【第3回】“RNA cargo”の精製と定量解析

第2回では、培養上清やさまざまな体液サンプルからのエクソソームの濃縮・回収方法について紹介しましたが、今回は回収したエクソソーム内のRNA(RNA cargo)に焦点を当て、その解析方法を紹介します。具体的には、ターゲットのRNA cargoの定量を目的に、エクソソームからのRNA精製からリアルタイムqRT-PCR法による発現解析までのワークフローを解説します。

RNA cargoといえばmiRNAという報告が多いですが、エクソソームにはさまざまな種類のRNA が内包されています。図1は、当社の研究者が次世代シーケンサ(Ion PGM™システム)を使って、血清由来のエクソソームのRNA cargoを網羅的に解析した結果です。トータルのRNA cargoにおける各RNA分子数の比率をまとめています。エクソソーム中にはmiRNAだけでなく、mRNAやrRNAやtRNAも多く含まれおり、最も多いのはmRNAという結果でした(1)

またValadiらは、マスト細胞(MC/9およびHMC-1)から分泌されたエクソソーム由来のRNA cargoの網羅的な解析を報告しています。彼らはRNA cargo中のいくつかのmRNAが他の細胞内でタンパク質に翻訳され、機能を有していることを報告しており(2)、miRNAだけでなくさまざまなRNA分子の働きに注目が集まっています。

図1.次世代シーケンサによるエクソソーム中のRNA cargoの解析

次世代シーケンサ(Ion PGM™システム)を使って、ヒト健常検体(2ドナー:d1, d2)の血清由来のトータルRNA、および血清から分画したエクソソームのRNA cargoを網羅的に解析しました(反復:n=2)。この結果は、次世代シーケンサによってリードされた全シーケンスを既存のデータベースでマッピングを行い、特定のリファレンスRNAにそれぞれ割り振り、そのリード数(count数)をベースに定量を行いました。さらに各リファレンスをmRNA、rRNA、tRNA、miRNAのグループに分け、各グループの全体におけるパーセンテージを積み上げ棒グラフにまとめています。snRNA、scaRNA、snoRNA、piRNAも検出されましたが、非常に低レベルでした。

今後(第3~5回)、エクソソーム中のmiRNAの解析だけでなく、mRNA解析にもフォーカスした実験方法と実験チップスを紹介します(図2)。

図2.RNA cargo解析のワークフロー

第2回で紹介した方法で回収したエクソソームペレットから、Invitrogen™ Total Exosome RNA and Protein Kitでtotal RNAを精製後、TaqMan™ miRNA AssaysおよびTaqMan™ Gene Expression AssaysでmiRNAとmRNAを定量/解析するワークフロー。

エクソソームサンプルからのRNA精製

Total Exosome RNA and Protein Kit(製品番号4478545)は、体液や細胞培養液上清から濃縮したエクソソームサンプルからRNAおよびタンパク質を精製・回収するために開発されたキットです。

エクソソームから回収されるRNAの主要サイズは、15~500 nt程度で低分子化が進んでいます。このキットには200 nt以下のRNAを濃縮するオプションもありますが、操作に伴うロスにより、回収効率が低くなる傾向があります。リアルタイムPCRをベースとした解析では、small RNAも含むすべてのRNAを回収する”total RNA isolation method”を選択することをお勧めしています(図3)。

このキットを用いることで超高純度なRNAが精製でき、さまざまなアプリケーションに利用できます。具体的には、リアルタイムRT-PCRによるRNA発現解析、シーケンス解析(例:Ion PGM™ 、Ion Proton™などの次世代シーケンサ)、マイクロアレイ解析、RPA(Ribonuclease Protection Assay)、Northern blot hybridizationなどに利用できます。

