【第5回】 “RNA cargo”の精製と定量解析」~mRNAの定量解析~

今回は、エクソソーム(エキソソーム)中のmRNAの定量解析について説明します。第3回でエクソソームから精製したtotal RNAを用い、Applied Biosystems™ TaqMan™ Gene Expression Assaysを用いたmRNA定量法を紹介します。


RNAサンプルについての注意


第4回のmiRNAの解析と同様に、Total Exosome RNA & Protein Isolation Kitで精製したtotal RNAをスタートサンプルとして使用し、エクソソーム中のmRNAの定量を行います。

一般的なリアルタイムRT-PCRアッセイでは、スタートのRNA量を測定し、適当な量に合わせて解析を行うことが多いですが、エクソソーム由来のtotal RNAは非常に微量のため、分光光度計や蛍光光度計で正確に濃度測定することが困難です。さらに、エクソソームではユニバーサルで利用できる内在性コントロールがなく、外因性コントロール(スパイクの添加)が難しいため、比較するサンプル間の補正をどのように行うかが課題となっています。

本稿では、スタートのサンプル量を基準にリアルタイムRT-PCR解析を行う方法を紹介します。つまり、比較するサンプル間でスタートサンプル量を揃えてエクソソームを回収し、全エクソソームからRNA精製を行います。リアルタイムRT-PCR解析には、RNAの濃度測定は行わず同じ液量のRNAサンプルを使用します。これにより比較するサンプル間のスタート量を揃えることができます。しかしながら、この手法を用いる場合、エクソソームの回収方法とRNA精製方法を比較するサンプル間で統一する必要があります。

例えば、以下の図1の例では、リアルタイムRT-PCRを用いたエクソソーム中のmRNA検出を行う際の実験の工程をまとめています。スタートのサンプル量を固定して(血清1 mL、培養上清10 mL)、エクソソーム回収し、全量のエクソソームからRNA精製します(溶出液量:100 µL)。逆転写では20 µLの反応系に10 µL分のRNAサンプルを添加してcDNAを合成し、さらにリアルタイムPCRに2 µL分のcDNAを添加して解析を行います。結果として、このアッセイでは1反応のあたり血清では10 μL由来のRNA、培養上清では100 μL由来のRNAが使用されています。内在性コントロール遺伝子での補正の代わりに、それぞれ比較するサンプル間でスタートサンプル量を統一させて標的遺伝子の比較を行います。

血清と培養上清のスタートサンプル量が異なるのは、培養上清中のエクソソーム量が非常に少ないため、検出感度をあげるために血清の10倍量のサンプル由来のRNAをアッセイに使用されています。図1に、スタートサンプルの量から、RNA精製、逆転写反応、そしてリアルタイムPCR解析までの工程をまとめています。実験計画を立てる際にご参考にしてください。

本稿ではmRNAの解析は、TaqMan Gene Expression Assaysを用いた方法を紹介します。なお、エクソソーム中のmRNAは高度に分解が進んでいるため、分解に留意した解析を行います。

転写反応では、分解産物も効率良く解析できるように、RTプライマーはランダムプライマーを選択します。mRNAの3’末端のpoly(A)を標的としたOligo(dt)プライマーではmRNAを網羅的にcDNAにすることが難しく、検出効率が低くなることが予想されます。これを回避するため、Applied Biosystems™ High Capacity cDNA Reverse Transcription kitは、ランダムヘキサマーを採用した逆転写システムを使用しました。

またTaqMan Gene Expression Assayも、mRNA分解に配慮した選択をします。分解産物由来のcDNAを効率よく検出できるようにTaqMan Gene Expression Assayのアンプリコンサイズができるだけ小さいアッセイを選択します。少なくとも100 bp以下のサイズを選択してください。分解産物の解析ではアンプリコンサイズが小さいほど、より感度よく検出でき、再現性も高いです。TaqMan Gene Expression AssayのアンプリコンサイズはAssay検索ページからご購入前に確認できます。

