▼もくじ
はじめに
前回のブログでゲノム編集の原理を学んだAさんは、次に先輩からガイドRNAデザインにおける注意点や方法を学ぶことになりました。
ガイドRNAのデザイン方法
まず、ガイドRNAのうち、標識遺伝子に対してデザインが必要なのはcrRNA部分のみです。下流のtracrRNA部分は共通ですので、PAM配列の上流に、ターゲット遺伝子に相補的なcrRNA配列をデザインする必要があります。Aさんは、早速ガイドRNAのcrRNA部分をデザインしようと試みています。

図1:ガイドRNA模式図
Aさん:
SpCas9ヌクレアーゼを使う場合、PAM配列はNGGだから、この上流19~20塩基でcrRNAをデザインするんですよね。で、このcrRNAがターゲット以外の部分に結合しちゃうとオフターゲット効果になるから…
先輩:
悩んでるね。crRNAを自分でデザインするのは結構大変だよ。
Aさん:
あ、先輩。crRNAがターゲット以外の部分に結合しちゃうとオフターゲット効果が出ちゃいますよね。特異性の高いcrRNAをデザインするには、どうすればいいんでしょうか。
まず、オフターゲット効果とは、目的の部位以外に変異が挿入されてしまうことです。オフターゲットで変異が入った場合、確認された表現型が、目的の変異由来のものなのか、オフターゲット由来のものなのか、判断が難しくなってしまいます。そのため、極力オフターゲット効果を防ぐ工夫が必要です。たとえば、Cas9タンパク質を用いた実験系を構築することも効果的ですが(第3回で詳しく説明しています)、そもそもcrRNAの特異性が高くないと、ターゲット以外のところに結合してしまいます。
では、特異性の高いcrRNAとはどのような配列でしょうか?
先輩:
特異性の高いcrRNAをデザインするポイントは、2つあるよ
<特異性の高いcrRNAの条件>
- Seed配列(PAM配列の上流12塩基)の特異性を高くすること
- crRNAの配列が、ターゲット以外の配列と3つ以上異なる塩基を持つこと
つまり、crRNAのうち特にSeed配列の特異性を高くして、かつ、crRNAが間違えて別の場所に結合しないように、オフターゲット効果となりうる配列とcrRNA配列の間には、3つ以上の異なる塩基があるようにデザインする必要があります。しかし、こういった配列を自分で探すのは大変ですよね。そのため、ガイドRNAのデザインツールに、デザインを任せてしまいましょう。
ノックアウト用のガイドRNAデザインツールの使い方
さて、Aさんの実験では、ゲノム編集のノックアウトによるランダム変異を起こし、「遺伝子の機能を破壊」することが目的です。そのため、ここではゲノム編集のノックアウト実験用のガイRNAデザイン方法をご紹介します。ノックイン用のガイドRNAデザイン方法については、第7回をご参照ください。
先輩:
ガイドRNAのデザインと注文は、オンラインで行うよ
<ノックアウト用のガイドRNAデザインと注文方法>
ガイドRNAのデザイン&注文には、TrueDesign Genome Editorを用います。このデザインツールは、PAM配列などcrRNAデザインの基本に沿いながら、上述のオフターゲット効果を防ぐ2つのポイントが練り込まれたアルゴリズムで、簡単にデザインできます。
まず当社のホームページにアクセスし、右上の「サインイン」をクリックし、「Connect Your Lab」をクリックしてください。サインインが求められますので、すでに登録済みの場合は、ログインしてください。アカウントをお持ちでない場合は、右側の「アカウントを登録する」から登録してください。
Thermo Fisher Connect™ Platformのページが開きますので、左下の「All apps」から「TrueDesign Genome Editor」を探しましょう。もし見当たらないときは、「All apps」と書かれている右横の「Filter by」で「Synthetic Biology」を選ぶと出てきます。
TrueDesign Genome Editorを開くと、下図のようなページが表示されます。
まずは、1. Select a gene editing experimentで、実施予定の実験を選びます。
今回、Aさんは「ノックアウト実験」を行う予定なので、このブログでも一番左の「Gene Knockout」を選びます。この選択肢以外の項目は、すべて「ノックイン実験」で選ぶ項目です。ノックイン実験については、第7回で改めてご紹介します。
Gene Knockoutを選ぶと、左側の「1」のところに「Gene Knockout」と入り、「Next」ボタンがアクティブになります。
「Next」をクリックしてください。
「2. Select Species」では生物種を選択します。このガイドRNAデザインツールでは、ここに表示されている以外の生物種はデザインができませんのでご注意ください。
Aさんは「Human」で行う予定なので、ここでは「Human」を選択し、「Next」をクリックします。
「3. Select Input Type」では、遺伝子の検索の仕方を選びます。遺伝子名から検索したいときは「Gene Symbol」、配列のときは「DNA Sequence」、染色体のロケーションから検索するときは「Chromosome Locus」を選んでください。
