【やってみた!】低濃度のRNAを冷却しながら濃縮し検出してみた

▼もくじ

分解を防ぎつつ、サンプルロスを少なくRNAを遠心濃縮するために

RNAワークや熱感受性の高い酵素、プロテオミクス研究に従事しているお客さまの中には、ごく微量のサンプルをロスなく濃縮したいといった要望を耳にします。また、カラム精製やエタノール沈殿によるサンプルのロスにより、せっかく手に入れた希少なRNAを次の解析に必要な量を収集できないといった悩みは、経験されたかたも多いかと思います。

・分解を防ぎつつ、ごく微量のRNAサンプルの濃縮がしたい
・濃縮終了時間に縛られることなく、RNAを濃縮したい
・これまでは正確にはわからなかったサンプルの温度を一定に保って遠心濃縮を行いたい

これらのニーズにお応えできるのがThermo Scientific™ SpeedVac SRF110冷却遠心濃縮装置(遠心エバポレーター)です。SpeedVac SRF110は冷却機能を搭載しており、従来の遠心濃縮装置にはなかった遠心濃縮中に庫内を低温に保てるほか、プレ&ポストクーリング機能を搭載しています。

そこで実際に、冷却しながらの遠心濃縮が可能なSpeedVac SRF110を用いて、サンプルのロスがなく微量なRNAを濃縮できるかを検証してみることにしました。

微量total RNAの冷却遠心濃縮

【実験材料および機器】

SpeedVac SRF110冷却遠心濃縮装置 Qubit4 Fluorometer

写真1(左);SpeedVac SRF110冷却遠心濃縮装置
写真2(右);Qubit4 Fluorometer

【実験方法】

total RNA約100 ng/μLを原液とし、水にて約6 ng/μLのサンプル溶液と更に10倍希釈したサンプルを用意しました。各々の濃度で3サンプル調製し、遠心濃縮前と濃縮後に各々の濃度とRIN値を計測・解析しました。濃縮中の低温状態を一定に維持するため、まず庫内を4℃にプレクーリングを行い、濃縮最中も4℃で行いました。
濃縮6時間後、完全にRNA溶液が乾固する前に装置を止めて、残りの容量を調べ、濃縮後の解析をしました。
検証実験を通して手袋とマスクを着用し、使用する水やプラスチック消耗品はNuclease-freeのものを使用しています。また、装置庫内を事前にInvitrogen™ RNaseZap™ RNase Decontamination Solutionにて清掃し、RNase Free状態を維持しました。

微量total RNAの濃縮結果

今回の検証実験では、Qubit RNA BR Assayで検出できる範囲(10 ng~1,200ng RNA)ギリギリにtotal RNAを希釈したため、濃縮前に10倍希釈したサンプルは濃度を測定できませんでした。しかし、濃縮後には測定できる濃度になりました。測定できないほど低濃度のRNAを濃縮することにより測定できるようにしたことは、その後の解析に有用であるといえます。
測定前と測定後にRNA全収量の違いはほとんど認められませんでしたので、ロスなく濃縮ができたことを意味しています(表1)。
また、RIN値を測定した結果、ほとんど分解は認められませんでした(グラフ1 )。

これらのことから、SpeedVac SRF110を用いて、冷却状態を一定に保ちつつ遠心濃縮をかけることで、希薄なRNAを低温下で維持しながら分解なく濃縮できることが、本検証実験であきらかとなりました。

表1. 濃縮前と濃縮後のサンプル濃度と全収量
濃縮前 濃縮後
No. 濃縮前の容量
(uL)
濃度
(ng/uL)
濃度平均
(±SD)
全収量
(ng)
全収量平均
(ng)
濃縮後の容量
(uL)
濃度
(ng/uL)
濃度平均
(±SD)
全収量
(ng)
全収量平均
(ng)
1 1,100 5.54 5.38
(0.11)
6,094 5,918
(117)
56 112 95.87
(10.76)
6,272 5,925
(258.3)
2 1,100 5.36 5,896 66 90.4 5,966
3 1,100 5.24 5,764 65 85.2 5,538
4 1,200 Low 95 6.12 5.86
(0.25)
581.4 562.7
(28.1)
5 1,200 Low 98 5.98 586.0
6 1,200 Low 95 5.48 520.6
サンプル濃縮前と濃縮後のRIN値平均

グラフ1.サンプル濃縮前と濃縮後のRIN値平均

冷却遠心濃縮中のサンプル温度

従来の遠心濃縮機(遠心エバポレーター)では、それに伴いサンプルからの溶媒の気化が始まり、気化熱が奪われてサンプルの温度(グラフ2,、黄色のライン)は低下します。これはチャンバーを加温した状態でも起こります(赤いライン、チャンバー温度を50℃に設定)。一方で、濃縮が進むと気化速度が遅くなり、サンプルの温度低下は鈍化します。サンプルが乾燥に近づくと、サンプル温度はチャンバー温度に収束するように上昇します。そのため、温度感受性を示すサンプルを濃縮する場合は、あらかじめチャンバーの加温時間とランタイムの条件検討を十分に行う必要がありました。また、濃縮が終わったらサンプルを速やかに氷上に移すなど、濃縮終了時間にその場に居なければいけないなど、煩わしさがありました。

一方、新製品のSpeedVac SRF110は、これまでにはなかった冷却機能が本体に搭載されており、濃縮開始から終了までの間、庫内を冷却することでサンプル温度を一定な低温に保つことが可能になりました(青いライン)。また、SpeedVacシステムで濃縮を開始すると、真空ポンプによる圧力で庫内真空度(緑のライン)は下がっていることがわかります。これにより、プレ&ポスト冷却設定を併用することで、ユーザーの時間の制限をなくすことも可能となりました。RNA研究やプロテオミクス、酵素などの研究に従事しているお客さまに有用な製品です。

濃縮とサンプルおよびチャンバー温度の変化

グラフ2.濃縮とサンプルおよびチャンバー温度の変化

まとめ

【注意点】
RNA分解の原因の多くはサンプルへのRNaseのコンタミネーションです。機器を清潔に保つなど日常的なメンテナンスが非常に重要なのと、大腸菌からのプラスミド精製などに使用している機械との共用はお控えいただくことをお勧めします。また、水の濃縮には排気量が高めの油圧式ポンプを推奨します。今回は少量の検証だったため、ケミカルトラップのみを繋げましたが、恒常的に作業を行う場合はRVT450-115などの冷却トラップが別途必要です。

本検証は、サーモフィッシャーサイエンティフィックジャパングループ再生医療クリエイティブ・エクスペリエンス・ラボ(T-CEL)で実施し、ライフテクノロジーズジャパン株式会社テクニカルサポートチームの協力のもと、行いました。

製品の詳細は、下記リンクを参照いただきお問い合わせください。

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