図1. TaqMan™ Gene Expression Assay を用いたリアルタイムPCR解析の実験工程

図1. TaqMan™ Gene Expression Assay を用いたリアルタイムPCR解析の実験工程

10 mLの培養上清および1 mLの血清からそれぞれに適合したInvitrogen™ Total Exosome isolation Reagents (リンク:エクソソーム | Thermo Fisher Scientific – JP) を用いてエクソソームを回収します。回収したエクソソーム全量から、Invitrogen™ Total Exosome RNA & Protein Isolation Kit (リンク:Total Exosome RNA & Protein Isolation Kit (thermofisher.com))を用いてtotal RNAを回収します(溶出液量100 µL)。さらにtotal RNAから10 µL分をHigh-Capacity cDNA Reverse Transcription kit (リンク:High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (thermofisher.com) )で逆転写反応し、得られたcDNAサンプル 2 µL分をリアルタイムPCR解析に使用します。結果、このアッセイでは1反応あたり血清では10 μL由来のRNA、培養上清では100 μL由来のRNAが使用されました。


(1) High Capacity cDNA Reverse Transcription kit を用いた逆転写反応

1. High-Capacity cDNA Reverse Transcription kit のコンポーネントを氷中で融解し、穏やかにミックスし、氷中に置きます。
2. 氷中で以下の表に従い、Master mixを調製します。Master Mixは反応するサンプル数分をまとめて調製することも可能です。調製後は穏やかにミックスし、氷中に置きます。

Component (1 反応分)
Master mix/
20 μL reaction*
10× RT Buffer 2.0 μL
25 X dNTP Mix(100 mM) 0.8 μL
10XRandom Primers 2.0 μL
Invitrogen™ MultiScribe™ Reverse Transcriptase 1.0 μL
RNase Inhibitor 1.0 μL
Nuclease-free water 3.2 μL
Total volume 10 μL

*ステップ3でRNAを添加します。

3. 2で調製したMaster Mixを10 µLずつPCRチューブに分注し、さらにRNAサンプルを添加し、穏やかにミックスした後、氷中に置きます。

Component 1 反応分
20 μL reaction
Master Mix 10 μL
RNA sample 10 μL
Total volume 20 μL

4. サーマルサイクラーにセットする直前まで氷中に置きます。
5. 以下の反応条件で逆転写反応を行います。
反応液量:20 µL
反応モード:Standard mode(FastとStandardの設定がある場合)

Step Time Temperature
Hold 10 minutes 25℃
Hold 120 minutes 37℃
Hold 5 minutes 85℃
Hold 4℃

6. すぐにリアルタイムPCR反応へ進む場合は、次の”TaqMan Gene Expression Assay:リアルタイムPCR”のステップへ進んでください。
すぐに進まない場合は、以下の条件で保存します:
○長期保存(24時間まで): 2~6℃
○ 長期保存:       -15~-25℃

(2)TaqMan Gene Expression Assaysを用いたリアルタイムPCR解析

1. 以下のコンポーネントで凍結されているものは氷中で融解し、穏やかにミックスし、氷中に置きます。
・TaqMan Gene Expression Assay(×20)
・cDNAサンプル
・Applied Biosystems? TaqMan? Universal Master Mix II, no UNG
注:Applied Biosystems? TaqMan? Fast Advanced Master Mix、Applied Biosystems? TaqMan? Universal Master Mix II, with UNG, TaqMan? Gene Expression Master Mixもご使用いただけます(使用する場合は、各試薬のマニュアルをご確認ください)。

