前回(【第3回】“RNA cargo”の精製と定量解析)では、エクソソーム (エキソソーム) からの トータルRNA “RNA cargo (カーゴ)” の精製について説明しました。今回は、精製したRNAからのmicroRNA(miRNA)の定量解析について説明します。具体的には、Applied Biosystems™ TaqMan™ MicroRNA Assaysを用いたリアルタイムRT-PCR解析の方法と実験データの解析についてご紹介します。
▼もくじ
TaqMan MicroRNA Assaysを用いたリアルタイムPCR解析
本パートの内容は簡易プロトコルです。詳細は下記マニュアルをご覧ください。
https://assets.thermofisher.com/TFS-Assets%2FLSG%2Fmanuals%2F4364031_TaqSmallRNA_UG.pdf
【必要な試薬】
• TaqMan MicroRNA Assay(5× RT primerと 20× TaqMan™ Assayのセット)
ターゲットmiRNAに対するAssayはWebで検索・購入できます。
• Applied Biosystems™ TaqMan™ MicroRNA Reverse Transcription Kit(製品番号:4366596)
• Applied Biosystems™ TaqMan™ Universal Master Mix II, no UNG(製品番号:4440040)
ご注意:Applied Biosystems™ TaqMan™ Fast Advanced Master Mix(製品番号:4444556)、TaqMan™ Universal Master Mix II, with UNG(製品番号:4440042) なども利用できます。
前回ご紹介しましたInvitrogen™ Total Exosome RNA & Protein Isolation Kit(製品番号:4478545)で精製したトータルRNAをスタートサンプルとして使用し、エクソソーム中のmiRNAの定量を行います。
一般的なリアルタイムRT-PCRアッセイでは、スタートのRNAの量を測定し、適当な量に合わせて解析を進めることが多いですが、エクソソーム由来のトータルRNAは非常に微量のため、分光光度計や蛍光光度計による正確な濃度測定は難しいです。さらに、エクソソームではユニバーサルで利用できる内在性コントロールがなく、外因性コントロール (スパイクの添加) が難しいため、比較するサンプル間の補正をどのように行うかが課題となっています。
当社では、スタートのサンプル量を基準に リアルタイムRT-PCR解析を行う方法を紹介しています。 つまり、比較するサンプル間で スタートサンプル量をそろえてエクソソームを回収し、全エクソソームからRNA精製を行います。リアルタイムRT-PCR解析には、RNAの濃度測定は行わず 同じ液量のRNAサンプルを使用します。これにより比較するサンプル間のスタート量をそろえることができます。しかしながら、この手法を用いる場合、エクソソームの回収方法とRNA精製方法を比較するサンプル間で統一する必要があります。
例えば、以下の図1の例では、リアルタイムRT-PCRを用いたエクソソーム中のmiRNA検出を行う際の実験の工程をまとめています。エクソソーム回収のためのスタートのサンプル量を固定し(血清1 mL、培養上清10 mL)、RNAを精製します。リアルタイムRT-PCRの1反応あたりのサンプル添加量は、血清を用いた解析で3.3 μL由来のRNA、培養上清を用いた解析では33 μL由来のRNAが使用されています。それぞれ比較するサンプル間でスタートサンプルを統一させることにより、サンプル間のばらつきの補正を行っています。
血清と培養上清のスタートサンプル量が異なるのは、培養上清中のエクソソーム量が非常に少ないため、血清の10倍量のサンプル由来RNAをアッセイに使用し、検出感度を上げています。図1には、スタートサンプルの量から、RNA精製、逆転写反応、そしてリアルタイムPCR解析までの工程をまとめています。実験計画を立てる際のご参考にしてください。

図1. TaqMan MicroRNA Assaysを用いたリアルタイムPCR解析の実験工程
10 mLの培養上清および1 mLの血清から、それぞれに適合したInvitrogen™ Total Exosome Isolation Reagents を用いてエクソソームを回収します。回収したエクソソーム全量から、Total Exosome RNA & Protein Isolation Kit を用いてトータルRNAを回収します(溶出液量100 µL)。さらにトータルRNAから5 µL分をTaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kitで逆転写反応し、得られたcDNAサンプル 1.33 µL分をリアルタイムPCR解析に使用します。
(1)TaqMan MicroRNA Assays : 逆転写反応
ご注意:TaqMan MicroRNA AssaysではmRNA発現解析のように、さまざまな遺伝子の発現解析に対応するユニバーサルRTプライマー(Random primerやOligo(dT) primer)を採用していません。ターゲットmiRNAごとに逆転写反応を行う必要があります。
1. 以下のコンポーネントで凍結されているものは氷中で融解し、穏やかにミックスし、氷中に置きます。
• TaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit (製品番号:4366596)
• 5× RT primer (TaqMan MicroRNA Assay添付の標的miRNA用RT primer)
• RNAサンプル
2. 氷中で以下のマスターミックスを調製します。マスターミックスは反応するサンプル数分をまとめて調製してください。調製後は穏やかにミックスし、氷中に置きます。
| Component | 1 反応分 (Master mix/ 15 μL reaction) |
n 反応分 (Master mix/ 15 μL reaction) |
|---|---|---|
