トリパンブルーは細胞の生死判定に使用される便利な試薬です。0.4%程度のトリパンブルー溶液と細胞懸濁液を1:1で混合すると死細胞だけがすぐに青色に染色されるので、培養細胞の継代などで日常的に使用されています。ところが、トリパンブルー溶液は沈殿が発生しやすいことが知られています。沈殿を取り除く方法はいくつかありますが、少々の沈殿であればセルカウントに支障はないと判断している方もいるかもしれません。手動でセルカウントする場合は、顕微鏡で確認しながら死細胞と沈殿を何とか見分けることができるかもしれません。では、当社の自動セルカウンターInvitrogen™ Countess™ 3ではこれらを正しく見分けられるのでしょうか?そこで今回は、沈殿が生じたトリパンブルー溶液と沈殿を取り除いたトリパンブルー溶液を用意し、同じ細胞懸濁液の濃度と生存率の測定結果を比較してみました。
トリパンブルー溶液の沈殿を除去する方法
今回は当社のトリパンブルー溶液「Gibco™ Trypan Blue Solution, 0.4%(製品番号15250061)」を使用しました。Invitrogen™ Countess™ Chamber Slides(製品番号C10228)に同梱されているInvitrogen™ Trypan Blue Stain(製品番号T10282)と同様に使用できます。なお、トリパンブルー溶液の推奨の保管条件は常温(15~30°C)・遮光です。光暴露や冷蔵・冷凍保管が沈殿発生の原因になるため、温度が安定した暗所での保管をお勧めします。
トリパンブルー溶液に沈殿が発生した場合、一般的に以下の対処が行われます。
① フィルターでろ過する
図2のように、シリンジフィルター(Thermo Scientific™ Nalgene™ 25mm Syringe Filters, PES, 0.2 μm pore size, Sterile(製品番号725-2520))などを使用すると、目視できる沈殿を確実に取り除くことができます。
② 遠心して上澄みを使用する
例えば、100 µLを1.5 mLチューブに取り分け、15,000 xgで1分間遠心した上澄みには沈殿はほぼ残りません。ただし、沈殿の発生具合や遠心する液量によって遠心の条件を調節する必要があります。
③ トリパンブルー溶液の上の方を使用する
ボトルをしばらく静置しておくと、トリパンブルーの沈殿は底に沈みます。そのため、ボトルの上の方から沈殿が少ない溶液を採取できます。ボトルが揺れて溶液が混ざるとこの方法は使えないため、①や②と比べると確実性は低いです。
方法 | 長所 | 短所 |
①フィルターでろ過する | 簡単な操作、短時間で 確実に沈殿を取り除ける |
消耗品のコストがかかる |
②遠心して上澄みを使う | 遠心機があれば、コストをかけずに 沈殿を取り除ける |
多少の時間がかかる |
③静置して上の方を使う | 簡単な操作で沈殿が少ない 溶液を採取できる |
沈殿が残存しているリスクがある |
トリパンブルーの沈殿が自動セルカウントに及ぼす影響
当社の自動セルカウンターCountess 3/Countess 3 FLに細胞懸濁液とトリパンブルーの混合液を注入したスライドチャンバーを差し込むと、自動でフォーカスを合わせて明視野の画像を撮影し、画像解析によって細胞濃度の測定、トリパンブルーによる生死判定を自動で行います。今回は、沈殿が生じたトリパンブルー溶液と、①フィルターろ過と②遠心分離で沈殿を除去した溶液を用意し、HeLa細胞の自動セルカウントを10回ずつ行いました。このとき、Countess 3 FLの設定はすべてデフォルトとし、画像撮影後のパラメーター調節は行いませんでした。測定結果を図3と図4にまとめました。
沈殿有りのトリパンブルーでは細胞の濃度の平均が1.50 x 106 cells/mLだった一方で、ろ過後と遠心後の上澄みのトリパンブルーでは1.26 x 106 cells/mLと1.18 x 106 cells/mLと、沈殿有りと比べて低い結果となりました。
次に生存率を見てみると、沈殿有りのトリパンブルーでは平均86.4%に対して、ろ過後と遠心後の上澄みのトリパンブルーでは96.3%と95.4%となりました。
以上の結果は、Countess 3 FL自動セルカウンターの結果表示画面(図5)からもわかるように、トリパンブルーの沈殿が細胞と誤認識されて細胞濃度が多めに算出されただけでなく、それらが死細胞と判定されて生存率が低めに算出されたためと考えられます。
今回はCountess 3自動セルカウンターの全ての設定をあえてデフォルトのままで測定しました。画像撮影後に測定対象とする粒子(細胞)の大きさや真円度などのパラメーターを調節して絞り込むことは可能です。しかしながら、本物の細胞に近い大きさ・形の沈殿を撮影後に除外することはできません。パラメーター調節で沈殿を無理に除外しようとすると、測定すべき細胞をも除外してしまう恐れがあるからです。そのため、トリパンブルー溶液に沈殿が発生した場合は、今回ご紹介した方法で取り除いてから細胞懸濁液の染色に使用することをお勧めします。
まとめ
トリパンブルーと自動セルカウンターCountess 3の組合せは、細胞培養の作業効率と正確性を大きく向上させます。一方、トリパンブルーの沈殿など一見些細な要因が測定結果を狂わせることがあるので注意が必要です。
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