リキッドバイオプシーは血液や尿などの体液を解析するもので、疾患の早期発見やモニタリングへの応用が期待されている技術です。
がん研究の最前線で活躍する2人の研究者がcirculating tumor DNA(ctDNA)と細胞外小胞(extracellular vesicles:EVs)を対象としたリキッドバイオプシーの研究事例について講演するセミナーが開催されました。セミナーでは肺がんと悪性脳腫瘍(膠芽腫)について、早期診断や個別化治療を目的とした患者の層別化、微小残存病変(minimal residual disease:MRD)のモニタリングについて話がなされました。
本記事ではセミナーの内容について簡単にご紹介します。オンデマンド配信もありますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
肺がんに対するctDNAの活用事例
講演者の一人はマドリードのプエルタ・デ・イエロ病院のリキッドバイオプシーラボ責任者であるAtocha Romero博士です。博士は肺がんマネジメントにおけるリキッドバイオプシーの臨床的有用性について述べました。異なる腫瘍病変の分子情報の再現、治療失敗の原因となるがん遺伝子変異の特定にctDNAが活用できると話しました。非小細胞肺がん(NSCLC)では、ctDNAプロファイリングによって検出された変異が個別化治療の方針決定の手掛かりとなります。またctDNAのレベルとNSCLCの生存期間の相関性について述べました。
Romero博士はApplied Biosystems™ QuantStudio™ Absolute Q™ デジタルPCRシステムを使用し、非侵襲的なバイオマーカー解析を目指しctDNA中の希少変異を定量しています。Romero博士のインタビュー動画もあわせてご覧ください。
悪性脳腫瘍(膠芽腫)に対するエキソソーム解析の活用事例
もう一人の講演者はマドリードのINGEMMでExperimental Therapies and New Biomarkersのディレクター兼がんエピジェネティクス研究室の責任者Inmaculada Ibáñez de Cáceres博士です。リキッドバイオプシーを活用した悪性脳腫瘍(膠芽腫)でのDNAエピジェネティクス解析の進歩と臨床的意義について講演しました。cell-free DNA(cfDNA)の感度の問題により、チームは血液脳関門を通過し、品質の高いDNAを保持する細胞外小胞、特にエキソソームを使用することとしました。
彼女のチームは、膠芽腫のバイオマーカーであるMGMTメチル化を検出する新しい定量アッセイdp_qMSP(ダブルプローブ定量メチル化特異的PCR)を開発しました。この方法は、組織生検とリキッドバイオプシーから抽出した細胞外小胞の両方で効果的でした。チームは現在、より高い感度を実現するためにデジタルPCRの標準化に取り組んでいます。
Q&Aセッション
Q&Aセッションでは参加者から多数の質問が寄せられました。
Q:リキッドバイオプシーサンプルの分析において、感度はどれほど重要ですか?
Romero博士は感度を最大限に高める必要性があると強調しました。リキッドバイオプシーはバイオマーカー検査を加速させ、個別化治療のために患者を層別化できる可能性がありますが、少ないサンプル量と低いcfDNA収量により制約が生じます。彼女は感度の制約と偽陽性のリスクを伝え、可能な限り組織生検と追加の検査を行うことを推奨しました。
Q:リキッドバイオプシーにおいて感度に影響する要因は何ですか?
Cáceres博士は、必要とされる感度は臨床研究の目的によって異なるとしました。診断、予後管理、治療効果測定、微小残存病変の探索など目的によって要求される感度は異なります。感度はリキッドバイオプシー解析に使用される技術によって変わり、バイオマーカーの種類やサンプルの性質、使用される技術に左右されます。
Q:cfDNAとctDNAは何が異なるのですか?
cfDNA(cell-free DNA)とctDNA(circulating tumor DNA)は分子的には同じものです。ctDNAは腫瘍から発生し、そのため腫瘍遺伝子変異が含まれます。cfDNAは循環無細胞DNAの総称です。
Q:ctDNAは早期のがん検出にどの程度有用ですか?
Romero博士は、ctDNAのリキッドバイオプシー分析を、肺癌の早期発見とスクリーニングに利用し、画像診断と組み合わせることで、より効果的なスクリーニングプログラムを開発することに前向きです。ctDNA以外の解析物、例えばタンパク質、マイクロRNA、およびメチル化パターンやトポロジーなどの遺伝子以外の特徴の測定の有用性についても言及しました。
Q:通常、ctDNAテストにはどのくらいのサンプル量が使用され、それは感度にどのように影響しますか?
血液/血漿の量が多ければ多いほど、DNA収量が多くなり、それによってテストの感度は向上します。推奨される最小量は血漿で4 mLですが、より良い感度を実現するためにはより多くのサンプルの使用が望ましいです。血液中のctDNAの割合は低く、しばしば0.1%未満であることが難しい点です。
Q:dPCR(デジタルPCR)と次世代シーケンシング(NGS)は、がんトランスレーショナルリサーチにおいてどのように補完的な役割を果たしていますか?
両方の技術は相補的なものと見なされており、どちらを活用するかは研究目的、感度要件、コストなどのさまざまな要素に依存します。デジタルPCRは既知のマーカーの高感度検出に役立ちますが、NGSはより広範な情報を提供し、新規マーカーを明らかにすることができます。両者を活用することで、早期がん検出、スクリーニング、個別化医療の研究を進めることができるでしょう。
Q:リキッドバイオプシーは今後5年間でどのように進化すると予想されますか?
Romero博士は、リキッドバイオプシーが早期がん検出、最小残存病変モニタリングにおいて臨床研究を大きく進展させると予測しています。彼女は高感度アッセイが肺がん研究において重要な役割を果たすと予想しています。
Cáceres博士は、リキッドバイオプシーのシングルセル解析とマルチオミクスへの展開を予測しています。これらは現在では組織に限定されていますが、感度の向上により、診断や個別化医療のためにシングルセルトランスクリプトミクスが可能になるかもしれません。
まとめ
セミナーオンデマンド配信
本セミナーの録画をオンデマンドで配信中です。ぜひご覧ください。
「予測ゲノミクスでがんを理解する」ハンドブック
Absolute QデジタルPCRシステムについてのAtocha Romero博士へのインタビュー記事の他、マイクロアレイやキャピラリー電気泳動などのがん研究を支える遺伝子解析技術についても紹介しています。日本語版を無料でダウンロードしていただけます。
今回ご紹介したAbsolute Q™デジタルPCRシステムについては、バーチャルデモで装置やソフトウエアの操作を疑似体験していただけますので、ぜひお試しください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。