| 100mM dNTPs (with dTTP) | 0.15 μL | |
| Invitrogen™ MultiScribe™ Reverse Transcriptase, 50 U/μL | 1.0 μL | |
| 10× Reverse Transcription Buffer | 1.5 μL | |
| RNase Inhibitor, 20 U/μL | 0.19 μL | |
| Nuclease-free water | 4.16 μL | |
| Total volume | 7.0 μL |
3. 2で調製したマスターミックスを7 µLずつPCRチューブに分注し、RNAサンプルとRT プライマーを添加し、穏やかにミックスした後、氷中に置きます。
| Component | 1 反応分 (15 μL reaction) |
|---|---|
| Master mix | 7.0 μL |
| 5 × RT primer | 3.0 μL |
| RNA sample | 5.0 μL |
| Total volume | 15 μL |
4. 氷中で5分間インキュベートし、サーマルサイクラーにセットする直前まで氷中に置きます。
5.以下の反応条件で逆転写反応を行います。
• 反応液量:15 µL
• 反応モード:Standard mode ( FastとStandardの設定がある場合)
| Step | Time | Temperature |
|---|---|---|
| Hold | 30 min | 16 ℃ |
| Hold | 30 min | 42 ℃ |
| Hold | 5 min | 85 ℃ |
| Hold | ∞ | 4 ℃ |
6. すぐにリアルタイムPCR反応へ進む場合は、次の“(2) TaqMan MicroRNA Assays:リアルタイムPCR ”のステップへ進んでください。すぐに次の反応へ進まない場合は、-15 ~ -25 ℃でcDNAサンプルを保存してください。
(2)TaqMan MicroRNA Assays : リアルタイムPCR
1. 以下のコンポーネントで凍結されているものは氷中で融解し、穏やかにミックスし、氷中に置きます。
• TaqMan MicroRNA Assay (20×)
• cDNA サンプル
• TaqMan Universal Master Mix II, no UNG
2. 1反応あたり反復3(n=3)で反応を行うことをおすすめします: 反復サンプルはまとめて1.5 mLのチューブで調製し、ミックスします(室温で調製可能です)。
| Component | Volume per 20 μL Reaction | |
|---|---|---|
| Single reaction (n=1) |
Three replicate※2 (n=3) |
|
| TaqMan MicroRNA Assay (20×) | 1 μL | 3.6 μL |
| cDNA(RT product) ※1 | 1.33 μL | 4.8 μL |
| TaqMan Universal Master Mix II, no UNG | 10 μL | 36 μL |
| Nuclease-free water | 7.67 μL | 27.6 μL |
| Total volume | 20 μL | 72.0 μL |
※1 1.33 μL/反応が、添加できる最大のcDNA液量になります。逆転写反応に添加したRT primerが反応阻害を誘導する場合があるため、cDNAはリアルタイムPCR反応の最終量に対して1/15以下にする必要があります。
※2 反復サンプルは1チューブにまとめて調製することをおすすめしています。ピペッティングロスも配慮して、必要量に対して20%多くしています。
3. リアルタイムPCR反応用のプレートに20 μLずつ分注し、プレートに専用のシールをします。
4.以下の条件でリアルタイムPCR反応を行います。
• 反応液量:20 μL
• 反応モード:Standard mode
| Step | Enzyme Activation |
PCR | |
|---|---|---|---|
| Hold | Cycle (40 cycles) | ||
| Denature | Anneal/ extend |
||
| Temperature | 95 ℃ | 95 ℃ | 60 ℃ |
| Time | 10 min | 15 sec | 60 sec |
ご注意:TaqMan Fast Advanced Master Mix(製品番号:4444556)、TaqMan Universal Master Mix II, with UNG(製品番号:4440042) など、他の試薬を使用する場合、サーマルサイクル条件が異なります。詳細は、Applied Biosystems™ TaqMan™ small RNA Assays User Guide の18ページを確認してください。
結果と考察
一般的なリアルタイムPCRを用いた相対定量法では、サンプル量の補正を行うために、サンプル間で発現が安定な遺伝子を内在性コントロールとして設定します。しかし、エクソソームのRNA cargoの定量解析では、ユニバーサルに利用できる内在性コントロールとなる遺伝子がまだ特定されていません。
内在性コントロールの設定の主要な目的の1つは、比較サンプル間の反応液へのサンプルの持ち込み量を補正することです。そこで、ここではスタートサンプル量をそろえて比較する方法を提案します。この手法では、比較するサンプル間のRNA量をそろえてリアルタイムRT-PCRを実施する場合が多いですが、エクソソームから精製されるRNA量は非常に微量で、既存の手法で正確に測定できないため、RNA量で補正するのは適切ではありません。
そのため、RNAの精製前の処理であるエクソソーム回収に使用するサンプル量を統一することで、サンプル間の補正を行います。得られたCt値の差を直接サンプル間の差として解析します。この方法では、リアルタイムRT-PCR解析までの工程(エクソソーム回収、RNA精製、逆転写、リアルタイムPCR)で手技的なばらつきを生じさせないことが、正確な結果を得るために重要なポイントとなります。
