サンプル管理の効率化と正確性の向上は、ラボ運営における重要な課題のひとつです。従来の手書きやラベル貼付による管理方法では、ヒューマンエラーやラベルの劣化による問題が頻繁に発生します。そこで今回は、サンプル管理に便利な消耗品である二次元コード付きチューブについて詳しく説明し、その利点や具体的な使用例を紹介します。二次元コード付きチューブを利用することで、サンプル情報をデジタル化し、管理プロセスのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、効率的かつ正確なサンプル管理が実現できます。
▼こんな方におすすめです
ラボの管理者の方
大学や企業の研究者の方
バイオバンクの運営者の方
臨床試験に従事する方
ラボのIT担当者の方
▼もくじ
二次元コード付きチューブとは?
二次元コード付きチューブとは、チューブの底面に二次元コードが付いたサンプル保存用チューブです。このチューブを用いることで、サンプルに関する情報をデジタル化し、効率的かつ正確に管理することが可能となります。
従来のサンプル管理では、チューブにマーカーで情報を書き込んだり、ラベルを貼ったりする方法が一般的でした。しかし、これらの方法では、文字が消えて判読できなくなったり、ラベルの貼り間違いなどのヒューマンエラーのリスクがありました。また、超低温フリーザーや液体窒素での凍結保存環境下では、ラベルの接着力が低下し、はがれるリスクが増します。その結果、どのようなサンプルか確認できなくなったり、サンプルが行方不明になったりするケースがしばしば報告されています。
二次元コードをサンプル情報や保管位置情報などとソフトウエア上でひもづけることにより、効率的なサンプル管理が可能になります。近年では、フリーザーのドア開閉状況、輸送中の温度ログ、オペレーターの入出庫作業履歴などの情報もリンクさせて、高度なサンプル管理を行う施設が増えています。
二次元コードとは?
二次元コードは、縦横の二次元方向に情報を持つコードです。
バーコードは情報を一方向にしか持ちませんが、二次元コードは縦と横の二方向(2次元)に情報を持つことができます。そのため、バーコードが数十文字程度の情報量しか持てないのに対し、二次元コードはその数倍から数百倍の情報を格納できます。また、同じ情報量であれば、二次元コードはより小さな面積に収めることが可能です。代表的なものにQRコード™やDataMatrixコードがあります。

図1. バーコード(左)と二次元コード(右)
二次元コード付きチューブの特長
1. チューブの形状
- スクリュートップ式:スクリューキャップでキャッピングします。インナーキャップとアウターキャップの2種類があり、樹脂製キャップよりも気密性が高いため、サンプルの長期保存や輸送に適しています。
- オープントップ式:セプタムキャップ※などの樹脂製キャップでキャッピングします。バリエーションが豊富で、用途に応じて選択可能です。スクリュートップ式よりも安価で、キャップの取り外しが容易です。
※一般的に、中央に穴の開いた、またはピペットチップやニードルの先端で突き破る(ピアシング)ために中央が薄くなっている構造の樹脂製キャップをセプタムキャップといいます。キャップを外さずサンプリングできるため、作業効率を重視するラボではセプタムキャップが広く採用されています。

図3. スクリュートップ式(左)とオープントップ式(右)
2. キャップの形状
- 内ネジ式(インナーキャップタイプ):キャップの内側にネジがあり、チューブ内側のネジ溝とぴったり合うようになっています。キャップには弾力性のあるガスケット(Oリングなど)があり、これがチューブの口と密着します。これにより、キャップを締めるとガスケットが圧縮されて気密性を確保し、漏れを防ぎます。
- 外ネジ式(アウターキャップタイプ):キャップの外側にネジがあります。このネジはチューブの口の外側にあるネジ溝とぴったり合います。ネジの露出がないので、内ネジ式と比べるとネジにサンプルが触れにくいのでサンプル飛散やコンタミネーションのリスクが低減されます。

図4. 内ネジ式(左)と外ネジ式(右)
3. チューブの容量
少量サンプルやライブラリの保存に適した200 µLサイズから、よく使われる0.5 mL、1 mL、2 mL、5 mLサイズや種子や植物の保存に便利な15 mLサイズなど、さまざまなサイズが市販されています。チューブサイズとそのチューブのワーキングボリュームはしばしば異なります(例:2 mLチューブと謳われるチューブのワーキングボリュームは1.8 mLである、など)。チューブの選定時には気を付けましょう。