図3.Total Exosome RNA and Protein Kit操作の概要

リアルタイムRT-PCRによるRNA解析では、small RNAも含むすべてのRNAを回収する 『①Total RNA Isolation Method 』をお勧めします。エクソソーム由来のRNAは、分解がある程度進んでおり、回収されるRNAのサイズは、15~500 nt程度です。そのため、このキットには200 nt以下のRNAを濃縮するオプションもあります(② Optional Enrichment for small RNA)が、この濃縮法は、主に次世代シーケンス解析やマイクロアレイ解析に利用します。操作が煩雑で、操作によるロスも生じる傾向があるため、リアルタイムRT-PCR解析にはお勧めしていません。

プロトコール

(1)RNA精製を始める前に

試薬の準備

  • 溶出用のElution SolutionまたはNuclease-free waterを95℃に予熱しておきます。
  • ステップ8で添加する100%エタノールは必ず室温にしておきます。
  • 試薬調製(完成後はボトルにチェックを入れます)。
    • 2X Denaturing Solution:ボトルに、375 μLの2-メルカプトエタノールを添加し、ミックスします。
      注意:2X Denaturing Solution は低温下で塩が析出する場合があります。塩の析出が確認された場合は、37℃で完全に溶解するまで5~10分間インキュベートしてください。塩の析出を防ぐために室温で保存も可能ですが、最大1カ月までの保存としてください。
    • miRNA Wash Solution 1:ボトルに、21 mLの100%エタノールを添加し、ミックスします。
    • Wash Solution 2/3:ボトルに、40 mLの100%エタノールを添加し、ミックスします。

スタートサンプル

  • Toal Exosome Isolation Reagentで回収したエクソソームペレット

エクソソームの濃縮・回収法は“パート1”を参照してください。
超遠心法やその他の方法で回収したエクソソームペレットも使用可能です。

エクソソームペレットの懸濁

  1. 氷冷したExosome Resuspension Bufferまたは1x PBSでエクソソームペレットを懸濁します。
    注意:全量をRNA精製に使用する場合は、200 μLの1x PBSで懸濁します(ペレット量が多い場合は、1x PBS量の添加量を増やしてください)。一部をタンパク質解析に利用する場合は、必ずExosome Resuspension Bufferを使用してください。添加するbuffer量はスタートのエクソソーム量によりますが、25 μL~1 mL程度です。
  2. 5~10分間、室温でインキュベートします。
  3. ペレットが完全に均一になるように、穏やかにピペッティングでミックスします。
    注意:RNA精製を行う場合は、直ちに次のRNA抽出のステップへ進んでください。すぐに使用しない場合は、-20℃で保存も可能です。

(2)Total RNA Isolation MethodによるRNA精製①

Total Exosome RNA and Protein Kit(製品番号:4478545)を使用します。

  1. エクソソームサンプル200 μL分を新しいチューブへ移します。液量が200 μLより少ない場合は、全量が200 μLになるように1× PBSを添加します。
  2. 200 μLの2× Denaturing Solutionを添加し、よくミックスします。
    注意:
    ・2XDenaturing Solutionに塩の析出がないことを確認してください。塩の析出がある場合は37℃に温めて溶解した後、室温に戻して使用します。
    ・スタートサンプル量が200 μL以上の場合、添加する2XDenaturing SolutionおよびAcid-Phenol:Chloroformの量はスタート量に比例して増やします。
  3. 氷中で5分間インキュベートします。
  4. 400 μLのAcid-Phenol:Chloroformを添加します。
    重要:Kit添付のAcid-Phenol:Chloroformには、酸化防止のため上層部分に水層が残されています。そのため、Acid-Phenol:Chloroformは、水層の下の層から分取してください。
  5. ボルテックスで30~60秒間ミックスします。
  6. 最大スピード( > 10,000 ×g)、室温で5分間遠心します。
    注意:中間層が厚く、上清回収が難しそうな場合は遠心を繰り返してください。
  7. 上清を新しいチューブに回収します。中間層や下層を取らないように注意しましょう。
    注意:回収した上清液量をチェックしておきます。
  8. 回収した上清量に対して、1.25倍量の100%エタノール(室温)を添加してよくミックスします。
    例:300 μLの上清に対して、375 μLの100%エタノールを添加します。
  9. Filter CartridgeをCollection tubeにセットします。
  10. ステップ8のサンプル700 μLをFilter Cartridge上に添加します。
    注意:サンプル量が700 μL以上ある場合は、ステップ10~12を繰り返し、2回以上に分けて同じCartridgeで処理します。
  11. 遠心(10,000 ×g、15秒間)します。サンプルがCartridgeに残っていないことを確認します。
    注意:Cartridge内にサンプルが残っている場合は、遠心を繰り返します。
  12. フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度セットします。
  13. 700 μLのmiRNA Wash Solution 1をCartridgeに添加し、遠心(10,000 ×g、15秒間)します。フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度セットします。
  14. 500μLのWash Solution 2/3 をCartridgeに添加し、遠心(10,000×g、~15秒間)し、フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度セットします。
  15. 14のステップを繰り返します。
  16. Cartridgeに何も添加していない状態で、空遠心(10,000 ×g、1分間)。この操作により、Cartridge中のエタノールが完全に除去されます。
  17. 未使用のCollection tubeに16のCartridgeをセットします。
  18. 95℃に加熱した 50 μLのElution SolutionまたはNuclease-free waterをCartridge内のfilterの中央部に添加します。
  19. 遠心(10,000 ×g、30秒間)します。
    注意:フロースルーにRNAが回収されているので捨てないでください。
  20. 18~19を繰り返します。
  21. 回収されたトータル100 μLのフロースルーがRNAサンプルです。すぐに解析に利用する場合は、氷中にチューブを置きます。長期保存する場合は < -20℃で保存します。