図2は、図1の流れで調製した血清3.3 µL由来のエクソソーム中のRNA と、培養上清33 μL由来のエクソソーム中のRNA を使用し、リアルタイムRT-PCRでmiRNAの検出を実施した結果です。また、エクソソームの回収方法の違いによる測定感度の比較のため、Total Exosome Isolation Reagentsと超遠心法(3)で同量のサンプルからエクソソームを回収し、miRNAの検出感度を比較しました。
標的としたのは、5種類のmiRNA(miR16, miR24, miR26a, miR451, let7e)で、発現レベルをCt値で比較しています。これらのmiRNAは エクソソーム中のmiRNAの解析を行った初期の論文で、エクソソーム中に多く存在すると報告されたものを選択しました(1, 2)。全てのmiRNAのCt値は25~33程度で確認できており、超遠心法と比較して、Total Exosome Isolation Reagentsでエクソソームを回収した方が1~3サイクル程度高感度で検出されています。Total Exosome Isolation Reagentsを使用することで、より高収率でエクソソームを回収でき、その結果、エクソソーム中のmiRNAの検出感度が高くなっています。

図2. HeLa細胞の培養上清(a)および血清サンプル(b)から回収したエクソソームにおけるmiRNAのレベル
また、その他の体液サンプル(ヒト由来の血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)を用いて、Total Exosome Isolation Reagentsでエクソソームを回収した場合と、超遠心法で回収した場合のmiRNAの検出感度の比較を行いました。標的としたmiRNAはそれぞれのサンプルで比較的発現の高いものを選択しています(図3)。全てのサンプルにおいて、Total Exosome Isolation Reagentsで回収されたエクソソーム中のmiRNAの検出感度は超遠心法より高く、より高収率でエクソソームを回収できることが分かります。
Total Exosome Isolation Reagentsはスタートサンプルタイプに応じて最適化されており、試薬の種類および操作条件がそれぞれ異なっています。特に超遠心法で最適化が行われていないサンプルタイプでは、Total Exosome Isolation Reagentsの方が 超遠心法よりも大幅に高い感度を示しています。


図3. その他の体液サンプル(ヒト由来の 血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)から回収したエクソソームにおけるmiRNAのレベル
Reagent:各サンプルに適したTotal Exosome Isolation Reagentsでエクソソームを回収した場合の結果。
Ultra: 超遠心法でエクソソームを回収した場合の結果。
赤く囲まれたアッセイはmiRNAを標的としています。
まとめ
・エクソソーム中のmiRNA のリアルタイムRT-PCR解析では、内在性コントロール遺伝子が特定されておらず、エクソソーム由来のRNA量も正確な定量が難しいため、エクソソーム回収に使用するサンプル量を統一する方法を提案しました。この方法では、得られたCt値の差を直接サンプル間の差として解析します。
・血清、培養上清、その他の体液(血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)を用いて、Total Exosome Isolation Reagentsと超遠心法のmiRNA検出感度を比較した結果、全てのサンプルにおいて、Total Exosome Isolation Reagentsで回収されたエクソソーム中のmiRNAの検出感度が超遠心法よりも高いことが分かりました。
・特に、超遠心法で最適化が行われていないサンプルタイプでは、Total Exosome Isolation Reagentsの方が大幅に高い感度を示しています。
参考文献
- “Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells,” H. Valadi, K. Ekstrom, A. Bossios, M. Sjostrand, J. J. Lee, and J. O. Lotvall Nature Cell Biology, vol. 9, no. 6, pp. 654–659, 2007.[PubMed]
- “ExoCarta 2012: database of exosomal proteins, RNA and lipids,” S. Mathivanan, C. J. Fahner, G. E. Reid, and R. J. Simpson Nucleic Acids Research, vol. 40, pp. D1241–D1244, 2012.[PubMed]
- “Isolation and characterization of exosomes from cell culture supernatants and biological fluids,” C. Thery, S. Amigorena, G. Raposo, and A. Clayton Current Protocols in Cell Biology, vol. 3, p.3.22, 2006.[PubMed]
本パートで使用した製品一覧
・TaqMan MicroRNA Assays
・TaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit
・TaqMan Universal Master Mix II, no UNG
・Total Exosome Isolation Reagent (血清)
・Total Exosome Isolation Reagent (細胞培養上清)
関連リンク
・エクソソーム解析試薬
・エクソソーム関連Blog(本シリーズ含む)
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