、複雑な分子種の分離戦略への応用可能性

CaptureSelect FcXP Affinity Matrix
Thermo Scientific™ CaptureSelect™ FcXP Affinity Matrix は、CH3ドメインに特異的に結合するアフィニティ樹脂です。

特長
・Protein A結合性が低下または欠損した抗体への対応
・Fc-fusionタンパク質や一部BsAbへの有効性
・軽鎖ダイマー(light chain dimer)への非結合特性

まとめ

BsAb精製を検討する際には、以下の観点で整理するとプロセス設計の方向性が明確になります。

  1. 抗体構造を把握(Fab、軽鎖、Fcの違い)
  2. Protein A精製後に残存する不純物の想定
  3. 「構造差で分離可能か」を基準にアフィニティ樹脂を選択

重要なのは、「“アフィニティ精製=Protein A” という固定観念から一歩踏み出す」ことです。

構造特異的アフィニティ樹脂は、全体の回収率およびプロセスロバスト性の向上に寄与する、戦略的な選択肢として位置づけることが重要です。

さらに詳しく知りたい方へ
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