(3)オプション:Enrichment for Small RNA ProtocolによるRNA精製②

  1. エクソソームサンプル 200 μL分を新しいチューブへ移します。200 μLより少ない場合は、全量が200 μLになるように1x PBSを添加します。
  2. 200 μLの2X Denaturing Solutionを添加し、よくミックスします。
    注意:2X Denaturing Solutionに塩の析出がないことを確認してください。塩の析出がある場合は37℃に温めて溶解した後、室温に戻して使用します。スタートサンプル量が200 μL以上の場合、添加する2X Denaturing SolutionおよびAcid-Phenol:Chloroformの量はスタート量に応じて増やします。
  3. 氷中で5分間インキュベートします。
  4. 400μLのAcid-Phenol:Chloroformを添加します。
  5. Vortexで30~60秒間ミックスします。
  6. 最大スピード(>10,000xg)、室温で5分間遠心します
    注意:中間層が厚く、上清回収が難しそうな場合は遠心を繰り返してください。
  7. 上清を新しいチューブに回収(中間層や下層を取らないように注意)します。
    注意:回収した上清液量をチェックしておきます。
  8. 回収した上清量に対して、1/3量の100%エタノールを添加してよくミックスします。
    例:300 μLの上清に対して、100 μLの100%エタノールを添加します。
  9. Filter CartridgeをElution tubeにセットします。
  10. ステップ8のサンプル700μLをFilter Cartridge上に添加します。
    注意:サンプル量が700 μL以上ある場合は、ステップ10~11を繰り返し、2回以上に分けて同じCartridgeで処理します。
  11. 遠心(10,000 xg、30秒間)。サンプルがCartridgeに残っていないことを確認し、フロースルーを回収します。
    重要:フロースルーにsmall RNAが含まれています。捨てないでください。
  12. 回収したフロースルーの液量に対して2/3量の100%エタノールを添加し、よくミックスします
    例:400 μLのフロースルーに対して、266 μLの100%エタノールを添加します。
  13. 新しいFilter CartridgeをCollection tubeにセットします。
    注意:前操作で使用していたcartridgeには200 nt以上のRNAが吸着されていますが、必要ない場合は廃棄します。
  14. 12のフロースルー/エタノールのミックスサンプルを13のCartridgeに添加します。
    注意:サンプル量が700 μL以上ある場合は、ステップ14~15を繰り返し、2回以上に分けて同じCartridgeで処理します。
  15. 遠心(10,000 xg、30秒間)します。サンプルがCartridgeに残っていないことを確認し、フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度セットします。
  16. 700 μLのmiRNA Wash Solution 1をCartridgeに添加し、遠心(10,000 xg、15秒間)します。フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度セットします。
  17. 500 μLのWash Solution 2/3をCartridgeに添加し、遠心(10,000 xg、15秒間)します。フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度セットします。
  18. 17のステップを繰り返します。
  19. 空遠心をします(10,000 xg、1分間)。この操作により、Cartridge中のエタノールが完全に除去されます。
  20. 未使用のCollection tubeに19のCartridgeをセットします。
  21. 95℃に加熱した50 μLのElution SolutionまたはNuclease-free waterをCartridge内のfilterの中央部に添加します。
  22. 遠心(10,000 xg、30秒間)します。
    注意:フロースルーにRNAが回収されているので捨てないでください。
  23. 21~22を繰り返します。
  24. 回収されたトータル100 μLのフロースルーがRNAサンプルです。
    すぐに解析に利用する場合は、氷中にチューブを置いてください。長期保存する場合は、-20℃以下で保存してください。