2. 1反応あたり反復3(n=3)で行うことをお勧めします。反復サンプルはまとめて1.5 mLのチューブで調製し、混和します(室温で調製可能)。

Component Volume per 20 μL Reaction
Single reaction
(n=1)
Three replicate※
(n=3)
TaqMan Gene Expression Assay(x20) 1 μL 3.6 μL
cDNA (RT product) 2 μL 7.2 μL
TaqMan Universal Master Mix II, no UNG 10 μL 36 μL
Nuclease-free water 7 μL 25.2 μL
Total volume 20 μL 72.0 μL

注;cDNA量を2.0 μL添加する場合のモデルに合わせています。必要に応じて加減してください。※反復サンプルは、1チューブにまとめて調製することをお勧めします。ピペッティングロスも考慮して、必要量に対して20%程度多めの量を示しています。

3. リアルタイムPCR反応用のプレートに20 μLずつ分注し、プレートに専用のシールをします。

4. 以下の条件でリアルタイムPCR反応を行います。
・Run mode: Standard mode
・Sample volume: 20 μL

Step (Optional)
Applied Biosystems™
AmpErase™
UNG activity*
Enzyme
Activation
PCR
HOLD HOLD
CYCLE(40 cycles)
Denature Anneal/
extend
Temperature 50℃ 95℃ 95℃ 60℃
Time 2 min 10 min 15 s 60 s

*UNGが添加しているMaster Mixを使用の場合のみ行います。 TaqMan Universal Master Mix II, no UNG 使用の場合はこのステップは必要ありません。

結果と考察

一般的なリアルタイムPCRを用いた相対定量法では、サンプル量の補正を行うために、サンプル間で発現が安定な遺伝子を内在性コントロールとして設定します。しかし、エクソソームのRNA cargoの定量解析には、ユニバーサルに利用できる内在性コントロールとなる遺伝子がまだ特定されていません。
内在性コントロールの設定の主要な目的の1つは、比較サンプル間の反応液へのサンプルの持ち込み量を補正することです。そこで、ここではスタートサンプル量を揃えて比較する方法を提案します。この手法では、比較するサンプル間のRNA量を揃えてリアルタイムRT-PCRを実施する場合が多いですが、エクソソームから精製されるRNA量は非常に微量で、既存の手法で正確に測定できないため、RNA量で補正するのは適切ではありません。
そのため、RNAの精製前の処理であるエクソソーム回収に使用するサンプル量を統一することで、サンプル間の補正を行います。得られたCt値の差を直接サンプル間の差として解析します。この方法では、リアルタイムRT-PCR解析までの工程(エクソソーム回収、RNA精製、逆転写、リアルタイムPCR)で手技的なばらつきを生じさせないことが、正確な結果を得るために重要なポイントとなります。

図1のワークフローでは、血清は約10 µL分のcDNA、培養上清は約100 µL分のcDNAを1反応当たりに添加するモデル系として提案しましたが、miRNAとmRNAの発現レベルを比較できるように、スタートサンプル量をmiRNAの推奨量で揃え、1反応当たり血清は約3.3 µL分のcDNA、培養上清は約33 µL分のcDNAで検出を行い、結果を図2、3に示します。
培養細胞上清および血清サンプルでは、GAPDHおよび18S-rRNAのレベルをCT値で示しています(図2)。その他の体液サンプルのデータについては、mRNAはGAPDHおよびACTBをベースに確認をしていますが、一部のサンプルでは発現が確認されたmRNAも追加しています(図3)。いずれの検証においてもTotal exosome isolation reagentsで調製したエクソソームから定量したmRNAは、超遠心法で回収したエクソソームよりも数サイクル早く検出されています。さらに、エクソソーム由来のmRNAの検出においても、Total exosome isolation reagentsを用いた場合の方がエクソソームを効率的に回収し、結果エクソソーム中のRNAの検出感度も改善しています。一方で、同じサンプル由来であってもエクソソームの濃縮方法によってエクソソームの収量および以後のアプリケーションの感度が大きく異なってしまうことが明らかになりました。内在性コントロールの設定が難しくスタートのサンプル量を揃えて比較する方法では、特に操作に伴う変動がデータ精度に大きな影響を与えるため、エクソソームの濃縮方法は比較するサンプル間で厳密に統一させることが重要であることが分かります。

