ブログ「大腸菌の飼い方~実験に必要な設備をそろえよう」では、クローニングや組み換えタンパク質発現の用途で大腸菌(Escherichia coli)を培養する際にラボで必要になる設備についてご紹介いたしました。本ブログではそれらを使った大腸菌培養の具体的な方法について解説いたします。設備が整い、実際に大腸菌を飼い始める前にぜひご覧ください。
大腸菌の培養法には、大きく分けて以下の 2 種類の方法があります。
- 寒天培地を用いた静置培養
- 液体培地を用いた振とう培養
大腸菌を増やすという目的はどちらも同じですが、「何のために増やすのか」によって使い分けます。1 つの実験の流れで両方法を組み合わせて使うことが多いです。
寒天培地を用いた静置培養
シャーレに固めた寒天培地の表面で大腸菌を増やす方法です。このようなシャーレを「プレート」「寒天プレート」と呼びます。この方法の最大の特徴は、1 つの菌(クローン)から増えた「コロニー」を目で見て確認できることです。
そのため、以下のような場面でよく使われます。
- 目的プラスミドを持つクローンを選別したいとき
- 均一なクローンを得たいとき
- コンタミ(汚染)がないかを確認したいとき
一方で、得られる菌量は少ないため、プラスミド抽出、タンパク質大量発現には向きません。
液体培地を用いた振とう培養
フラスコやチューブに入れた液体状培地を振とう機で揺らしながら培養する方法です。
振とうすることで大量の菌体を得られます。
この方法は主に以下の用途で用いられます。
- プラスミドを大量に調製したいとき
- 組み換えタンパク質を発現させ大量に回収したいとき
両方法を用いるシチュエーション&使い分け例
例 1:DNA 配列をクローニングし、サンガーシーケンスで配列を確認したい
クローニング時の大腸菌の選別→寒天培地を用いた静置培養
シーケンス用プラスミドの調製→液体培地を用いた振とう培養
例 2:大腸菌を用いて組み換えタンパク質を発現させたい
目的遺伝子の発現用ベクターへのサブクローニング→寒天培地を用いた静置培養
シーケンス用プラスミドの調製→液体培地を用いた振とう培養
大腸菌を用いたタンパク質発現→液体培地を用いた振とう培養
例 3:哺乳類細胞を用いて組み換えタンパク質を発現させたい
目的遺伝子の発現用ベクターへのサブクローニング→寒天培地を用いた静置培養
シーケンス用プラスミドの調製→液体培地を用いた振とう培養
トランスフェクション用プラスミドの調製→液体培地を用いた振とう培養
培地の作り方
液体培地(200 mL)の作り方
- 混合済み LB 培地※1( 製品番号 12780052 など)40 g を秤量する
- 上記を 500 mL 容程度の三角フラスコ※2に入れる
- 水(蒸留水など)で 200 mL にフィルアップする※3
- よく混合した後、オートクレーブする(121 ℃、15 分程度)
【保存】
通常冷蔵で数カ月は保存可能です。念のため使用前に沈殿・浮遊物(コンタミ)がないか確認してください。なお、抗生物質添加後は数日以内に使い切る方が無難です。特にアンピシリンは不安定なので使う直前に添加するのがお勧めです。
寒天培地(200 mL、10 枚程度)の作り方
- 混合済み LB 寒天培地※1, 4( 製品番号 22700025 など)64 g を秤量する
- 上記を 500 mL 容程度の三角フラスコ※2に入れる
- 水(蒸留水など)で 200 mL にフィルアップする※3
- よく混合した後、オートクレーブする(121 ℃、15 分程度)
- 50~60 ℃程度※5まで冷ました後、抗生物質ストック溶液適量を添加してよく混ぜる
- 10 cm シャーレ( 製品番号 263991 など)1 枚当たり約 15~20 mL を分注し、室温で固まらせる※6
【保存】
添加した抗生物質の種類にもよりますが、できるだけ早く、1 週間以内を目安に使い切るのがお勧めです。特にアンピシリンは不安定なので注意が必要です。
以下の写真のように培地が入った面を上にしてラップで包んで保存してください。添加した抗生物質名と作成日時のご記入をお勧めします。

抗生物質ストック溶液の作り方
