Absolute Gene-iusは、先進的な研究者にインタビューし、彼らのキャリアパス、ラボストーリー、画期的なデジタルPCR研究についてインタビューするポッドキャストです。
Season1 Episode3では寄生虫の研究にデジタルPCRを活用している、アルバータ大学の公衆衛生学部 准教授パトリック・ハニントン博士が登場しました。寄生虫というと悪いイメージがありますが、生態系において重要な役割を果たしています。今回のインタビューでは、淡水生態系での寄生虫に焦点を当てています。デジタルPCRを活用するメリットについてはもちろん、テレビや映画で科学がどう表現されているかなど、研究から少し離れた話もでてきます。研究の息抜きにもぜひご覧ください。
▼こんな方におすすめです!
・デジタルPCRの活用事例について知りたい方
・環境DNAを対象に研究している方
・寄生虫研究に興味がある方
▼もくじ
インタビューの概要
パトリック・ハニントン博士のチームは、水鳥に感染し、幼虫期に巻き貝を宿主として利用する寄生虫の鳥類吸虫について研究をしています。幼虫は人間にも感染し、「swimmer’s itch(泳ぎ手のかゆみ)」として知られる皮膚炎を引き起こします。
チームは、鳥類吸虫を含む淡水性寄生虫を検出するためにデジタルPCRを活用した試験の開発に取り組んでいます。彼らの研究は、地域住民にとって皮膚炎の発生を監視できるという点で役立っています。また、寄生虫によって引き起こされる住血吸虫症はマラリアに次ぐ世界で2番目に感染者数の多い病気ともいわれており、彼らの研究は人間の住血吸虫症研究に関するモデルとしても有用であると考えられます。
詳細は、「Absolute Gene-ius dPCR Podcast Episode」をwww.thermofisher.com/absolutegeneius
ご聴講ください。
インタビュー内容
淡水生態系における寄生虫の検出
質問:公共の水域やレクリエーション用の水域で寄生虫を検出する際、具体的にはどのような作業を行っていますか?水サンプルの中から寄生虫を見つけるために具体的に何をしているのですか?
パトリック・ハニントン博士:私たちは、熱帯地域で病気を引き起こす可能性のある寄生虫と関連する寄生虫群の研究に取り組んでいます。北米で取り組んでいる研究対象の寄生虫は皮膚疾患を引き起こします。蚊に刺されたような症状で、かゆみは2週間続くことがあり、特に子供にとって不快な症状です。
この寄生虫は淡水の巻き貝によって伝播されます。寄生虫の生活環を継続するためには巻き貝が必要なのです。そして寄生虫の次の宿主は水鳥です。水域にいる鳥を探し、その鳥の皮膚に侵入しようとします。人はその過程の犠牲者なのです。
過去、これらの寄生虫を探すために、多くの巻き貝を集め、どの巻き貝がどの寄生虫を放出しているかを調べました。この方法で調査は可能ですが、複雑なプロセスです。巻き貝には他にも多くの寄生虫が存在するため、解析が困難でした。
巻き貝と寄生虫の生産
質問:巻き貝を調べる際、巻き貝を見て、どれだけ寄生虫がいるかを予測するのでしょうか?寄生虫を検出するだけですか?
パトリック・ハニントン博士:実際には、非常に興味深いプロセスです。巻き貝は最終的にこれらの寄生虫に乗っ取られ、寄生虫を生産する小さな工場のようになります。それはかなり狂った状態で、寄生虫が巻き貝の25%を占めてしまうこともあります。寄生虫の幼虫は微小なオタマジャクシのようなもので、巻き貝から組織を通じて出てきます。数千匹いることもあります。
私が学生に寄生虫学を教えるとき、映画「エイリアン」を例にします。エイリアンがリプリーの胸から飛び出すシーンのようなものと説明します。しかし、最近の学生の多くは「エイリアン」を観ていないことに気付きました。現在の学生の必見映画リストに「エイリアン」は含まれていないので、その例が通じないのです。しかし、寄生虫が巻き貝に起こしていることを説明するにはエイリアンは完璧な例えです。生徒たちの理解のために、視聴すべき映画のリストを渡す必要があると感じています。
質問:「コンテイジョン」も見せますか?私が大学でウイルス学を学んでいたとき、「コンテイジョン」は必見映画でした。非常に鮮明に覚えています。
パトリック・ハニントン博士:それもリストに追加すべきですね。それより前に公開された映画「アウトブレイク」もありました。キューバ・グッディング・ジュニアとダスティン・ホフマンが出演していました。この映画は、科学的な手順に関してどれだけ技術的に具体的になれるかという点で参考になる、非常に素晴らしい映画です。映画では、ウイルスを猿がアメリカに持ち込んだことが分かり、科学者役のキューバ・グッディング・ジュニアは「これをラボに持ち帰ってELISAを行わなければならない」と言っています。これは非常に具体的な科学的テストです。「ELISAを行う」というセリフのある映画として思い浮かぶ唯一の映画です。
寄生虫の生活環と巻き貝宿主への影響
質問:私は寄生虫について詳しくありませんが、寄生虫が巻き貝から飛び出すとは、実際どのようなものですか?巻き貝にとって有害なのですか?巻き貝が爆発するのでしょうか?
