この連載では、凍結保存に関する役立つ情報をお届けします。普段、何気なく感じていることに対するヒントにもなると思いますので、ぜひお気軽にご覧ください。
ライフサイエンスの研究や実験において、サンプル保存は重要なプロセスのひとつです。サンプルの品質維持のために気密性の高いサンプル保存用チューブを使用することは、研究の信頼性にも繫がる重要な要素のひとつとなります。本ブログでは、サンプル保存における、動的架橋型熱可塑性エラストマー(以下、TPV:Thermoplastic vulcanizates)製ガスケットを使用したスクリューキャップ(以下、キャップ)の特長とメリットについてご紹介します。
▼こんな方におすすめです
大学や企業の研究者の方
ラボの管理者の方
バイオバンクの運営者の方
臨床試験に従事する方
▼もくじ
サンプル保存における気密性の重要性
サンプルを保存する際、外部からの空気や汚染物質の侵入、またはサンプルの蒸発や漏れを防ぐために、キャップとチューブの気密性は重要な役割を果たします。特に、液体窒素を使用した超低温保存(-196℃)では、気密性が不十分だとサンプルが劣化しやすくなるため、気密性の確保は不可欠です。また、サンプルは長期間にわたって保存されることが多く、その間、サンプルの変質を防ぎ、安定した状態で安全に保管することが求められます。これにより、実験の再現性が確保され、信頼性の高いデータを得ることにつながります。
サンプルの品質低下を引き起こす可能性のある汚染や蒸発を防ぐためにも、サンプル保存用チューブの気密性は重要です。
ガスケットとは?
サンプル保存用チューブのガスケットとは、チューブとキャップの間に挟んで使用するシール材です。ガスケットの役割は、接合面からの汚染物質が侵入や、サンプルの漏れを防ぐことです。ガスケットは通常、柔軟で弾力性のある素材で作られており、キャップを締めると圧縮されてチューブの口とキャップの間にできる隙間を塞ぎます。ガスケットがしっかり機能することで、チューブの気密性が維持され、超低温環境や凍結融解を繰り返す条件下でも、サンプルは長期間にわたって、その品質を維持しながら、安定して保存できます。
TPVガスケット
TPVは、ゴムの弾性と圧縮特性を持つ熱可塑性エラストマー(TPE:Thermoplastic Elastomer)の一種です。TPVガスケットは、加熱すると柔らかくなり、冷却すると固まる特性により、キャップと一体化して成形できます。
従来、サンプル保存用チューブのガスケットには、シリコンOリングがよく使用されています。シリコンは化学的安定性、耐熱性、耐寒性、耐油性、耐薬性に優れています。また、柔軟性と弾力性があり、圧縮することで接合面にフィットし、適切に隙間をなくせます。しかし、過度の圧縮力とねじり力が同時に加わると、接合面から押し出されて隙間ができ、シールの完全性が損なわれる可能性があります。また、シリコンは引き裂き強度が弱い点もまた懸念点のひとつです。シリコンは、一度硬化すると再び溶かして成形できない熱硬化性の材料のため、プラスチックと一体成形することが難しく、Oリングとキャップを別々に成形し、後からOリングをキャップに取り付ける必要があります。
これらシリコンOリングの課題を解決するため、TPVガスケットを採用したサンプル保存用チューブが増えつつあります。
TPVガスケットの特長
サンプルの蒸発(ガス透過性)
TPVはシリコンよりもガス透過性が低いことが知られています。社内評価の結果、TPVガスケットを使用したサンプル保存用チューブは、シリコンOリングのチューブよりも、サンプルの蒸発量が低いことが確認されました(図1)。従って、TPVガスケットの使用は、サンプルの蒸発をより効果的に低減することから、長期保存や凍結保存に適しているといえます。
耐久性
TPVはキャップと一体成形が可能で、シリコンよりも耐熱(寒)性に優れ、温度変化にも比較的安定しています。凍結と融解を10回繰り返した際のガスケットの劣化によるサンプルの漏れについて社内評価を行ったところ、TPVガスケットが一体成形されたキャップを用いたサンプル保存用チューブでは、ほとんど漏れが見られないことが確認されました(表1)。このことから、TPVガスケットのチューブは、凍結融解が繰り返される状況においても安定してサンプルを保存できると考えられます。
社内評価の詳細は下記アプリケーションノートをご参照ください。
▶【資料ダウンロード】アプリケーションノート|サンプル保存用チューブの気密性を高める優れたガスケット材料
TPVガスケットのメリットまとめ
- ガスケットのガス透過性が低いことから、保存中の蒸発によるサンプル損失の最小化が期待できる。
- ガスケットとキャップが一体成形されたキャップ設計により、凍結融解を繰り返しても気密性を維持できる。
- 優れたガスケット材料と革新的なキャップ設計の組み合わせは、長期にわたって安定したサンプルの凍結保管に適している。
TPVガスケットが一体成形されたキャップを使用したサンプル保存用チューブは、信頼性の高いサンプル保存を必要とする場面において、優れたソリューションを提供します。
まとめ
TPVガスケットには、さまざまなメリットがあります。まず、ガス透過性が低いため、保存中の蒸発によるサンプル損失を最小限に抑えられます。また、ガスケットとキャップが一体成形されたキャップ設計は、凍結や融解を繰り返しても気密性を保つことに有用です。この優れたガスケット材料と革新的なキャップ設計の組み合わせにより、サンプルのライフサイクル全体を通して、サンプルを安定して凍結保存できます。
このように、サンプル保存用チューブを選ぶ際には、操作性はもちろん、サンプルの特性ができるだけ変化せず、長期間安全に保存できるかどうかも考慮することが大切です。チューブを選定する際、ガスケットの材質まで気にされる方はあまり多くないかもしれませんが、サンプル保存用チューブの気密性はサンプルの品質維持に関わる重要な要素です。そのため、ガスケットについてもご検討いただければと思います。
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