使用濃度(以下参照)の約 1000 倍濃度のストックを作って保存しておくと便利です。0.22 µm のフィルター(製品番号 171-0020PK など)を使ってろ過滅菌するのが一般的です。溶媒は抗生物質によって異なりますのでご注意ください。溶媒がエタノールの場合、ろ過滅菌は不要です。
| 使用濃度※7 | ストックの濃度※7 | 溶媒 | |
|---|---|---|---|
| アンピシリン | 50~100 μg/mL | 100 mg/mL | 滅菌蒸留水 |
| カルベニシリン※8 | 50 μg/mL | 50 mg/mL | 滅菌蒸留水 |
| カナマイシン | 50 μg/mL | 50 mg/mL | 滅菌蒸留水 |
| クロラムフェニコール | 35 μg/mL | 35 mg/mL | エタノール |
| Zeocin™ | 25~50 μg/mL | 50 mg/mL | 滅菌蒸留水 |
【保存】
小分けして-20 ℃以下で保存してください。経験的に数回の凍結融解は問題ありませんが、特にアンピシリンは不安定なので凍結融解の繰り返しは避けた方が無難です。
80%グリセロール(グリセロールストック作成用)の作り方
- メスシリンダーでグリセロール約 80 mL を測り取る
- 上記に水(蒸留水など)を入れて 100 mL にする
- 混ぜながら全量を 200 mL 容メジューム瓶に流し込む
- オートクレーブする(121 ℃、15 分程度)
【保存】
室温で保存可能です。
備考
※1 LB 培地には大きく分けて塩(NaCl)濃度が高いもの(Miller)と低いもの(Lennox)の 2 種類ありますが製品番号 12780052 は塩濃度が低い Lennox タイプです。両タイプの明確な使い分け基準はありませんが、高塩濃度に敏感な抗生物質(Zeocin™など)を使う場合はこちらがお勧めです。また、NaOH 等で pH を中性から弱アルカリ性に合わせることもありますが、そのままでも中性付近になるので大きな問題はないでしょう。培地量 40 g は製品番号 12780052の場合です。
※2 液量の 2 倍以上の容量が入る容器が使いやすいです。作成後保存する場合は、メジューム瓶(製品番号 FB-800-500など)が便利です。
※3 正確に測る必要はありません。あらかじめ水を 200 mL 入れて液面の位置にフェルトペンで印をつけておくと便利です。
※4 製品番号 22700052 は Lennox タイプで終濃度 1.2%になるように寒天が混合されています。寒天の終濃度は 1.2~1.5%程度が使いやすいです。
※5 わかりにくいですが、かろうじて容器を外から触っていられる程度の温度と言われています。カナマイシンは比較的強いので冷めるのを待たずに添加しても大丈夫です。あまりギリギリまで待つと分注途中に固まり始めるので要注意です。
※6 正確な量を測る必要はありませんが、以下のような分注ピペットを使うと簡単です(以下写真参照)。

分注ピペット:Thermo Scientific™S1 Pipet Fillers(製品番号 9501)
ディスポーザブルピペット:Thermo Scientific™ Nunc™ ディスポーザブルピペット( 製品番号 170368N)
※7 濃度は目安です。
※8 カルベニシリン( 製品番号 10177012)はアンピシリンの代わりに使える抗生物質です。アンピシリンよりも安定性が高いので使いやすいです。サテライトコロニー※9が出にくいです。
※9 目的コロニーの周囲に観察される小さいコロニーのことです。目的コロニー周辺の抗生物質濃度が低下し、抗生物質感受性の非組み換え体が生えてきたものである可能性が高いです。よって、それらを解析しても目的のプラスミドは得られません。
培養方法
無菌操作について
組み換え大腸菌を取り扱う場合は、実験内容や所属機関のルールに従って行ってください。一般的には、クリーンベンチや実験台上で無菌操作を行うことが多く、安全キャビネットが必要かどうかは実験内容によって異なります。また、実験台上で作業する場合は、アルコールランプやバーナーを用いてコンタミネーションを防ぐ方法もありますが、火を使わずに作業することも可能です。いずれの場合も、手指や器具を清潔に保ち、不要な曝露を避けるなど、基本的な無菌操作を心がけましょう。迷った場合は、ご所属研究機関の担当部署や安全委員会に確認するのが安心です。