パトリック・ハニントン博士:巻き貝には確かにいくつかのマイナスの影響があります。一方で、私たちは感染した巻き貝を研究室に持ち込み、保持するための部屋におきますが、数カ月間生きたまま保てます。巻き貝はその状態でも生きており、ほぼ毎朝寄生虫を生産します。寄生虫は太陽が昇ると巻き貝から出てきます。そして光に反応して水の表面に浮かび上がり、鳥や水中にいる人に触れると皮膚を貫通します。1分以内に皮膚の中に入ります、入るのにあまり時間はかかりません。
人間に寄生する寄生虫の場合、寄生虫は血液中に入り、移動して成虫に成長します。一方で、皮膚炎を引き起こす寄生虫では、寄生虫は皮膚で殺され、局所的な炎症反応のみが起こります。私たちの目標は、レクリエーション用水域における皮膚炎のリスクを精度高く評価する方法を見つけることでした。私たちは腸管細菌などをモニタリングするためによく使用されるレクリエーション用水質モニタリングの視点を応用することにしました。
PCR、リアルタイムPCRを使用して、水サンプルから皮膚炎を引き起こす寄生虫のすべての種を検出するテストを開発しました。さらに検証をして、寄生虫の数を定量化し、サンプル収集の方法を標準化しました。現在私たちがサンプリングに出かけるときは、20ミクロンの動物プランクトン収集網を使用します。これは底にカップが付いた90 cm程度の長さのメッシュ網で、一定量の水を流し込みます。流し込んだ水はすべて底のカップに集まります。その後、より小さなフィルターを通して水サンプルに含まれていたすべてのものをフィルターに濃縮します。サンプルを分析し寄生虫の数を定量化するためにリアルタイムPCRを実行します。私たちは、皮膚炎を引き起こす寄生虫を定量化するだけでなく、PCRを使用して種の同定を行うレベルにまで進化させることを試みました。
PCRターゲットの選択と種特異的な検証
質問: PCRを使用する際、同定するために複数の異なるターゲットを見る必要がありますか?それとも種共通の領域を見ていますか?
パトリック・ハニントン博士:私たちは同定するために単一の遺伝子ターゲットを見ています。ただし、種で遺伝子がわずかに異なる領域を見ています。幸いなことに、これらの寄生虫は水サンプル中の他の生物と明確に識別できていて、この方法は上手くいっています。他の生物と識別できるかは環境微生物学や寄生虫学を研究する際の最も大きな課題の1つです。水サンプルにDNAを残したり存在したりする可能性のある他のすべての生物とのクロス反応が起こらないように特に注意する必要があり、多くの検証が必要です。
検証を行うためには、検出しようとしているさまざまな種の標本と、クロス反応が起こり得るすべての生物の標本を持っている必要があります。試験を開発するために必要なサンプルを蓄積するために多くの時間がかかりました。現在、約100種類の寄生虫のDNAサンプルを所有しています。これは非常に役に立ちます。なぜなら、偽陽性や偽陰性などのテスト結果を得ないことを確認するために使用できるからです。
寄生虫研究の目標と意義
質問:研究の最終目標は何でしょうか?単に寄生虫についてもっと理解することでしょうか?
パトリック・ハニントン博士:1つは皮膚炎を引き起こす寄生虫である鳥類吸虫についてもっと理解することです。私にとって興味深い寄生虫ですが、人間の寄生虫についても多くの推論を立てられます。生態系の観点からは、水生生態系内の寄生虫の生育数の要因について多くの仮説を検証できます。私たちは、皮膚炎を引き起こす寄生虫を使用して、それらの寄生虫が水生生態系内でどのように振る舞うかの仮説をテストできる素晴らしいシステムを持っています。これらの寄生虫は、熱帯地域での病気を引き起こす寄生虫よりもはるかにリスクが低く、実験を設計しやすいです。またもっと大きな視点で見ると、寄生虫の生息データが水生生態系の生物多様性を示す指標として使用できることが最近明らかになってきました。ですので、私たちは生息する鳥や哺乳類を寄生虫のデータから予測できます。eDNAメタバーコーディングを活用して水生生態系の寄生虫プロファイルを作成することで、水生生態系の生物多様性を予測できるのです。
環境への影響と侵略的種
質問:侵略的な種が入ってきた場合、メタバーコーディングは大きく変化するでしょうか?生態系自体が変化するにつれて、これらの寄生虫は変化すると思われますが、どうでしょうか?
