デジタルPCRは、PCR反応液を数万の小さなPCR反応に分割することで、DNAを高度に定量する技術です。このデジタルPCRは標準曲線なしでターゲットを高精度に測定できることから、少量の核酸を正確に定量したい場合に最適な技術です。
そのため、がん研究の分野ではデジタルPCRはリキッドバイオプシーでのレアバリアント検出やCopy Number variationの測定など、さまざまな用途に活用されています。今回の記事ではRNA編集におけるデジタルPCRの活用事例を、文献をもとにご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
- がん研究を実施されている方・興味がある方
- ゲノム編集を実施されている方・興味がある方
- デジタルPCRの活用事例を知りたい方
がんの発生を示すRNA編集イベントとは?
STAR Protocolsに掲載された文献で、サンウ・オ氏とレミ・ブイソン博士は、デジタルPCRを用いてホットスポットでのRNA編集イベントを定量化する方法を開発したと報告しました。RNA編集イベントは、APOBEC3Aのような酵素が、既存のRNAに特定の変異を加えることで起こります。いくつかのRNA編集イベントはがんの発生に関連しており、APOBEC3AによるRNAの変化は腫瘍形成の原因となります。そのため、APOBEC3Aや同様の酵素の影響を理解することががん研究において重要です。
RNA編集イベントの解析方法
DNA変異とは異なり、RNA編集イベントは持続的にゲノムにコードされるわけではありません。編集されたRNAは速やかに分解されるため、従来のDNAやRNAに基づく分析技術では信頼性のある研究が困難です。RNA編集酵素の効果を正確に定量化するためには、より感度の高い方法が必要です。オ氏とブイソン氏の研究は、RNA編集イベントを測定するための簡単で流用可能なプロトコルの作成を目的としていました。彼らの方法はApplied Biosystems™ QuantStudio™ Absolute Q™ デジタルPCRシステムに最適化されました。
デジタルPCRの利点
デジタルPCRは、標準曲線を必要とせずに非常に希少な核酸ターゲットを正確に定量化できるため、リアルタイムPCRに比べて大きな利点があります。QuantStudio Absolute Q デジタルPCRシステムの迅速で簡単、再現性のあるワークフローは、希少ターゲットの解析に最適です。オ氏とブイソン氏のデジタルPCRの解析方法は、腫瘍化のターゲットを検出するのに十分なダイナミックレンジです。さらに重要な点は、プライマーが最適化されていれば、RNA編集による単一ヌクレオチドの変異を検出できることです。これにより、希少な基質における非常に小さな編集の検出が可能です。この感度のおかげで、オ氏とブイソン氏の方法は、自然発生するRNA編集の研究だけでなく、CRISPR-Cas9技術や他の遺伝子編集に使用されるRNA変化プロセスの研究にも適用できます。RNAレベルでの遺伝子編集の正確な定量化は、治療および研究ツールとして大きな影響を与える可能性があります。デジタルPCRは、研究者がRNA編集イベントの影響をより理解するために必要な高い精度と正確性を提供します。オ氏とブイソン氏のプロトコルの詳細は、STAR Protocolsの記事をご覧ください。
まとめ
リキッドバイオプシーなど、デジタルPCRのアプリケーションをまとめた資料を無償で配布しています。デジタルPCRの活用事例をぜひご覧ください。
ダウンロードする参考文献
Oh S, Buisson R (2022) A digital PCR-based protocol to detect and quantify RNA editing events at hotspots. STAR Protoc 3(1):101148. doi:10.1016/j.xpro.2022.101148.
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