二次元コード付きチューブの収納ラック
二次元コード付きチューブは通常、専用ラックに装填された状態で供給されます。
これらのラックはANSI/SBS規格※に準拠しており、ラックのフットプリントやチューブ位置はマイクロプレートのウェルと同じ配置です。これにより、マルチチャンネルピペットでのアクセスが容易になり、保管前の分注や出庫後のマイクロプレートへの移し替えなどの前処理・後処理が効率的に行えます。また、ロボットによる運用も容易で、オートメーションに適した設計です。
ラックは裏面からチューブの二次元コードを一括で読み取れる構造になっており、専用のラック対応スキャナーを使用することで、チューブの入出庫管理やラックの空きスペース管理の時間を短縮し、効率的かつスムーズに運用・管理ができます。
※アメリカ国家規格協会(ANSI)と自動分析器協会(SBS)によって策定された、マイクロプレートやラボウエアの標準規格です。

図5. バーコード付きラックの一例
ラックにはユニークなIDが付与されており、このIDは3種類のコード(目視可能文字・バーコード・二次元コード)で表示されています(印字またはレーザーエッチング)
チューブの二次元コードとラックIDをリンクさせることで、サンプルの保管場所を特定できます
全てのラックは同じフットプリントを持ち、狭い庫内に効率よく収納できます
Thermo Scientific 二次元コード付きチューブ
当社の二次元コード付きチューブは、長期保存に必要な高いパフォーマンスと耐久性を兼ね備えています。これらのチューブは、超低温温度帯などの過酷な保存条件下でもサンプルを安全に保護し、その品質を維持するために設計されています。
Thermo Scientific™ Matrix™ 2Dチューブには、世界中で利用されているDataMatrixコードを2Dコードとして採用しています。これらのコードは8~12桁(製品によって異なります)で、出荷時にコードの重複がないよう厳密に管理されています。これにより、お客さまにお届けする二次元コード付きチューブのコードは完全にユニークであることが保証され、同施設内のサンプル管理、トラッキングだけでなく、施設間でサンプルが行き来する場合においても重複なくトラッキングができます。DataMatrixコードに対応しているバーコードリーダーであれば、メーカーや機種を問わず二次元コードの読み取りができます。
また、Matrix 2Dチューブには、2Dコードが汚れなどで読み取りができない場合に備え、チューブの側面には同じIDがバーコードと目視可能文字で印字されています。これにより作業効率が向上し、信頼性の高いトレーサビリティが実現します。さらに、凍結や融解、物理的な衝撃、DNAやタンパク質の回収において優れた性能を示すことも確認されています。
【資料ダウンロード】Thermo Scientific™ 2Dチューブ製品リーフレット
【資料ダウンロード】Matrix 2Dチューブの性能に関するアプリケーションノート
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図6. Thermo Scientific™ Matrix™ 2Dチューブ スクリュートップ 1.0mL
二次元コード付きチューブを用いたサンプル管理
二次元コード付きチューブを用いることで、ラボのサンプル管理プロセスのデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展も期待できます。DX化のポイントは、個人の技術的な力量や独自のプロセスに依存せず、最短時間で業務を効率的に処理できる仕組みを作ることです。
二次元コード付きチューブは、お手元に届いた時点で既にユニークなコードが付与されており、ラボでコードの管理や発番する必要がありません。これにより、コードの記入やラベル貼りの手間や時間が省けます。さらに、情報の紐づけの仕方によっては、二次元コードを読み取るだけでサンプルの種類、保存場所、実験データなどの情報に瞬時にアクセスできるため、検索や入出庫の時間を大幅に短縮できます。
このように、二次元コード付きチューブは、ラボのサンプル管理プロセスを効率化し、人的介入を減らし、迅速な業務処理を可能にします。
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▶【サンプルの管理術】バーコードを使ったアイデアとツールの紹介
