Fraunhofer FFBの電池イノベーションハブ 研究と産業をつなぐ架け橋

タイトル Fraunhofer FFBの電池イノベーションハブ 研究と産業をつなぐ架け橋
欧州における電池の未来を探る
Fraunhofer FFBプロセスエンジニアリング・グループリーダー
Dr. Kristina Borzutzki氏へのインタビュー

原文(英語・2024年公開):Fraunhofer FFB’s battery innovation hub-bridging research and industry
著者: Pam Poulin(Market Development Manager, Thermo Fisher Scientific)
インタビュアー: Dr. Julian Renpenning(Scientific Marketer and Consultant, Battery-Tech Network | Creative Marketing)

ドイツ・ミュンスターに拠点を置くFraunhofer電池セル生産研究機関

ドイツ・ミュンスターに拠点を置くFraunhofer電池セル生産研究機関(Fraunhofer Research Institution for Battery Cell Production FFB:Fraunhofer FFB)は、電池セル製造技術の発展に特化した研究機関です。ドイツ連邦政府およびノルトライン=ヴェストファーレン州から多額の資金提供を受けており、ドイツおよび欧州を電池セル技術のリーダーとして確立することを目指しています。
Fraunhofer研究機構、RWTH Aachen大学、Münster大学、Jülich研究センターと連携しながら、Fraunhofer FFBは研究と大規模生産の間に存在するギャップを埋める役割を担っています。本インタビューでは、プロセスエンジニアリングのグループリーダーであるDr. Kristina Borzutzki氏に、新設されたFraunhoferの電池研究工場と、電池技術の発展におけるご自身の役割についてお話を伺いました。

Fraunhofer電池セル生産研究機関FFBについて、またドイツの研究において果たしている役割について教えてください。

Fraunhofer FFBは新しい組織ではありますが、ドイツの電池技術分野において重要な役割を担っています。私たちの本質的な役割は、研究室レベルの研究と産業規模の生産をつなぐ架け橋となることです。
有望な新材料や新プロセスが研究室で成果を示した際、それらをどのようにして大規模な産業生産へとスケールアップできるのかを検討することが、私たちの主な使命です。これには、先端技術開発、プロセス最適化、さらには認証プロセスまで、幅広い領域が含まれます。
当機関の研究範囲は、新材料研究、革新的な計測技術、セル設計の高度化に及びます。また、持続可能性への取り組み、顧客仕様や用途要件に応じた柔軟なセルアーキテクチャー、そしてセル性能指標の向上にも注力しています。要するに、私たちはドイツの電池技術および持続可能なエネルギー貯蔵ソリューションの能力向上を加速させているのです。

Fraunhoferが新たにミュンスターに開設した「FFB PreFab」オープン型電池セル工場の意義について教えてください。

「FFB PreFab」は、電池製造における革新的アプローチを導出するための重要なインキュベーターです。6,450平方メートルの施設には、欧州製の最新設備が導入されています。
しかし、この施設の真の価値は、研究開発向けのオープンな電池セル工場としての役割にあります。ここでは新しい製造プロセスの検証、装置設計の実験、新材料の評価を行うことが可能です。このアプローチにより、特に電池分野への参入を目指す装置メーカーなど、新規企業にとって大きな機会が生まれます。
また、スケールアップに不可欠なパイロット規模での生産試験も実施できます。集中的な研究開発の場を提供するだけでなく、企業が複雑な分野を乗り越えるための産業コンサルティングや、専門人材育成のためのトレーニングプログラムも提供しています。「FFB PreFab」は、電池研究における大きな前進だと考えています。

FFB PreFabの最新設備

研究室レベルの研究と産業生産の間のギャップを、どのように埋めているのでしょうか。

私たちの中心的な取り組みは、「スケーリング研究(scaling research)」と呼んでいるものです。これは、研究室での革新と実際の産業導入との間を橋渡しすることに特化したアプローチです。
研究成果が制御された実験環境から、実際の量産環境へ移行する際の実現可能性やスケーラビリティを評価します。産業条件を再現できる設備とインフラを備えているため、大規模生産になって初めて顕在化する課題や問題点を早期に特定できます。
研究機関および産業界の双方と緊密に連携し、実行可能な知見や具体的な提言を提供することを目指しています。研究成果を商業的に成立する形へと転換し、研究から市場への移行を加速させることが私たちの使命です。

