原文(英語):BTRY’s solid state battery technology and its potential in and energy storage for electric vehicles
著者:Pam Poulin(Market Development Manager, Thermo Fisher Scientific)
インタビュアー:Dr. Julian Renpenning(Scientific Marketer and Consultant, Battery-Tech Network | Creative Marketing)

BTRY社は、スイス・デューベンドルフに拠点を置く革新的なスタートアップ企業であり、エネルギー貯蔵技術の在り方を再定義しています。EMPA(スイス連邦材料試験研究所)およびETH Zurich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)からのスピンオフとして設立されたBTRYは、持続可能性、カスタマイズ性、そして極めて高速な充電特性を兼ね備えた次世代全固体電池技術を開発しています。
同社は、エネルギー貯蔵ソリューションの進展に情熱を注ぐ物理学者でありCEOのMoritz Futscher博士と、電池用途向け新材料開発に豊富な経験を持つ化学者でCTOのAbdessalem Aribia博士によって創業されました。両名は、高度な半導体製造技術を活用し、高エネルギー密度を実現する全固体電池の開発というBTRY社のビジョンをけん引しています。
本インタビューでは、薄膜全固体電池セルを積層するというBTRY社独自のアプローチにより、高速充電、高エネルギー貯蔵、用途に応じたカスタマイズ性をどのように実現しているのかという点について、Moritz Futscher博士にお話を伺いました。
BTRY設立の背景と、EMPAおよびETHチューリッヒとの関係について教えてください。
BTRYの設立は、EMPAおよびETHチューリッヒと密接に関係しています。創業メンバーは全員、ETHに関連する研究機関であるEMPAの同一研究室で研究を行ってきました。また、共同創業者の一人は最近ETHチューリッヒにて博士号を取得しています。
この研究室、特に薄膜および太陽電池研究所内の薄膜電池グループでは、10年以上にわたり、薄膜電池、とりわけ新材料に焦点を当てた研究開発が行われてきました。研究を進める中で、これらの電池が研究室レベルで非常に優れた性能を示すこと、さらに産業界からの関心が高まっていることが明らかになり、スタートアップとしての挑戦を開始する決断に至りました。
BTRYとはどのような企業だとお考えですか?また、その原動力となっているものは何でしょうか?
BTRYは、1分で再充電可能な、持続可能かつ高信頼性の全固体リチウムイオン電池を商業化することを目指しています。最大の特長は、半導体産業由来の製造プロセスにあります。半導体分野は、歴史的にヨーロッパが強みを有してきた領域です。
技術がもたらす持続可能性への貢献、そして研究室で生まれたイノベーションを市場へと届け、新たな用途を可能にすることが私たちの原動力です。また、ゼロから企業を立ち上げ、最初から適切な価値観とチーム文化を構築できる点にも大きな魅力を感じています。
貴社の全固体電池技術について大変関心を持っています。薄膜セルを積層する手法と、それによってエネルギー貯蔵性能および充電時間がどのように向上するのかについてご説明いただけますでしょうか?
薄膜電池は1980年代から存在しており、非常に高い耐久性、優れたサイクル寿命、高速充電特性を備えています。一方で、非常に薄く、厚い基板上に形成されることが多いため、エネルギー密度が低いという課題がありました。
BTRYの技術では、薄い基板上に複数の薄膜セルを積層することで、薄膜電池の利点を維持しながら、従来のリチウムイオン電池と同等のエネルギー密度を実現しています。
従来型のリチウム電池と比較した場合、貴社の全固体電池にはどのような主な利点がありますか?
BTRYの全固体電池は、可燃性の有機液体電解質を使用しないため、安全性の向上が期待されています。また、層構造が非常に薄いことから、高速充電や高出力用途に適しており、氷点下から沸点を超える温度領域まで安定した動作が可能です。さらに、薄膜電池は現在の電池と比較して長いサイクル寿命を示します。

