トリパンブルー溶液は細胞の生死判定に日常的に使用される安価で便利な試薬です。ただ、沈殿が発生しやすい性質があり、沈殿を除去する方法と沈殿がセルカウントの正確性を下げることを以前の記事でご紹介しました(関連記事:【やってみた】沈殿だらけのトリパンブルーで自動セルカウントしてみたら誤認識されました)。多少の沈殿であれば除去してセルカウントに使用することが可能であるものの、できることならなるべく沈殿が発生しないように保管したいものです。当社のトリパンブルー溶液(製品番号:15250061)の保存条件は15~30℃となっていて遮光の指定はありませんが、光暴露がトリパンブルーの沈殿形成の原因となると言われています。そこで本記事では、トリパンブルー溶液に光を当て続けてみて、本当に沈殿形成が促進されるかどうかを試してみました。
実験方法
今回も当社のトリパンブルー溶液(Gibco™ Trypan Blue Solution, 0.4%/製品番号:15250061)を使用しました。シリンジフィルター(Thermo Scientific™ Nalgene™ 25mm Syringe Filters, PES, 0.2μm pore size, Sterile/製品番号:725-2520)でろ過して沈殿を除去したトリパンブルー溶液を2本の1.5 mLチューブに小分けし、そのうち1本をアルミホイルで全体を包み、完全に遮光しました。そして、この2本のチューブを白色LED光源の下に設置し、約8時間の照射を3回(合計約24時間)行いました(図1)。

図1. トリパンブルー溶液に光を照射する様子
光暴露がトリパンブルーの沈殿形成に及ぼす影響
光照射後のトリパンブルー溶液をそれぞれInvitrogen™ Countess™ Cell Counting Chamber Slide(製品番号:C10228)に注入し、溶液の見た目を確認しました(図2上段)。その結果、遮光した溶液の色はクリアなブルーでしたが、光照射した溶液は薄い紫色に変色していました。次に、それぞれの状態を位相差顕微鏡(10倍対物レンズを使用)で観察しました(図2下段)。遮光した溶液中には沈殿は見られませんでした。一方、光照射した溶液には多数の沈殿が生じており、液体部分の色が薄まっていることが見てとれました。この結果から、光がトリパンブルーの沈殿形成を促進することが確認できました。

図2. 光照射の結果。トリパンブルーの沈殿形成を光が促進したことがわかる
次に、これらのトリパンブルー溶液を使用して、Countess 3 FL自動セルカウンターの明視野モードで自動セルカウントを行いました。その結果、遮光して沈殿が無い溶液では生存率が97.8%と算出されたにもかかわらず、光照射により沈殿が発生した溶液では62.3%と算出されました。撮影された写真からも、無数の沈殿が生存率の計測を混乱させたことが伺えました(図3)。なお、トリパンブルーの沈殿によるCountess 3 FL自動セルカウンターでの誤判定についての詳細は、関連記事(【やってみた】沈殿だらけのトリパンブルーで自動セルカウントしてみたら誤認識されました」)で解説しているのでご確認ください。

図3. 光照射によるトリパンブルーの沈殿による生存率の測定への影響
まとめ
今回の検証で、トリパンブルー溶液の沈殿形成が、光により促進されることが確かめられました。一般的な実験室の明るさよりも強い光を長時間照射し続けるという極端な状況での結果ですので、通常の使用環境ではここまで急速な沈殿形成は起こらないと考えられます。ですが、長い時間をかけて徐々に沈殿形成が進むので、実験を終えたら引き出しや棚などの暗所に保管するとよいでしょう。また、沈殿がセルカウントに影響することは明らかですので、沈殿が発生した場合は除去するか、状況に応じて新品を用意することをお勧めします。
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