図2. HeLa細胞の培養上清(a)および血清サンプル(b)から回収したエクソソームにおけるmRNAおよびmiRNAの発現レベル

図2. HeLa細胞の培養上清(a)および血清サンプル(b)から回収したエクソソームにおけるmRNAおよびmiRNAの発現レベル

Reagent:各サンプルに適したTotal Exosome Isolation Reagentsでエクソソームを回収した場合の結果。Ultracentrifugation: 超遠心法でエクソソームを回収した場合の結果。赤く囲まれたアッセイはmRNAを標的としている。

図3. その他の体液サンプル(ヒト由来の 血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)から回収したエクソソームにおけるmRNAおよびmiRNAの発現レベル
図3. その他の体液サンプル(ヒト由来の 血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)から回収したエクソソームにおけるmRNAおよびmiRNAの発現レベル
図3. その他の体液サンプル(ヒト由来の 血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)から回収したエクソソームにおけるmRNAおよびmiRNAの発現レベル
図3. その他の体液サンプル(ヒト由来の 血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)から回収したエクソソームにおけるmRNAおよびmiRNAの発現レベル

図3. その他の体液サンプル(ヒト由来の 血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)から回収したエクソソームにおけるmRNAおよびmiRNAの発現レベル

Reagent:各サンプルに適したTotal Exosome Isolation Reagentsでエクソソームを回収した場合の結果。
Ultra: 超遠心法でエクソソームを回収した場合の結果。
赤く囲まれたアッセイはmRNAを標的としている。

まとめ

エクソソーム中には、miRNAだけでなく多くのmRNAが存在しており、リアルタイムRT-PCRで感度よく解析を行うことが可能です。しかしながらエクソソーム中のmRNA解析には、内在性コントロール遺伝子が特定されておらず、エクソソーム由来のRNA量も正確な定量が難しいため、本稿ではエクソソーム回収に使用するサンプル量を統一する方法を提案しました。この方法では、得られたCt値の差を直接サンプル間の差として解析しています。

エクソソーム中のmRNAの解析の際に注意する点として、mRNAの分解が進んでしまっている点に留意する必要があります。分解産物を標的とする場合、逆転写反応はランダムプライマーを用い、TaqMan Gene Expression Assayでアンプリコンサイズの小さいものを選択することが、高感度で再現性のある結果を得るために重要です。

血清、培養上清、その他の体液(血漿、尿、CSF、羊水、腹水、母乳、唾液)を用い、Total Exosome Isolation Reagentsと超遠心法のmRNAとmiRNA検出感度を比較した結果、全てのサンプルにおいて、Total Exosome Isolation Reagentsで回収されたエクソソーム中のmRNAの検出感度が超遠心法よりも高いことが分かりました。特に、超遠心法で最適化が行われていないサンプルタイプでは、Total Exosome Isolation Reagentsの方が大幅に高い感度を示しています。
注意点として、エクソソームの濃縮手法の違いによるデータのばらつきを防ぐために、エクソソームの濃縮方法は比較するサンプル間で厳密に統一させることが重要です。

本パートで使用した製品一覧
TaqMan Gene Expression Assay
High Capacity cDNA Reverse Transcription kit with RNase Inhibitor
TaqMan Universal Master Mix II, no UNG
Total Exosome Isolation Reagent(血清)
Total Exosome Isolation Reagent(細胞培養上清)
Total Exosome Isolation Reagent(血漿)
Total Exosome Isolation Reagent(尿)
Total Exosome Isolation Reagent(その他の体液サンプル)

関連リンク
エクソソーム解析試薬
エクソソーム関連Blog(本シリーズ含む)

TaqMan is a trademark of Roche Molecular Systems, Inc., used under permission and license.

研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。

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