貴社の電池セル製造プロセスでは真空技術が用いられていると伺っていますが、その仕組みと、なぜそれがより持続可能であるのかについてご説明いただけますでしょうか?
BTRYの製造プロセスは、半導体産業で確立された真空技術を基盤としています。これらのプロセスは高いスケーラビリティを有しており、建築用ガラスのコーティングなどにも応用されています。
製造工程では液体溶媒を使用しないため、毒性物質の使用や高エネルギー消費を伴う溶媒回収工程が不要となります。加えて、主なエネルギー投入は(熱ではなく)電力であり、再生可能エネルギーの利用が可能です。
BTRYの全固体電池は主にどのような用途で活用されていますか。また、特に大きな効果を発揮している産業分野やアプリケーションはありますでしょうか。
当社の電池セルは、ロボットやドローンから医療用インプラントに至るまで、さまざまなデバイスにおいて、稼働停止時間の短縮に貢献するとともに、高エネルギー密度や広い温度範囲での動作が求められる新たな用途の実現を可能にします。
現在は、エッジコンピューティングをはじめとするIoTアプリケーションに注力しています。当社の全固体電池は、必要な容量要件を満たすとともに、高出力パルスを提供し、さらに優れた温度安定性を備えています。
長期的には、当社の高速充電可能な電池を民生用電子機器へ展開し、頻繁な充電の必要性を低減することを目指しています。
サイズやエネルギー容量、その他の特性の面で、どの程度の柔軟性がありますか。また、用途に応じて電池をカスタマイズすることは可能でしょうか。
はい。当社の電池は非常に高いカスタマイズ性を備えています。形状および出力特性の双方について、用途に応じて柔軟に調整することが可能です。例えば、高出力が求められる場合にはそのように最適化し、高容量が必要な場合にも対応することができます。
さらに重要な点として、これらの調整は同一の製造装置を用いたまま実現可能という特長があります。今後は、生産ライン自体をより柔軟なものとし、顧客のニーズに応じて多様なセルタイプを製造できる体制を構築していく予定です。
当社のアプローチの本質は、柔軟性を確保しながら、それぞれの用途に最適化された電池を提供することにあります。
持続可能性についてお伺いします。溶媒を使用しない貴社の電池製造プロセスは、環境にどのような貢献をもたらしているのでしょうか。
当社の真空ベースの製造プロセスは、従来の製造方法と比較して、環境面において大きな利点を有しています。一般的に、電池製造では「高懸念物質(Substances of Very High Concern)」に分類される溶媒が使用されています。これらの溶媒は、生殖に対する健康リスクを有しており、胎児にも有害となる可能性があります。
さらに、これらの溶媒を蒸発させて回収する工程は、電池製造において最もエネルギー消費の大きい工程の一つであり、全体の環境負荷を大きく増加させる要因となっています。
当社のプロセスでは、これらの溶媒を不要とすることで、二つの重要な効果を実現しています。第一に、これらの物質への暴露に伴う健康リスクを低減できる点です。第二に、製造時のエネルギー消費を大幅に削減できる点です。
このアプローチにより、当社の製造プロセスは、安全性の向上だけでなく、環境負荷の低減にも大きく貢献しています。

製造プロセス以外において、エネルギー効率の向上や環境負荷低減のために、どのような取り組みを行っていらっしゃいますか。
経済的および環境的な観点から、当社では生産プロセスのエネルギー効率を最大限に高めるため、継続的な改善に取り組んでいます。その一環として、風力や太陽光などの低炭素電源から電力を調達するための再生可能エネルギー電力購入契約(Power Purchase Agreements:PPA)の導入を検討しています。
さらに、当社の製造プロセスは材料効率にも優れており、廃棄物の発生を最小限に抑えています。加えて、プロセス全体を通じて原材料が乾燥状態かつ分離された状態で維持されるため、発生した廃棄物も容易にリサイクルすることが可能です。これにより、材料の再利用を効果的に進め、環境負荷のさらなる低減を実現しています。
最後に、当社にとって非常に重要な要素の一つが電池の長寿命です。当社の電池は、従来の電池と比較して最大で10倍の充放電サイクルに耐えることができ、より長期間の使用が可能です。この長寿命化により、電池の交換頻度が大幅に低減され、製造および廃棄に伴う環境負荷を大きく削減することができます。
貴社のチームは物理学および化学の分野で強い専門性をお持ちですが、その知見は貴社におけるイノベーションをどのように推進しているのでしょうか。
Abdessalemと私は、化学および物理学の双方の分野で訓練を受けた材料科学者です。EMPAにおいては、正極、負極、そして固体セパレーターといった電池の全ての構成要素に携わり、電池用途に向けた新規材料および改良材料の開発に取り組んできました。
こうした専門性が、当社のスケールアッププロセスを強力に支えています。私たちは新たな装置を開発するのではなく、既存の半導体産業向け標準装置で使用可能な材料へと適応させることに注力しています。
このアプローチにより、産業規模の設備を用いた生産が可能となり、迅速な事業拡大を実現しています。
現在開発されている技術をさらに発展させるために、産業パートナーや他の電池研究機関とはどのように連携されていますか。
当社はEMPAと継続的なパートナーシップを構築しており、個人助成金およびGebert Rüf Foundationからの資金支援を受けています。この連携により、研究グループと密接に協働しながら、電池の製造および特性評価において世界トップレベルの設備を活用することが可能となっています。
また、産業界との連携においても着実に進展しています。現在、装置メーカーとの共同開発に取り組んでおり、生産のさらなるスケールアップを進めています。
このように、学術的な連携と産業パートナーシップの双方を通じて、当社は複数の側面から技術開発を前進させています。
今後を見据えた際に、全固体電池の開発および商業化における最大の課題は何だとお考えでしょうか。
当社が直面している主な課題の一つは、真空技術が一般的に高コストであると認識されている点です。そのため、これをコスト効率よくスケールアップできることを実証することに取り組んでおり、今後2年以内にパイロット生産体制を確立する計画です。
また、当社の電池を必要とする適切なパートナーの開拓にも注力しています。私たちは顧客中心のアプローチを採用しており、顧客のニーズに直接対応する形で開発を進めるとともに、パイロットラインを活用して、顧客向けにスケール生産を行うことを目指しています。
まとめ
サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、BTRY社をはじめとする電池領域のスタートアップインタビュー(英語)や、電池研究・製造に関連する科学分析のアプリケーションノート(ダウンロードフォーム)を公開しております。ぜひ電池関連分析の情報収集にご活用ください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。