寒天培地を用いた静置培養
【準備するもの】
- 大腸菌培養液(形質転換後の培養液など)
- LB 寒天培地プレート(適切な抗生物質を含むもの)
- コンラージ棒・スプレッダー(以下写真参照)または白金耳

- インキュベーター( カタログ No. 50125590 など)
【操作】
- プレートの裏面(寒天培地側)の端に日時、サンプル名などを記入する※10
- 大腸菌液をプレート※11の寒天培地上にピペットで滴下する※12
- コンラージ棒を用いて菌液をプレート表面に均一に広げる※13
- プレートのふたをし、逆さ(培地面が上になるように)に向け、軽くラップをかける※14
- 37 ℃のインキュベーターで一晩静置培養(以下写真参照)※15

【保存】
最大2 週間程度冷蔵庫で保存可能です。培地面を上にし、ラップで包んで保存してください。ただし、コロニーを分離したプレートはできるだけ速やかに使用するのがお勧めです。特にコロニーPCR は 2~3 日以内のフレッシュなものをご使用ください(コロニーが固まってコロニーの一部をかきとるのが困難になります)。
培養方法:液体培地を用いた振とう培養
【準備するもの】
- 大腸菌培養液(前培養液)あるいはコロニー
- 液体培地
- 抗生物質ストック溶液
- インキュベーター( カタログ No. SK2001 など)
【操作】
適切な抗生物質を添加した液体培地にコロニー、あるいは前培養液を添加し、振とう培養を行います。
【保存】
液体培養後、プラスミド抽出前やタンパク質精製前の菌体を保存可能です。遠心分離機(カタログ No. 75007205 など)を用いて 3,000~4,000 ×g で集菌後、培地をできるだけ除いてから-20 ℃以下で保存してください。タンパク質の種類によっては凍結によって失活する可能性はゼロではありませんが、多くの場合は問題なく保存できます。通常半年程度は保存可能です。
その他の保存方法:グリセロールストック
【準備するもの】
- 80%グリセロール(滅菌済み)
- 大腸菌培養液
【操作】
- 80%グリセロール 100 µL を 1.5 mL チューブに分注する
- 培養液 300 µL を加えよく混合する
- -80 ℃で凍結保存(数年は保存可能)※16
備考
※10 日時、サンプル名を記載する場所はどこでも問題ありませんが、裏面(寒天培地側)に記載すると見やすいです。一方、文字の下のコロニーが見えにくくなるので、気になる場合は表面に記載してください。
※11 特に培養液量が 50 µL を超える場合などあらかじめプレートの培地表面を乾燥させておくことをお勧めします。50 ℃程度のオーブンで、ふたを少しずらして 10~15 分程度乾燥させてください。
※12 10~100 µL 程度が適量です。これより少ない場合は培地等で希釈し、多い場合は遠心濃縮(3,000 xg 程度で集菌し、上清を少し捨てて再懸濁)されると扱いやすいです。
※13 培養液が乾くまで、寒天培地を傷つけないようゆっくりと広げてください。
※14 ラップをかけるのは乾燥を防ぐためです。
※15 大腸菌内で不安定なプラスミドの場合は室温~30 ℃程度に温度を下げてゆっくりと培養する事があります(コロニーが解析しやすいサイズ、1~2 mm 程度になるまで、48 時間程度)。
※16 グリセロールの終濃度はさまざまですが 15~20%程度にすることが多いです。
最後に
本ブログでは、大腸菌培養の基本となる「寒天培地(静置培養)」と「液体培地(振とう培養)」の違いと、それぞれの具体的な使い方について解説しました。少しでもご参考になれば幸いです。
大腸菌という生物は長く実験室で使われてきましたが、近年使わないラボも増えてきました。まだまだ利用価値はあるはずですので、使うチャンスが訪れた際には思い切ってぜひ一度トライしてみてください。
もちろん何かご不安な点などございましたら、当社テクニカルサポートにご相談ください。
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