細胞を凍結する際に必要となる試薬にDMSO(ジメチルスルホキシド)があり、一般的に10%という高濃度の状態で使用されています。この成分は細胞を凍結する際に氷結晶の形成を防ぎ、細胞へのダメージを和らげるために必要とされています。一方で 、毒性 があると言われていることから、細胞を起こす際や凍結する際にはなるべく速やかに作業することが推奨されています。一般的にはDMSOの濃度が1%以下であれば細胞への影響が少ないとされており、遠心に弱いとされている初代細胞の起眠の際には、遠心は行わず10倍希釈し、DMSO濃度を1%以下にした状況で直接培養容器に播種することもあります。しかしこのように、 一般的にDMSOが細胞に毒性を示すことは知られているものの具体的なデータはなかったことから、実際にDMSO濃度を0%、0.5%、1%、2%、4%、7%、10%に調製した培地を作成し、その影響を確認してみました。
高濃度DMSOに触れていると細胞が凝集してしまう
DMSOを加えたDMEM+10%FBS培地でHeLa細胞を12時間培養しました。その結果、DMSO濃度が1%以下であれば形状に変化は見られませんでした。
一方で2%からは細胞の凝集が観察され、4%以上ではほぼすべての細胞が凝集してしまいました。高濃度DMSOに触れていると細胞が凝集してしまうことが分かりました。
これらの結果から1%以下の濃度であれば影響が少なく、4%以上の高濃度のDMSOに触れることで細胞に強い影響が出ることがわかりました。
低濃度のDMSOでも僅かながら細胞に影響を与えてしまう
顕微鏡での観察結果を見ると低濃度のDMSOでは細胞に影響を与えていないように見えます。では本当に細胞に影響がないのかInvitrogenTM alamarBlueTM Cell Viability Reagent(製品番号:DAL1025)を用いて確認を行いました。alamarBlue Cell Viability Reagentは生細胞に取り込まれ、代謝されることで蛍光物質に変換されます。従って細胞の活性が高いほど蛍光量が高くなります。この検証ではDMSOを加えたDMEM+10%FBS培地でHeLa細胞を12時間培養後、alamarBlue Cell Viability Reagentを添加し、さらに4時間後、Thermo ScientificTM VarioskanTM LUXマルチモードマイクロプレートリーダーで検出しました。この結果が下のグラフになります。
この結果ではDMSO濃度0%に比べ1%濃度でも僅かながら蛍光の減少が観察されました。従って、低濃度のDMSOでは見た目では影響がないように見えても、生存率について僅かながら影響を受けていることが考えられます。初代細胞の起眠の際に、遠心は行わず、10倍希釈した状況(DMSOの終濃度1%以下)で直接培養容器に播種することもあると記載しましたが、このような方法を採る 場合には細胞が接着した後に培地交換を行い、DMSOを取り除いたほうが良いかもしれません。
まとめ
高濃度のDMSOに触れることで細胞に強い影響を与えることが分かりました。一般的にDMSOが1%以下の濃度であれば細胞への影響は少ないと言われており、顕微鏡の観察でも差は見られませんでした。しかしながら、alamarBlue Cell Viability Reagentを使用し、より詳細に調べたところ、DMSO 1%でも僅かながら細胞の生存率に影響を与えてしまうことが分かりました。これらの結果からDMSOが存在することで細胞に悪影響を及ぼすことが分かりましたので、細胞の起眠、凍結の際にはなるべく速やかに実験することをお勧めします。今回の実験ではどれぐらいの時間DMSOに触れることで影響するのかまでは分かりませんでしたので、次回は時間による影響を調べてみたいと思います。
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