関連記事のその1やその2では、クリックケミストリーの原理を応用したアプリケーションの中から、イメージング関連の製品を中心にご紹介しました。Invitrogen™ Click-iT™ シリーズで採用されている化学反応は、アジド化された化合物とアルキニル基をもつ化合物を、共有結合を介して結合させます(Figure 1)。当社は、この強力な化学反応の応用によりターゲットの分子を捕捉することで、着目している現象に関与する新規の遺伝子・タンパク質を探索するための製品群をご提供しています。当記事では、新生RNAをターゲットとする遺伝子発現解析用の製品を、その4では、新生タンパク質をターゲットとする翻訳・翻訳後修飾を解析するための製品をご案内します。EdU関連キットと比べると使用事例は少ないものの、これらの製品群を利用した先駆的な研究が報告されはじめています。従来の実験手法で苦戦されている方や、よりレアなターゲットにチャレンジしたい方に、ぜひご検討いただきたい製品群です。
▼こんな方におすすめです!
・遺伝子発現解析の検出感度を上げたい方
・特定時期の遺伝子発現を解析したい方
・新規の遺伝子発現変動を同定したい方
Click-iT製品で新生RNAをイメージングする
Click-iTシリーズのRNAアプリケーションでは、ウリジンのアナログであるEU(5-ethynyl uridine)を新生RNAに取り込ませ、アジド化された蛍光物質やストレプトアビジンなどを不可逆的に結合させます(Figure 2)。このシステムにより、当社は新生RNAのイメージング用のアプリケーションや、遺伝子発現解析のための新生RNA捕捉アプリケーションなどをご提供しています。
新生RNAのイメージングキットであるInvitrogen™ Click-iT™ RNA Alexa Fluor™ Imaging Kitのワークフローは、EdUのイメージングキットと同じく非常にシンプルです(Figure 3)。クリック反応による検出後に引き続いて蛍光免疫染色を行うことにより、多色蛍光解析も可能です。一般的な哺乳類細胞にはrRNA(全体の80~85%)、tRNAなどの低分子量RNA(全体の15~20%)、mRNA(1~5%)などのRNAが含まれています(関連記事)。Figure 3の画像の新生RNAが強く検出されている部位(赤色)は、rRNAの転写領域である核小体の位置だと思われます。
Click-iT製品で新生RNAを捕捉する
次に、新生RNA捕捉アプリケーションをご紹介します。こちらのInvitrogen™ Click-iT™ Nascent RNA Capture Kitも、Figure 4に示す通りワークフローはシンプルです。EU存在下で培養した細胞からRNAを抽出すると、EU添加時に合成された新生RNAのみがEU標識されたRNAサンプルを得ることができます。このサンプルにアジド化ビオチンを加えてクリック反応を行うと、新生RNAのみに共有結合的にビオチンが結合します。そして、ストレプトアビジンビーズで回収してcDNAを合成することにより、新生RNAのみをターゲットとした遺伝子発現解析が可能になります。本キットの使用用途としては、新生RNAの存在量の時間経過を追跡することによるRNAの分解速度(半減期)の解析や、新生RNAのみを分離することによる遺伝子発現変動の分解能の向上などが考えられます(Figure 4)。
また、2022年にChenらによって発表された論文では、アフリカツメガエルの受精卵の発生開始時のzygotic genome activation(ZGA)の解析に本キットが採用されています。受精卵の発生において、Maternal(卵由来)のRNA(Maternal遺伝子)とZygote(接合体=受精卵)形成後に発現するRNA(Zygotic遺伝子)の両方が必要であることが知られています。Chenらは本キットを用いてZGAが起こる時期の新生RNAを捕捉することにより、Zygote形成後に転写されるMaternal 遺伝子と共通の遺伝子(Maternal-Zygotic遺伝子)のRNAを、MaternalのRNAから分離しました。その結果、Maternal RNAに埋もれていたために通常の解析では検出できなかった240遺伝子の発現上昇を見いだしました。本キットの採用により、著者らはZGAの分子メカニズムに従来以上に深く切り込んでいきました(参考文献)。
本キットの注意点として、クリック反応によるビオチン付加反応時にRNAの切断が起きている事例が報告されています。下流のアプリケーションに影響を与えうるため、本キットをご検討いただく際には切断の程度もご確認いただくことをお勧めいたします。本キットの特長についてはこちらにも掲載されているのでご参照ください。
[参考文献]
Chen & Good (2022) “Nascent transcriptome reveals orchestration of zygotic genome activation in early embryogenesis.” Curr. Biol. 32(19):4314-24 (PMID: 36007528)
[製品情報]
■Invitrogen™ EU (5-Ethynyl Uridine)(製品番号E10345)
■Invitrogen™ Click-iT™ RNA Alexa Fluor™ 488 Imaging Kit(製品番号C10329)
■Invitrogen™ Click-iT™ RNA Alexa Fluor™ 594 Imaging Kit(製品番号C10330)
■Invitrogen™ Click-iT™ Nascent RNA Capture Kit, for gene expression analysis(製品番号C10365)
まとめ
- 新生RNAや新生タンパク質をイメージングできるClick-iTアプリケーションがあります。
- 新生RNA捕捉アプリケーションは、遺伝子発現変動の解析の検出感度と分解能を向上させ、着目する時期特異的に変動する遺伝子の同定に有用です。
<Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション>
EdUだけじゃない!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その1)
こんなこともできる!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その2)
遺伝子発現を見える化する!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その3)
タンパク質合成をとらえる!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その4)
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