ここでは、多くの人が選ばれるであろう「Gene Symbol」を選択します。
Gene Symbolとして、試しに「KLF4」と入れてみると、選択肢が表示されました。
近い遺伝子名がある場合、このように選択肢が表示されます。ノックアウトしたい遺伝子を選び、「Search Gene」をクリックしましょう。ここでは上の選択肢を選びます。
「5. Select one of the following xx transcript(s)」では、その遺伝子にバリアントがある場合、いずれかを選ばなくてはなりません。「Transcript ID」をクリックすると、NCBIのページに飛んで、詳細が確認できます。
ここでは一例として、上の遺伝子を選びます。Selectにチェックを入れ、「Next」をクリックしてください。
下図のような画面が表示されます。まずは上半分からご説明しましょう。
一部拡大すると、下図のようになります。
最上段の図は遺伝子マップで、Intron、Exon、UTR、Flanking sequenceに分かれています。それぞれの色分けは下記のとおりです。
上から2段目の図「Sequence Editor」は、遺伝子マップの青い四角内を拡大した図で、遺伝子配列、アミノ酸配列が書かれています。
では、この遺伝子に対してガイドRNAをデザインしてみましょう。
画面下の「Select a Knockout Strategy」を選んでください。
ここでは、ノックアウトの方法を選べます。各選択肢の意味は下記のとおりです。
- Frameshift indel:何らかの変異を入れて、フレームシフトを起こす方法
- Insert stop codon:ストップコドンを入れて、変異体を作る方法
- Knockout enrichment:タグを入れて、遺伝子の機能を破壊する方法
ノックアウト方法が特に決まっていない場合は、「Frameshift indel」がおすすめです。この方法が最もよく選ばれているためです。方法を選択したら、「Next」で次に進んでください。
次に「Select a gRNA option」を選択します。
- Predesigned sgRNA:プレデザインのガイドRNAを発注したい場合
- Custom gRNA & TALEN Design:カスタムでデザインしたい場合
なお、カスタムと言っても、ご自身で独自にデザインするわけではなく、配列中のどの箇所に変異を入れたいかを指定して、その付近でデザインをする選択肢になりますのでご注意ください。
ここでは、多くの方が選択するプレデザイン配列、つまり「Predesigned sgRNA」をクリックして進めます。
デザイン中は、下図のような表示が現れます。たいていの場合、1分以内にデザインが完了します。
Predesigned sgRNAでデザインしたとき、「No Design」と表示されることがあります。
これは、PAM配列が見つからない場合や、オフターゲットが多すぎるなどの理由で、設計できないときに表示されるメッセージです。
こういったケースでは、「Custom gRNA」を選択して、変異を入れたい箇所をクリックしてみると、デザインできることがあります。
デザインされたgRNAは、4種類表示されます。
それぞれの項目について、説明しましょう。
CRISPR Target Sequence | ガイドRNAの配列です。 クリックすると、ページ上のSequence Editor内で該当配列がハイライトされます。 |
PAM Site | SqCas9のPAM配列です。 ※このソフトウエアではSqCas9の配列しかデザインができませんのでご注意ください。 |
Score(%) | スコアです。 アルゴリズムの合致率が高いほどスコアが高くなりますが、スコアが高いからと言って活性が高いとは限りません。目安のひとつとお考えください。 |
Off-Targets | オフターゲットを引き起こす可能性のある配列の数です。クリックすると、各オフターゲットの配列が確認できます。![]() |
Target Locus | ガイドRNAのゲノム上の場所を示しています。 |
Target Sequenceの右横についている緑色のチェックは、表示された4種類の中で推奨される配列です。緑色のチェックがついている配列の中に優劣はありません。この例では3つの配列にチェックがついていますが、3つの配列が同じくらい推奨されることを示しています。
ノックアウト実験の場合、デザインされた複数のガイドRNAの中でおすすめなのは、「なるべく遺伝子の上流」で、「オフターゲット配列が少なく」、「スコアが高いもの」です。ノックアウト実験の場合、特に遺伝子の上流にデザインされていることは重要です。
遺伝子の下流にガイドRNAを設計して、ランダム変異を挿入した場合、その変異部位までのタンパク質が活性を持ってしまい、野生型のタンパク質と同じ機能を持つ可能性があるためです。
このツールでは、1st~3rdエクソン内にデザインされるようになっていますが、ガイドRNAの配列をクリックして場所を確認し、なるべく上流の配列を選択しましょう。