実験結果の考察

1. 予想収量について

エクソソームサンプルから回収されるRNAは、非常に微量であり、通常の核酸の濃度測定に使用される分光光度計や蛍光光度計では検出が困難です。しかしAgilent™ 2100 Bioanalyzer™(RNA 6000 Pico KitまたはSmall RNA Kitを利用)を利用することで、微量なRNA濃度や質の解析が可能です。
収量はサンプルの種類やスタートのサンプル量により大きく異なりますが、培養上清および血清サンプル由来のエクソソームから、表に示す収量のRNAの回収が見込めます。

2. RNAの質

前述の通り、エクソソームから回収されるRNAの主要サイズは、15~500 nt程度で低分子化が進んでいます。下図は、HeLa cell media 由来のエクソソームから精製したRNA cargoの解析結果で、Agilent 2100 Bioanalyzer(RNA 6000 Pico Kit)で2 ng分を測定した結果です(全体の回収サイズを確認するため、より多くのRNAをロードしています)。回収されたRNAのサイズはほとんどが200 nt以下でしたが、完全長のrRNAのピークも確認されており、RNA cargo中には200 ntを超える長鎖RNA成分も一部含まれる可能性があります。エクソソーム中にmRNAなどの長鎖RNA成分が含まれることは複数の論文で報告されています(3, 4, 5 ,6)

    参考文献

    • “The Complete Exosome Workflow Solution: From Isolation to Characterization of RNA Cargo.” Jeoffrey Schageman, Emily Zeringer, Mu Li, Tim Barta, Kristi Lea, Jian Gu, Susan Magdaleno, Robert Setterquist, and Alexander V. Vlassov, BioMed Research International. Volume 2013, Article ID 253957, 15
    • “Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells,” H. Valadi, K. Ekstr¨om, A. Bossios, M. Sj¨ostrand, J. J. Lee, and J. O. L¨otvall, Nature Cell Biology, vol. 9, no. 6, pp. 654–659, 2007.
    • Methods for the extraction and RNA profiling of exosomes. Emily Zeringer, Mu Li, Tim Barta, Jeoffrey Schageman, Ketil Winther Pedersen, Axl Neurauter, Susan Magdaleno, Robert Setterquist, Alexander V Vlassov. World J Methodol 2013 ; 3(1): 11-18
    • Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells. Valadi H, Ekström K, Bossios A, Sjöstrand M, Lee JJ, Lötvall JO. Nat Cell Biol 2007; 9: 654-659
    • Glioblastoma microvesicles transport RNA and proteins that promote tumour growth and provide diagnostic biomarkers. Skog J, Würdinger T, van Rijn S, Meijer DH, Gainche L, Sena-Esteves M, Curry WT, Carter BS, Krichevsky AM, Breakefield XO. Nat Cell Biol 2008; 10: 1470-1476
    • ExoCarta 2012: database of exosomal proteins, RNA and lipids. Mathivanan S, Fahner CJ, Reid GE, Simpson RJNucleic Acids Res 2012; 40: D1241-D1244

     

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