蛍光免疫染色やフローサイトメトリーなどで、FITC標識の抗体がよく利用されていますが、同様の製品でフルオレセイン(fluorescein)標識の抗体があります。これらの違いが何なのか、さらに蛍光免疫染色でよく利用されているInvitrogen™ Alexa Fluor™ 488 dyeについてもご紹介します。違いが分かりやすいように構造式を並べていますが、小難しい内容ではありません。 身構えずに気軽にご覧ください。
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・蛍光免疫染色を始められた研究者の方
まず、基本骨格であるフルオレセイン(fluorescein)という色素をご紹介します。
青い光を当てると緑色の蛍光を示す物質で、古典的な色素ですが非常に明るいため、現在でも汎用されています。
構造的にFITC標識とフルオレセイン標識では、つなぎの部分は異なりますが、色素としてはどちらもフルオレセインで同等の性能を示すため、 あまり違いを気にせずご利用いただけます。
抗体などのタンパク質のアミノ基に結合できるような官能基であるイソチオシアネート基やスクシニミジル基をフルオレセインの5位もしくは6位(構造式の赤丸の部分)に修飾したものを用意します。 それぞれ Fluorescein Isothiocyanate(FITC)、Fluorescein Succinimidyl Ester(NHS Ester)と呼ばれます。
これらをタンパク質と混合すると、タンパク質のアミノ基(具体的にはタンパク質のアミノ末端とリジン残基に存在するアミノ基)に結合します。 FITCを用いて標識したものはそのままFITC標識と呼ばれるのに対し、Fluorescein NHS Ester を用いて標識したものは 反応基の部分が欠落してアミド結合だけとなるため、シンプルにフルオレセイン標識と呼ばれます。FITCよりもアミド結合の安定性が高いと言われることがありますが、標識抗体などで使用する限り、あまり大きな違いは見られません。
次に、フルオレセイン以降に開発された色素を二つご紹介します。
フルオレセインよりも明るく、かつ光安定性の高い物質として、フルオレセインに二つのフッ素(F)を導入した Invitrogen™ Oregon Green™ 488 dyeが開発されました。
その結果を元にさらに優れた色素、Alexa Fluor 488 dyeが1999年に開発されました。
Alexa Fluor 488 dyeでは、構造式に青丸で示したように、フルオレセインに2個のアミノ基(NH2)と2個のスルホン基(SO3H)が修飾されています。 この修飾によって、Alexa Fluor 488 dyeは、フルオレセインと比べて以下のような利点があります。
・明るい
・自己消光されにくい
・光安定性に優れている
・水溶性が高い
・pH感受性が低い
下の図は、抗体に FITCとAlexa Fluor 488 dyeを標識した際の蛍光強度を示しており、横軸が 抗体1分子あたりの蛍光標識量、縦軸が蛍光強度です。 FITCの場合、複数個の色素を標識していくと色素同士が干渉して蛍光を失う現象(自己消光)が発生するため、大量に標識してもあまり明るくなりません。一方 Alexa Fluor 488 dyeは、自己消光が起こりにくいため、色素を付けた分だけ明るくなっていきます。色素1分子で比べると 、FITC(fluorescein)とAlexa Fluor 488 dyeの明るさはほとんど変わりませんが、抗体に標識した際には大きな違いが出てきます。
ここではデータを示しませんが、Invitrogen™ Alexa Fluor™ dyeは、蛍光顕微鏡観察などで一定時間光を当てても褪色しづらく、また先述のように明るいため、蛍光免疫染色などで非常に重宝されています。 免疫染色実験で、褪色などでお困りの際にはご検討ください。
おまけの話 – その1
有機化学を得意とするスタッフと話をした時に、「FITCをタンパク質に結合すると、isothiocyanate から thiourea という構造になるので本当は FITC標識という言い方は正確とは言いづらい。 また、NHS Esterというのも、色素に N-hydroxyl succinimide という物質を結合させているので、結合させたエステルの状態では Nの部位は hydroxylではなくなっているので 本当は Succinimidyl Esterの方がいい」と、とくとくと講義を受けました。 免疫染色などで使用している限り、気にするところではありませんが、構造的な話の時には気をつけた方がよさそうです。
おまけの話 – その2
現在はブランド名の一つとなっておりますが、「Molecular Probes™」は各種の蛍光色素を開発した会社名、Molecular Probes Inc.でした。 Molecular Probesは、ミネソタで創設後、テキサスに移動し、さらにオレゴンに移動後、Invitrogen Corporation(後のThermo Fisher Scientific Inc.)と合併して現在に至ります。
開発した物質名や製品名に、親しみをこめた名前を付けることを慣習としていたため、Invitrogen™ Texas Red™ dye、Oregon Green dye はそれぞれ開発された地名、 Invitrogen™ Alexa Fluor dyeは、Molecular Probes創業者の息子の名前 Alex に由来した名前が付けられました。 Alexa Fluor dye程の知名度はありませんが、Invitrogen™ Marina Blue™ dyeという蛍光色素も 創業者の娘の Marinaに由来しています。
開発スタッフ2名の頭文字 SY と BRにちなんだ SYBR™ Green dye の他、行きつけのレストラン Zenon Cafe にちなんだ 、Invitrogen™ Zenon™ dyeなど、意外な名付けをされたものもあります。
最後に
当社では、実際に実験(実習)を行いつつ学べるハンズオントレーニングを各種開催しています。 その中の一つである蛍光イメージングにて、Invitrogen™Alexa Fluor™ 488標識二次抗体なども使用しております。これから新しい実験を始められる方、より理解を深めたい方はぜひご参加ください!
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。