ゲノム編集では、ガイドRNAはまず1種類を購入して試すことが多いです。注文したいガイドRNAのいずれかひとつにチェックを入れて、Nextをクリックしてください。
このページの項目では、注文するものにチェックを入れる必要があります。各項目について説明しましょう。
<左列>
・CRISPR gRNA Format:チェックを入れてください。デザインしたガイドRNAをオーダーできます。容量は1.5 nmolのみです。
・Cas9 Format:チェックを外してください。代理店からご注文をお願いいたします。
・Cas9 Reagent:チェックを外してください。代理店からご注文をお願いいたします。
・Transfection Reagent:チェックを外してください。代理店からご注文をお願いいたします。
※「Cas9 Format」「Cas9 Reagent」「Transfection Reagent」は、日本ではここから注文ができません。もしチェックをしたままCartに入れると、「注文できません」というアラートが出ますので、ここで外しておいてください。
<右列>
・Primers:チェックを入れると、ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析(第5回参照)を実施するときのPCR用プライマーが注文できます。容量は25 nmolのみです。
「View」をクリックすると、ガイドRNAに対してデザインされたForward PrimerとReverse Primerの配列が確認できます。デフォルトだと3つすべてにチェックが入っているので、1種類でよい場合は、どれか1つだけチェックを入れておきましょう。
※オフターゲット配列に対するPrimerはこのサイトでは注文できません。
・Other products You May Need:すべてチェックを外してください。必要な場合は代理店からご注文をお願いいたします。
・Download Designs and Protocol:クリックし、ご注文内容のダウンロードと保存をおすすめします。サイトでデザインしたオフターゲット配列なども保存しておけるためです。
チェックを入れ終えたら、「Add to Cart」をクリックしてカートに入れましょう。
このようにデザインされたcrRNAを用いてゲノム編集を行うことで、オフターゲット効果を可能な限り防ぐことが可能です。しかし、オフターゲットがゼロになるわけではありません。そのため、ゲノム編集株を樹立した際は、オフターゲットによる変異を確認しましょう。このツールの「Off-Targets」で表示された配列付近がオフターゲットを引き起こす可能性の高い配列ですので、その付近について、シーケンスなどでオフターゲットの変異が導入されていないことを確認する必要があります。
ノックアウト用ガイドRNAのデザインのまとめ
手作業でガイドRNAをデザインするのは大変です。そのため、TrueDesign Genome Editorのようなオンラインソフトウエアを使用しましょう。こういったツールの使用により、オフターゲット効果が低く、特異性の高いガイドRNAがデザインできます。
TrueDesign Genome Editorの特徴
- ヒト、マウス、ラット、ゼブラフィッシュ、線虫に対応
- 1st~3rdエクソン内にデザイン(ノックアウトの場合)
- SpCas9(化膿レンサ球菌由来)のみ対応
- 4種類のプレデザインガイドRNA配列が表示され、スコアやオフターゲット配列数から選択可能
- それぞれのプレデザインガイドRNAのオフターゲット配列が確認可能
- ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断
Aさん:
ガイドRNAがデザインできました!これで培養細胞のノックアウト実験ができますね
先輩:
待って。その前にCIRSPR/Cas9の3つの実験系からちゃんと選んだ?
Aさん:
3つの実験系って?
さて、ガイドRNAのデザインと注文が完了したAさんですが、次に3つの実験系とやらを考えなくてはいけないようです。次回、第3回では、この3つの実験系について詳しくご紹介します。
略語解説
CRISPR; Clusterd regularly interspaced short palindromic repeats
SpCas9R; Streptococcus pyogenes由来のCas9
Cas; CRISPR-associated protein
PAM; Protospacer adjacent motif
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参考文献
1.Enhanced CRISPR/Cas-mediated precise genome editing by improved design and delivery of gRNA, Cas9 nuclease, and donor DNA. J.Biotechnology. 2017;241:136-46
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。