新型コロナウイルスSARS-CoV-2が世界を席巻し始めたとき、研究者たちはウイルスがどれほどの伝染性があるかを理解するという、新たな課題に直面しました。パンデミックが加速するにつれ、イタリアはCOVID-19緊急タスクフォースを結成しました。そのメンバーに、イタリア、モデナに拠点を置くモデナ・レッジョ・エミリア大学(UNIMORE)のAndrea Cossarizza教授が含まれていました。彼の研究チームは、新型コロナウイルスに対する患者の免疫反応の研究を開始し、軽度、重度、または無症状など感染のさまざまな段階にある患者からの血液サンプルを分析し、論文を発表しました。
そこで今回は、Cossarizza教授の研究チームで採用された安全対策プロトコルおよび、Invitrogen™ Attune™ NxT Flow Cytometerによる、新型コロナウイルスに対する患者の免疫応答研究ついて、ご紹介します。
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SARS-CoV-2感染リスクを低減する実験環境の整備
安全対策として、まず施設ごとにリスクを定義・特定して、安全性や手順の脆弱性に対処し、新しく施行するリスク軽減策の概要を説明することをおすすめします。これには、SARS-CoV-2陽性血液サンプルの検査に使用される操作、処理、およびすべての検査プロセス、手順、機器などが含まれます。
ラボスタッフには、2つのリスクを提示します:
1. 感染した血液サンプルの取り扱い
2. 互いに密接に接触して働く
ウイルスの拡散は主にエアロゾル液滴で、人から人へと拡散し、無症状の個人によって拡散する可能性があるため、研究者が血液サンプルに含まれるウイルスRNAを扱うことは、同僚による感染の可能性に比べると脅威ではないと感じました。したがって、安全対策に関する変更の大部分は、間隔の維持と障壁の設定が含まれます。同部屋にいる2人でも、互いに近くにいる必要があるときはいつでも、サージカルマスクを着用します。
採用されたその他の安全対策は次のとおりです:
• 陽性の血液サンプルを扱うすべてのラボスタッフ は、安全対策について徹底的に訓練されています
• すべてのラボ 機器は最新式のものを使用します
• 0.5%の漂白剤を含む廃棄物処理を伴うクラスII生物学的安全キャビネット(BSC)を使用します
• ラボ のドアは閉じたままにします
• ラボ でのスタッフ同士 の距離は、1メートルを維持するように努めます
• 部屋には一度に1人のみとします
すべてのラボスタッフ は、適切な個人用保護具(PPE)を着用します:
• 手袋
• 白衣
• PPEをラボ以外に持ち出すことは ありません
サンプルの取り扱いと輸送:
• 破損を防ぐため、二重のコンテナに入れて輸送します
• ラボ 内にて開封します
血液サンプルを扱う場合は、次のことを行う必要があります:
• 2組の使い捨て手袋を着用し、各手順の後に外側を廃棄して交換します
• 白衣
• サージカルマスク
• 目の保護
エアロゾルまたは液滴が生成される可能性がある手順については、特別に予防措置を講じる必要があります。例えば、遠心分離は末梢血から単核細胞(PBMC)を分離するために使用されます。ただし、安全に実行されるためには、機器が適切に固定および密閉され、感染源への露出を最小限に抑える必要があります。使い捨てのプラスチック製品とピペットのみが使用され、内部廃棄物として送られます。作業場から離れる前に、すべての表面を0.5%の漂白剤、次に70%のエタノールで拭き取って除染します。
SARS-CoV-2がPBMCに感染する可能性があるかどうかは不明ですが、感染の可能性があるかのように行動することをおすすめします。細胞表現型のフローサイトメトリー解析では、研究者は最初にPMBCを分離し、モノクローナル抗体(mAb)で染色し、インキュベートしてから、洗浄して固定する必要があります。サンプルデータが取得されたら、フローサイトメーターの流路内を0.5%漂白剤で15分間、洗浄液でさらに15分間、最後に脱イオン水で15分間洗浄します。作業エリアは消毒され、使い捨て材料はバイオハザードコンテナに廃棄し、すべての作業面を拭き取って除染します。
Attune NxT Flow Cytometerでサイトカインストームを明らかにする
SARS-CoV-2は、感染者のサイトカインレベルを上昇させ、場合によっては「サイトカインストーム」を引き起こすことが知られています。サイトカインストームは、さまざまな細胞によって産生されるインターロイキンIL-1またはIL-6のような分子よって誘導され、炎症を引き起こします。Andrea Cossarizza教授は、インターロイキン分子を産生するヘルパーT細胞(TH細胞)のタイプに依存して、炎症性または非炎症性が示される、という仮説を立てました。例えば、TH1細胞は炎症性のサイトカインを産生する可能性がありますが、TH2細胞は炎症性の低いサイトカインを産生します。この仮説を検証することで、COVID-19の対策と理解に役立つ可能性があります。TH1またはTH2サイトカインを産生する免疫細胞のプロファイリングのために、PBMCの分離、さまざまな刺激因子の投与、および細胞内サイトカイン定量化に基づいたin vitroアッセイを行いました。
最新の論文発表では、このアッセイをキャップ付きチューブ内で、さまざまな刺激因子、インキュベーション時間を設定して広範囲に検証を行いました。サンプルを準備したら、オートサンプラーを備えたAttune NxT Flow Cytometerを使用して定量解析を行いました。彼らの研究チームは、このアッセイにより、主要な防御的役割を果たすウイルス感染応答の重要性や、おそらく感染経過を予測できる可能性があることを明らかにしました。
Attune NxT Flow Cytometerは、一人で簡単に操作でき、目詰まりしにくいため、今日の研究に不可欠な存在となっています。Invitrogen™ Attune™ NxT Autosamplerを使用することで、walk-away automationが可能となるため、生産性が向上し、感染源への曝露リスクが減少します。ますます多くのラボが、正確で使いやすく、メンテナンスや洗浄が容易な機器の必要性を明らかにしています。
サーモフィッシャーサイエンティフィック機器のSARS-CoV-2除染ガイダンスについては、こちらをご参考ください。
参考文献:
Cossarizza, A., Gibellini, L., Biasi, S. D., et al. (2020). Handling and Processing of Blood Specimens from Patients with COVID‐19 for Safe Studies on Cell Phenotype and Cytokine Storm. Cytometry Part A. doi:10.1002/cyto.a.24009
まとめ
・COVID-19患者サンプルを扱う研究者は、ウイルスに感染するリスクがあるため、適切な安全プロトコルが必要です。
・研究チームは、COVID-19に多様な応答を示す患者の抗原とサイトカイン産生プロファイルを調べることで、個人がさまざまな症状を示す理由と、これをワクチン開発や治療にどのように応用できるかについて理解したいと考えています。
・Attune NxT Flow Cytometerのスピード、柔軟性、精度、および高スループット性は、継続的な検査が必要となる感染症研究チームの目的に適しています。
・Attune NxT Autosamplerによる操作手順の自動化により、物理的なサンプルの取り扱いを減らし、ラボの安全性を促進することができるため、研究者が実験に集中できるようになります。
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