パトリック・ハニントン博士:はい。私たちは侵略的種が水生生態系全般にどのように影響を与えるかについて調査するための助成金を受け取り研究しています。eDNAメタバーコーディングを行い、デジタルPCRの結果と比較しています。
水生生態系のeDNAサンプルには、非常に多くの生物のDNAが含まれています。そこで希少な侵略的種のシグナルが失われないように高い感度と高い特異性をもつデジタルPCRのデータも活用しています。早期検出型のアプローチでは、デジタルPCRは非常に強力なツールになると考えています。対象生物の調査にとって、デジタルPCRはエキサイティングなツールとなるでしょう。
環境研究におけるデジタルPCR
質問:どのようにデジタルPCRをワークフローに活用しているのか詳しく教えください。
パトリック・ハニントン博士:先に述べたように、私たちはリアルタイムPCRの経験が非常に豊富です。数年前になりますが、リアルタイムPCRで環境サンプルを測定する際にいくつかの問題に気付きましたが、それらの多くはデジタルPCRによって解決されました。よく問題になるのは、サンプル中のPCR阻害物質です。私たちは水サンプルを測定します。みなさんはアルバータに来たことがないかと思いますが、ここの湖はかなり汚れています。
質問:澄んだ水でも、泥や堆積物、植物などが含まれると想像できますね。
パトリック・ハニントン博士:中央アルバータのすべての湖にはシアノバクテリアのブルームがあります。私たちは常にシアノバクテリア由来のPCR阻害物質と闘っています。DNA抽出時にDNAのクリーンアップ手順を行うことで、サンプルを少しきれいにでき、阻害物質の除去にも効果的です。デジタルPCRの大きな利点の1つは、環境サンプルにおいて阻害物質の影響をより少なくできるということです。
そして、もう1つは、リアルタイムPCR反応よりもマルチプレックス解析が容易であるということです(マルチプレックス解析:1つのウェルで2つ以上のターゲットを測定する反応)。これは私たちが行っている侵略的種の研究にとって非常に有利です。特定の侵略的種グループを検出できるようにカスタマイズされたデジタルPCRパネルを作成します。1反応で4つの侵略的種を評価できるというのは非常に興味深いです。
デジタルPCRのマルチプレックスの利点
質問:デジタルPCRは、マルチプレックス反応にどのような利点をもたらしますか?
パトリック・ハニントン博士:Applied Biosystems™ QuantStudio™ Absolute Q™デジタルPCRシステムにはリアルタイムPCR用のアッセイを使用できるという非常に大きな利点があります。そのため、アッセイの性能などの従来の検証をリアルタイムPCRで行い、Absolute Qシステムに移行できます。
マルチプレックスに関しては常に阻害物質の影響に苦労しています。蛍光色素や増幅させるターゲットによっては、マルチプレックス反応で問題を引き起こすアッセイもあります。そのため通常私たちは、リアルタイムPCRでは単一の蛍光色素で測定しています。もちろん、リアルタイムPCRでもマルチプレックス反応をすることはできますが、2つの異なるアッセイがワークするためには、多くの検証作業が必要です。デジタルPCRシステムAbsolute Qでは、3つの蛍光色素を使用した測定結果も非常に明瞭であり、通常4つ目の蛍光色素を使用した場合も優れたデータが出ます。デジタルPCRは簡単にマルチプレックスを行えるプラットフォームです。
システムの動作もシンプルなため、操作も非常に簡単です。サンプルをロードして4つの蛍光色素でランを実施するだけです。これで4つの異なるターゲットのコピー数の情報を取得できます。リアルタイムPCRでは、酵素量とDNAの量、反応のさまざまな成分の存在などを最適化する必要がありましたが、Absolute QシステムはマルチプレックスPCRをより簡単に行えます。私たちはDNAの量や水の量、酵素の量など条件検討をしましたが、プロトコル通りの量が適切であるとわかりました。私たちのラボでは、修士課程の学生や博士課程の学生、時には学部生がこのような研究に取り組んでいるため、簡単に実験ができることは大切です。
実際のインタビューは「Absolute Gene-ius dPCR Podcast Episode」をwww.thermofisher.com/absolutegeneiusで聴いてください。
まとめ
パトリック博士の話にもある通り、デジタルPCRはリアルタイムPCRと比較して阻害耐性が高く、マルチプレックスの実験系構築が容易と言われています。水などの環境サンプルを解析される方におすすめのアプリケーションです。
当社ではどなたでも簡単にリアルタイムPCR感覚で使用できるQuantStudio Absolute Qシステムを提供しています。デジタルPCRの活用事例を紹介した、テクニカルノート、アプリケーションノートを配布しています。
排水中のコロナウイルスを測定に関する資料「Analyzing wastewater samples for SARS-CoV-2 targets using the QuantStudio Absolute Q Digital PCR System」もありますので、ぜひご覧ください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。