欧州では電池生産需要が急速に拡大していますが、Fraunhofer FFBはどのように対応していますか。

私たちは複数の観点からこの課題に取り組んでいます。市場の成長を支えるため、新規参入企業の支援を重要な戦略の一つとしています。従来は電池生産に関わってこなかった装置メーカー、材料サプライヤー、センサーメーカーなどが市場に参入できるよう、知識と支援を提供しています。
また、ドイツのみならず欧州全体で 熟練人材の不足が深刻な課題となっています。この問題に対応するため、電池分野に特化した幅広いトレーニングプログラムを開発しました。理論だけでなく、実際の生産設備を用いた実践的な教育を行っています。
新規企業の参入支援と人材育成という二つのアプローチによって、欧州における電池生産の成長と将来への備えを同時に進めています。

ご自身の役割と、新たに率いている若手研究グループについて教えてください。

私はFraunhofer FFBにおいて、プロセスエンジニアリングのグループマネージャーを務めています。電池生産プロセス全体にわたる最適化が主な役割です。
重要なのは、私たちが学際的な枠組みで活動している点です。製造、品質保証、セル設計、材料研究、サステナビリティ、デジタル化、技術マネジメントなど、多様な部門と連携しています。この統合的なアプローチによって、プロセスおよび製品の包括的な分析と最適化を推進しています。
さらに、ドイツ連邦教育研究省(BMBF)から若手研究グループ設立のための資金を獲得しました。これは私にとって大きな節目であり、電極生産における革新により深く取り組むことが可能になりました。電極はエネルギー貯蔵の中核であり、ここでの改善は性能と生産効率の両面に大きな影響を与えます。

Fraunhofer FFBの電池生産プロセス

研究グループでは、電池バリューチェーンのどの領域に注力していますか。

主に電極生産における技術革新に注力しています。毒性物質の削減やエネルギー消費低減を目指し、より持続可能な製造方法を追求しています。
また、プロセスと製品の関係性を理解するため、生産中に起こる現象を詳細に解析しています。この知見は、現在のプロセス改善だけでなく、将来的なナトリウムイオン電池など新材料への迅速な対応にも役立ちます。

持続可能性や環境配慮については、どのように取り組んでいますか。

パートナーと連携したリサイクルの取り組みを重視し、材料を効率的に再利用できるよう研究開発を進めています。廃棄物削減や資源消費の低減といった持続可能な製造プロセスも重要なテーマです。
さらに、施設を稼働させるためのグリーンエネルギー活用にも投資しており、より持続可能なセル化学の開発にも取り組んでいます。

現在、特に注力している電池の化学系や材料はありますか。また、その理由を教えてください。

現在は、リチウムイオン電池に注力しており、具体的には、グラファイト系またはシリコン系の負極と、LFP(リン酸鉄リチウム)またはNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)正極を組み合わせた電池を対象としています。これらは、スマートフォンから電気自動車に至るまで、現在の電池産業を支えている中核的な技術です。

私たちがこれらの材料に重点を置いている理由は、現時点で最も商業的に重要性が高いためです。これらの電池の製造プロセスを改善することで、電池産業全体の効率性と持続可能性に対して、即効性のあるインパクトを与えることができます。

今後を見据えると、ナトリウムイオン電池(Naイオン電池)にも取り組む準備を進めています。ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池に代わる有望な選択肢であり、コスト低減や、より豊富に存在する材料の活用といった利点が期待されています。現時点では商業的に主流ではありませんが、将来のエネルギー貯蔵分野において重要な役割を果たす可能性があると考えています。

Fraunhofer FFBの独自インフラについて教えてください。

Fraunhofer FFBの「FFB PreFab」施設には、非常に特徴的な設備が整っており、特にイノベーションモジュールが大きな特長です。これらは、パートナー企業が自社の装置を設置するために利用できる専用スペースであり、実際の生産チェーン全体の文脈の中で、自社技術を検証することが可能です。