二次元コード付きチューブを用いたサンプル管理の具体例
国内外での具体的な採用例として、次のような事例があります。
- 創薬:化合物の管理、スクリーニング処理。多くの場合自動分注装置や自動倉庫と一緒に使われています。
- バイオバンク:特に患者さんやドナーの個人情報を切り離し、必要な臨床情報と共に生体試料を長期保管し複数の研究機関とサンプルのやり取りを必要とする施設で近年多く採用されています。生物資源や環境資源を管理する施設でも多くの採用例があります。
- 臨床試験:被験者の匿名性を担保しながら、各検体を一意の識別子(ID)で識別し、その管理履歴(トレーサビリティー)を保つ必要がある臨床試験実施施設などで採用されています。
- 研究室での実験:企業の研究施設や大学、官公庁のラボでは、試薬やサンプルの管理に使用されています。特に複数の研究者が同じフリーザーを共有するラボでは、使用履歴を追跡し管理することがサンプルの把握に効果的です。
- 試薬やキットの包装容器:抗体、化合物、プライマーなどの包装容器として、二次元コード付きチューブが国内外の試薬・キットメーカー企業で採用されています。昨今では、COVID-19検査キットの試料採取容器として採用されているケースもあります。
バーコードによる管理
ラボのサンプル管理には、サンプルの入ったチューブとその関連情報を管理し、紛失や取り間違いを防ぐことが求められます。これには、スーパーやコンビニの在庫・販売管理でも広く利用されているバーコード管理が理想的です。バーコード管理は特別な技能や複雑な操作を必要とせず、一度仕組みを構築すれば、経験の浅いスタッフでもバーコード読み取り、定められた手順に従って作業が可能です。
ラボのフリーザーなどに保管するサンプルは、頻繁に取り出されるものから長期間保管されるものまでさまざまです。サンプルの種類も多岐にわたり、複雑な管理が必要と思ってしまうせいか、ラボのプロセスは属人化しやすい傾向にあります。しかし、商品の在庫管理と基本的な管理方法は似ており、バーコードを利用すれば、ラボのサンプル管理も効率的に行えます。これは、業務プロセスのDX化にも適しています。
実際の管理運用を考えると、バーコードの読み取りだけでなく、複合的な情報管理やシステム構築はハードルが高いというイメージを持たれるかもしれません。しかし、ラボにバーコードリーダーさえあれば、比較的簡単に管理システムを構築できます。簡易的な管理手段としてはMicrosoft™ Excel™を使ったバーコード管理が考えられます。Microsoft™ Excel™は導入コストが低く、多くのパソコンに標準搭載されているため、初期段階で利用しやすいツールです。Microsoft Excelには情報書き換え時にログが残らないという欠点はありますが、最初のアプローチとしては十分です。情報やプロセスがデジタル化されていれば、データベースシステムやラボ情報管理システム(LIMS)への移行も容易です。
このように、バーコード管理はラボのサンプル管理においても効率的であり、初期導入のハードルも高くありません。
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▶【サンプルの管理術】バーコードを使ったアイデアとツールの紹介
まとめ
二次元コード付きチューブは、ラボにおけるサンプル管理を大幅に効率化し、ヒューマンエラーのリスクを減少させる優れたツールです。特に、厳しい保存環境下でも情報の劣化を防ぎ、信頼性の高いトレーサビリティを確保できます。バーコードやExcelを用いた簡易的な管理から、LIMSへの移行も容易であり、ラボのデジタルトランスフォーメーションを促進します。これにより、個々の技術力に依存せず、標準化された効率的な管理体制を構築することが可能です。二次元コード付きチューブを活用し、ラボのサンプル管理を次のレベルへ進化させましょう!
当社では、お客さまのバイオバンクプロジェクトの立ち上げや拡張、改良などを総合的にサポートします。経験豊富なスタッフが、消耗品から低温保存システム、サンプル管理ソフトまで含めた幅広い提案を行います。戦略的なサンプル管理方法に関するセミナーも開催しています。シンプルなサンプル管理システムから大規模プロジェクトまで、まずはご相談ください。
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