COVID-19により世の中の情勢が危機的な状況にさらされて以来、サーモフィッシャーサイエンティフィックは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を検出するための何百万におよぶPCRキットの供給に始まり、パンデミックの最前線で活躍される医療従事者の方々を感染から守るための個人防護具(PPE)の製造に至るまで、積極的にSARS-CoV-2感染拡大の対策に取り組んでいます。このような多くの不安を抱える時代に、想像を絶するような事態に直面した社員が多くの感動的な物語を生み出しました。
そのストーリーの一つであるIon Torrent™ Ion AmpliSeq™ SARS-CoV-2 Research Panel開発の舞台裏を今回はご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
・コロナウイルスの変異を検出し、注釈をつけたい
・Ion AmpliSeq SARS-CoV-2 Research Panelの詳細を知りたい
・SARS-CoV-2の全ゲノム配列の決定を次世代シーケンサで自動化および高速化したい
記録的な速さでデザインを確立したIon AmpliSeq SARS-CoV-2 Research Panel
ここでは、クリニカルシーケンス部門のメンバーらがどのように力を合わせ、新しいNGSパネルであるIon AmpliSeq SARS-CoV-2 Research Panelをこれまでにない速さで開発を成し遂げたかをご紹介します。
このアッセイは、人々の営みへ壊滅的な影響を取り除くことが最終目標で、正確なデータを伝えることによって新型コロナウイルス感染症の疫学研究の一助となるように設計されています。
われわれは、幸いにもクリニカルシーケンシング部門の製品マネジメント担当のシニア・ディレクターであるアンジャリ・シャア博士に会う機会を得ました。彼女はIon AmpliSeq SARS-CoV-2 Research Panelの開発プログラムのチームを率いてパネルを完成に導きました。
インタビュアー:シャア博士、Ion AmpliSeq SARS-CoV-2 Research Panel開発計画の背景にはどのようなモチベーションがあったのでしょうか。また、チームで活躍された経験についてご紹介いただけますか。
シャア博士:そうですね。このような緊急事態において、未曽有の公衆衛生の危機を乗り越えるためにわれわれの支援できることが何かを考えたとき、生物学的な洞察を世の中がいかに迅速にできるかということが非常に重要であり、私が14年間、この会社で働いてきた中でもっとも誇りに思う瞬間であったことは明確です。
部門横断的にさまざまなチームの人々が集まり、SARS-CoV-2関連の最前線で活躍する著名な研究者と協力して、このウイルスの特質を理解し、その伝播様式を研究する疫学研究にとってもっとも影響力のあるソリューションの1つを届けるに至りました。ウイルスは、さまざまな地域や集団において感染拡大する際に塩基配列の変異を伴います。これを検出することで疫学的影響と病気の重症度との潜在的な関連性をより深く理解し、ワクチン開発研究を支援することができます。
構想から製品化まで、このSARS-CoV-2関連ソリューションは、研究開発、製品マネジメント、マーケティング、営業、フィールドサポート、受注課、法務、規制関連の各チームの80人以上の従業員の協力により、わずか6週間で世界中の研究者らが利用できるようになりました。また、幸運にも、それぞれの分野の専門家である20人を超えるグローバルな共同研究者と協力して、このウイルスを真に理解し、その疫学に関する詳細情報を提供できるようになりました。
公衆衛生問題の解決についての考え方を大きく変えるような、このソリューションを利用したユーザーの話や、公開され始めているデータを報じたプレスリリースやソーシャルメディアの投稿をすでに見たり聞いたりしたことがあるかもしれませんね。
インタビュアー:それはとても刺激的なお仕事ですね。あなたが開発して製品化されたものの必要性について詳しく教えてください。
シャア博士:もちろんです。私たちが作り上げたソリューションは、Ion GeneStudio™ S5システムに対応したIon AmpliSeq SARS-CoV-2 Research Panelであり、これには当社のもっとも注力している製品の一つであるIon AmpliSeqテクノロジーが用いられています。
私たちが見立てた必要性については、第一に、ユーザーの方がもっともアクセスしやすいプラットホームでSARS-CoV-2ウイルスに関する生物学的な見識を迅速に得られるようにしたかったのです。第二に、Ion GeneStudio S5システムの高い汎用性により、条件を最適化して、喀痰、鼻咽頭スワブ、血液、さらには糞便など、世界中の研究室で使用されているさまざまなサンプルタイプに対応することです。これらに由来するサンプルにはごく微量なコピー数から数万コピーに及ぶ幅広いウイルス量が含まれているため、潜在的にウイルスが含まれているすべてのサンプルに対して実験系を最適化する作業が必要不可欠でした。このソリューションでは、感染の重症度を研究し、ワクチン開発研究を支援するために使用できる完全なゲノム配列と主要な変異体の情報を取得することが可能でしょう。
インタビュアー:なるほど。ソリューションがさまざまな状況で確実に機能することを確認するのは非常に重要ですね。あなた方のチームが開発したSARS-CoV-2 Research Panelについて、より詳しく教えてください。また、特定されたゲノム配列と主要な変異体についても言及されましたが、入手可能なデータについてもう少し詳しく教えてください。
シャア博士:そうですね。このワークフローは、わずか1 ngの核酸から始まる「検体からレポートまで」のソリューションと呼ばれるものです。そして特に強調したいのは、中国のバイオインフォマティクスチームと素晴らしい仕事ができたことです。彼らは、新しいリサーチプラグインパッケージ開発の中心であり、検体の重要な意味を持つバリアントに必要な注釈を付けるだけでなく、分析されたすべてのサンプルのウイルスのコンセンサス配列を構築することもできます。
この特別なパネルは完全なSARS-CoV-2ゲノムを解析するアッセイのひとつであり、疫学調査を目的としています。パネルは、247個のアンプリコンを含む2つのプールからなり、そのうち237個はウイルスに固有です。各プールには5つのヒト遺伝子の内在性コントロールがあります。そして、これらの「ヒト遺伝子内在性コントロール」は、実際にはサンプル量およびライブラリ調製の内部陽性コントロール(IPC)として機能するため、処理されたすべてのサンプルから貴重なシーケンスを取得できます。パネルはSARS-CoV-2ゲノムの99%以上をカバーしており、このパネルは基本的にウイルスの表面の細胞抗原を特徴とするウイルス亜種であるすべての潜在的な血清型に対応できると考えています。
インタビュアー:このパネルの次の計画はいかがでしょうか?また、最後に将来を見据えてコメントをいただけますでしょうか?
シャア博士:もちろんです。私たちのミッションはここで終わりません。ほんの数週間前に、最新のシステムであるIon Torrent™ Genexus™ システムにIon AmpliSeq SARS-CoV-2 Research Panelを対応させました。SARS-CoV-2の再流行のリスクを防止または低減することは不可欠で、封じ込めの戦略を研究するには、このシステムが実現する迅速なターンアラウンドタイムと信じられないほどの自動化が重要なポイントになると多くの人が確信します。
最後に、この壮大なプロジェクトに関わったすべての人に「ありがとう!」と言って締めくくりたいと思います。このソリューションの確立は、この取り組みに貢献したすべての人の情熱と献身によるもので、たゆまない感染症研究に役立つNGSソリューションを迅速に世界に提供するために、今日もサーモフィッシャーサイエンティフィックの社員やこのプロジェクトにかかわった多くの人々が努力を続けています。
参考記事
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