このような施設は非常にユニークであり、企業はフルスケールの生産設備を自ら構築するための多額の投資を行うことなく、現実的な生産環境の中で自社技術を評価することができます。

さらに、今後稼働予定の「FFB Fab」施設では、さまざまなセルフォーマットに対応し、異なるスケールでのセル生産が可能となります。この柔軟性は極めて重要であり、試作段階から産業規模生産に至るまで、さまざまなスケールアップ段階を再現できることを意味します。小規模プロトタイプから本格的な産業生産までを模擬できるインフラを備えることで、研究開発と実用化の橋渡しをさらに強化していくことができます。

Fraunhofer FFBのイノベーションモジュール

Fraunhofer FFBと協業している主なパートナーや共同研究機関について教えてください。

Fraunhofer FFBでは、学術機関および産業界の双方において、非常に多様なパートナーネットワークを構築しています。研究分野においては、ドイツ国内および欧州各地のさまざまな研究機関と連携しています。こうした学術的なつながりにより、電池科学の最前線に立ち続けることができると同時に、基礎研究と実用的な応用との間に存在するギャップを埋めることが可能になります。
一方で、産業界とのパートナーシップはさらに多様かつ国際的です。具体的には、以下のような企業と協力しています。

・OEM
・材料サプライヤー
・システムおよびデバイスメーカー
・センサーメーカー
・ソフトウエア企業

それぞれのパートナーは、材料科学、製造プロセス、品質管理、データマネジメントなど、異なる専門性を持っています。こうした学術機関と産業界の多様なプレーヤーを結集することで、協調的なエコシステムを構築しています。これにより、課題を多角的に捉えることが可能となり、革新的なアイデアを実用的かつ商業的に成立するソリューションへと迅速に転換することができます。

Fraunhofer FFBにおける研究や協業は、将来の電池技術の発展にどのように貢献していくとお考えですか。

私たちは、電池イノベーションチェーンにおける重要な結節点としての役割を担うことを目指しています。私たちの研究、協業、プロジェクトは、複雑なパズルの一片一片のようなものであり、それらが組み合わさることで、イノベーションの開発、スケールアップ、市場投入が可能になります。
Fraunhofer FFBの役割は、主にイノベーションの促進者およびアクセラレーターであると考えています。研究室レベルの研究と産業規模の生産との間にあるギャップを埋めることで、有望なアイデアを市場性のあるソリューションへと変換するプロセスを加速させています。

今後5~10年の間に、どのような電池技術のブレークスルーや進展が期待されるとお考えですか。

イノベーションから産業応用に至る道のりは複雑で時間を要するため、特定のブレークスルーを予測することは容易ではありません。研究室レベルで有望に見える技術が、スケールアップ時の想定外の課題によって、大規模生産に適さないケースも少なくありません。
とはいえ、「高性能かつ持続可能な新しいセル化学系」や「資源効率を高める技術」といった分野では、非常に興味深い進展が見られます。これらの多くは現在開発中のパイプラインであり、中には互いに競合する技術も存在します。どの技術が新たな標準となるかを断定することは難しいものの、今後10年以内に、いくつかの技術が産業レベルで実用化されると考えています。
Fraunhofer FFBでは、特定の技術に固執することなく、競合する技術も含めて幅広く評価を行っています。私たちの目標は、産業規模で最も実現可能性の高い技術が現れた際に、それを的確に支援できる体制を整えておくことです。

まとめ

当社では、Fraunhofer FFBをはじめとする電池領域のプレーヤーに対するインタビュー(英語)や、電池研究・製造に関連する科学分析のアプリケーションノート(ダウンロードフォーム)を公開しております。ぜひ電池関連分析の情報収集にご活用ください。

記事へのご意見・ご感想お待ちしています

  • サーモフィッシャーサイエンティフィックジャパングループ各社は取得した個人情報を弊社の個人情報保護方針に従い利用し、安全かつ適切に管理します。取得した個人情報は、グループ各社が実施するセミナーに関するご連絡、および製品/サービス情報等のご案内のために利用させていただき、その他の目的では利用しません。詳細は個人情報の取扱いについてをご確認ください。
  • 送信の際には、このページに記載のすべての注意事項に同意いただいたものとみなされます。