抗体を使用してタンパク質を検出する場合、抗原量によって得られるシグナルが変化することが想定されます。一般的には十分な量の抗体を実験に使用しますが、ターゲットの抗原量が多い場合、または少ない場合、どのようにシグナルが変化するのでしょうか。検証するため、細胞濃度をものすごく濃くして抗体反応し、フローサイトメトリーで測定してみました!
材料と方法
材料:
- ヒト白血病由来細胞株Jurkat
- CD45 Monoclonal Antibody (HI30), APC #17-0459-42
- Invitrogen™ Attune™ CytPix Flow Cytometer
方法:
- Jurkat細胞を5×104 ~ 1×107 cells/100 µL/sampleとなるようにPBSに懸濁。
- APC標識CD45抗体(5 µL/0.06 µg/sample)を添加して懸濁。
※抗体添加量はメーカー推奨量 - 室温で30分間、抗体反応
- 200 xg 3分間、遠心して上清を除去
- 1000 µLのPBSに懸濁し、Attune CytPix Flow Cytometerで測定
sample# | 細胞数 (x105 cells/test/100 μL) |
1 | 100 |
2 | 50 |
3 | 20 |
4 | 10 |
5 | 5 |
6 | 2.5 |
7 | 1 |
8 | 0.5 |
結果
さて、早速ですが結果です。
一見してお分かりのように、細胞数が多いと明瞭にシグナル値が低下しました。大量の細胞、(つまり大量の抗原)に対し、添加した抗体量が不足していたためと考えられます。
みなさまの中には「逆に細胞が極端に薄い場合はどうなるのか?」とお考えの方もいらっしゃると思います。そこで、追加実験として、3.1×103 cells/test(測定時には310 cells/mL)まで薄めて抗体反応してみましたが、シグナル値にはほぼ変化がありませんでした(図2)。ただし、細胞数が少ない場合はデータ取得に時間がかかったり、十分な細胞数のデータを取得できない恐れがあります。
Aに比べてBではサンプル中の細胞が少ないため、FSC/SSCのドットプロット図では1つ1つの細胞データを示す点がまばらになり、CD45-APCのヒストグラムではピークの解像度が低くなっている。
また、今回のデータはフローサイトメトリーのデータですので「1細胞あたりのシグナル強度」を示していることに注意です。図1から分かるように、細胞数が多くなれば1細胞あたりに結合する抗体が減るためシグナルが低下しますが、一方で図2のように細胞数が少なくなっても、1細胞あたりの抗原量は変わらないため、シグナルは低下しません。
同じく抗体を使用する実験系でも、例えばウェスタンブロッティングでは、細胞数が多くなるほどサンプル当たりの抗原量は多くなるためシグナルも強くなり、抗体が飽和するほど細胞数が多くなるとシグナル増加が頭うちになると考えられます(図3)。一方で細胞数が少ないと、サンプル当たりの抗原量も少なくなるため、シグナルも低下していきます。
このように1細胞あたりの抗原を検出するか、それともサンプルあたりの抗原を検出するかで、シグナルの変化に違いが生じます。データの解釈に慣れていない初学者の方はご注意ください。
まとめ
- 細胞数が多すぎると、フローサイトメトリーのシグナルは低下する
- 細胞数が極端に少なくても、フローサイトメトリーのシグナルは低下しない
- 1細胞あたりの抗原量ではなく、ウェスタンブロッティングのようなサンプル当たりの抗原量を検出する方法では、細胞数が多いとシグナルが頭打ちになり、細胞数が少ないとシグナルも低下する
いかがでしたでしょうか。
実験に慣れている方にとっては「それはそうなるだろう」という結果だったかも知れませんが、特に初学者の方にはフローサイトメトリーとウェスタンブロッティングのシグナル変化の違いを考える良い材料を提供できたのではと思います。
筆者個人のやってみた感想としては、今回の最も濃いサンプル(1×108 cells/mL)ともなると、細胞懸濁液がどろどろになって気持ち悪いな、ということでした。あまり濃いサンプルをフローサイトメトリーで測定すると、装置の流路が詰まり、故障の原因になることもあるので避けた方がよいでしょう。
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