異物分析や材料解析等において、測定対象内に含まれる成分を把握し、どのように材料が構成されているか、またはどのような成分が分布しているかを知れるマッピング分析は非常に有効な分析手法です。顕微FT-IRを用いてマッピング分析を行う場合、ソフトウエアで観察したサンプルの任意の領域を設定し、その範囲内の複数点の赤外スペクトルを取得することでマッピングデータを得られます(ソフトウエアによるステージ制御のため、自動サンプルステージが必要です)。
図1は以前のブログで示した食品包装フィルム断面の顕微透過マッピング測定結果で、表1は測定を行った時の測定条件です。この測定で包装フィルムの内部に使用されている10 μm程度の接着層が明瞭に確認できます。 マッピング測定でこのような明瞭なイメージを得るためには、適切なサンプルの前処理の他に、適切な測定条件を選択する必要があります。ここでは、顕微FT-IRを用いたマッピング分析におけるパラメーターと測定条件の設定について紹介します。

図1. 多層フィルム薄片の透過マッピングデータのMCRにより得らえた2成分の分布イメージ(赤:成分1-PP、緑:成分2-接着層)
マッピング測定条件 | |
積算回数 | 32 回 |
サンプリング間隔 | 8.9 秒 |
波数分解能 | 8 cm-1 |
スペクトル数 | 1248 |
測定時間 | 190 分 |
アパーチャーサイズ | X: 5 μm、Y: 20 μm |
ステップサイズ | X: 2 μm、Y: 10 μm |

Nicolet RaptIR顕微FT-IR
マッピング測定条件のパラメーターについて
顕微FT-IRを用いてマッピング測定を行う際に設定するパラメーターによって、得られるマッピングデータの解像度、スペクトルのS/N、測定にかかる時間が決まります。
図2に、表2のマッピング測定条件で測定したポリマーフィルム上の印刷部の観察画像にマッピング測定のアパーチャーサイズとステップサイズをと記載した図(左)と、インクに由来するピークで作成した分布イメージ(右)を示します。マッピング測定では、観察画像中に示した□部の測定を順番に1点ずつ行い、設定した面内のスペクトルを取得します。アパーチャーサイズは1点当たりの測定範囲で、ステップサイズはマッピング測定範囲内でのステージを動かす間隔であり、それぞれ独立して設定可能です。1点当たりの測定時間は、積算回数によって決定されるため、マッピング測定の測定が完了する時間は[積算回数(サンプリング間隔)]×[測定点数]となります。

図2. ポリマーフィルム上印刷部のマッピング測定の観察画像(右)とパラメーター(左)
マッピング測定条件 | |
積算回数 | 8 回 |
サンプリング間隔 | 3.6 秒 |
波数分解能 | 8 cm-1 |
スペクトル数 | 165 |
測定時間 | 10 分 |
アパーチャーサイズ | X: 100 μm、Y: 100 μm |
ステップサイズ | X: 125 μm、Y: 125 μm |
マッピング測定を行う場合、目的とする分布イメージを得るために、適切なステップサイズを選択する必要があります。図2の場合、図1のステップサイズに比べて大きいステップサイズの設定になっていますが、右側のケミカルイメージでインクの分布が十分に確認できる図が得られています。
mmオーダー以上の大きいサンプルのマッピング測定を行う場合、測定点数が増えすぎないようにステップサイズを設定することが重要となります(2 mm × 2 mmの範囲を20 μmのステップサイズで測定すると、測定点数は10000点となり、サンプリング間隔が4秒かかると、マッピング完了までの時間が40000秒=11.1時間)。
一方で、100 μm前後の小さい範囲を詳細にマッピング測定する場合、ステップサイズに合わせてアパーチャーサイズも小さく設定します。アパーチャーサイズを小さくすると、検出される赤外光のエネルギー強度が低下するため、成分の分布を得るために必要なS/Nのスペクトルを得るための時間が増えます。波数分解能も1点当たりの測定時間に関わるため(波数分解能を低くするとS/Nは向上)、小さい範囲のマッピング測定を行う場合、ステップサイズと合わせて、積算回数と波数分解能も重要です。
オーバーサンプリング
顕微FT-IRのマッピング測定におけるパラメーターと、アパーチャーサイズを小さくすると赤外光のエネルギーが低下するため、S/Nの良いスペクトルを得るために測定時間を増やす必要があることを上に記しましたが、図3のように、アパーチャーを小さくせずにステップサイズのみを小さく設定して高解像度の分布イメージを得る、オーバーサンプリングと呼ばれる手法もあります。

図3. 通常のマッピング測定(左)とオーバーサンプリングでマッピング測定(右)するときのアパーチャーサイズとステップサイズの設定
顕微FT-IRの測定において、アパーチャーを小さくすることで赤外光のエネルギーが低下するため、S/Nの低下を抑えるために積算回数を長くする(=測定時間を長くする)必要が生じますが、積算によるS/Nの改善には限界があり、また、測定にかけられる時間にも限度(検出器の液体窒素の保持時間など)があります。このため、特に10 μm未満の微細な構造を分布イメージで取得したい場合には、オーバーサンプリングにより詳細なイメージを得られるようになります 。図4にオーバーサンプリングにより詳細な構造が得られた例を示します。サンプルはエドモンド・オプティクス社のUFAS 1951で、左側の顕微鏡観察画像中の「6」の数字の幅は約8 μmです。右側の分布イメージは上下ともアパーチャーサイズが16 × 16 μmで、上の図はステップサイズが16 μm、下の図ではステップサイズが8 μmで測定した結果です。この図から、オーバーサンプリングでマッピング測定を行うことで、アパーチャーサイズ未満の解像度の分布イメージが得られていることが分かります。ただし、アパーチャーサイズに比べて極端にステップサイズを小さくしたオーバーサンプリングはあまり効果がなく、測定に要する時間も膨大になるため、ステップサイズはアパーチャーサイズの1/2~1/4程度に設定するのが良いかと思われます。
なお、図1のマッピング測定もオーバーサンプリングにより取得しています。

図4. エドモンド・オプティクス社のUFAS 1951(ポジ)の顕微反射マッピング測定
アパーチャサイズ16 × 16 μm、積算1回、波数分解能16 cm-1は共通
左:測定エリアの観察画像、右上:ステップサイズ16 μm、測定時間15秒、右下:ステップサイズ8 μm、測定時間1分
まとめ
今回紹介した顕微FT-IRを用いたマッピング測定におけるパラメーターと、設定に関して紹介しました。イメージング検出器ではなく、単素子検出器でのマッピング測定においても、適切な設定を行っていただくことで、目的とする分布イメージを作成していただくことが可能となります。また、オーバーサンプリングを活用していただくことで微細な構造の解析にも役立てていただけるようになります。
当社FT-IR「Thermo Scientific™ Nicolet™ RaptIR™赤外顕微鏡」について下記をご参照ください
FTIR Microscope | Nicolet FTIR | RaptIR | Thermo Fisher Scientific – JP
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