ゲノム編集の初心者Aさんによる「初めてのゲノム編集実験」、シリーズ第5回は、トランスフェクション後の細胞スクリーニングについてです。
Aさんは先輩に習いながらCas9タンパク質とガイドRNAをトランスフェクションするところまで来ました。さて、果たしてちゃんと変異が導入されたのでしょうか?今回はその確認方法を、Aさんや先輩と学んでいきましょう。
ゲノム編集の変異導入効率を確認しよう
Aさん:
先輩、細胞へのトランスフェクションが終わりました。変異が入ったかシーケンスの準備をしますね!
先輩:
シーケンスで変異の確認も必要だけど、変異導入効率の確認もしなくちゃいけないよ。
Aさん:
あ、そうか。トランスフェクションした全ての細胞の中に変異がどのくらい入っているかの確認ですね。どうやってするんでしょうか。
先輩:
いくつか方法があるけど、よく採用されている方法は2つ。ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析で変異導入効率を確認する方法と、SeqScreener※っていうツールを使って、シーケンスで変異導入効率を確認する方法。図1にまとめてみたけど、どっちがいい?
※Applied Biosystems™ SeqScreener Gene Edit Confirmation Appというクラウドを使った解析ソフトウエアです。詳しくは細胞を希釈して、クローニングしようをご覧ください。

図1:トランスフェクションから変異確認までの流れ
Aさん:
そうなんですね。いろいろ経験しておきたいので、ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析っていう方法で変異導入効率を確認してからクローニングとシーケンスをしたいです!
ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析(Cel-1 assay、T7E1 assay)とは、トランスフェクションした細胞中、どのくらいの割合が変異されているのか見るアッセイです。細胞の変異割合が低ければ、ガイドRNAのデザインを変えた方が良いかも知れないし、変異割合が高ければ※、実験が成功している確認もできます。
※実験目的にもよりますが、変異割合は30-40%程度を目指すと、変異株を樹立しやすくなります。
<ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析の原理>
この方法では、「ミスマッチ特異的エンドヌクレアーゼ」を使用します。ゲノム編集により変異が入ると、PCR産物中にミスマッチ部位を生じます(図2-①)。この部位を、ミスマッチ特異的エンドヌクレアーゼで切断します。
その後、PCR産物を電気泳動することで(図2-②)、切断されていないバンドと切断されたバンドが確認できます。このバンドボリューム比から、変異率を算出できます(図2-③)。

図2:ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析の原理と流れ
変異効率の導入には、ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析のほかに、Heteroduplex Mobility Assay (HMA)という方法もあります。しかし、定量性が高く、多サンプルの解析にも向いている点から、ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析がよく選ばれています。ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析用に、Invitrogen™ GeneArt™ Genomic Cleavage Detection Kitというキットも販売しています。
細胞を希釈して、クローニングしよう
Aさん:
先輩、ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析の結果、変異導入効率は32.5%でした!
先輩:
まあまあの効率だね。じゃあシーケンスに進もうか。まずはクローニングだね。
導入効率を測定した段階では、まだ変異が入った細胞と変異が入っていない細胞が混ざった状態です。そのため、シーケンスの前に細胞を限界希釈して、変異が入った細胞と変異が入っていない細胞を分けましょう。

図3:細胞の希釈とクローニング
図3のように単一細胞ごとのクローンを樹立できたら、次は細胞ごとにシーケンス解析をします。
Aさん:
あれ?そういえば、遺伝子の両アレルに同じ変異が入ったならシーケンス解析は問題ないですけど…、たとえば片方のアレルにだけ変異が挿入されたヘテロの場合、シーケンスで読むと、どうなるんでしょうか?
先輩:
おっ、いいところに気がついたね。Aさんが言っているのは、たとえば図4みたいな状況だね。

図4:ゲノム編集のシーケンス解析時、変異が入った部位からピークが2つになるケースの例
先輩:
こういう場合、どうすればいいと思う?
Aさん:
まずはシーケンスで読み取ってみて、波形が重なっているようなら、PCR産物をサブクローニングして、もう一度シーケンスですよね?でもそれ、結構な数のクローニングが必要になりませんか…?
先輩:
そうだね。その方法が今までは推奨されてたんだけど、Aさんが言うように、かなり手間がかかっちゃうよね。今はもっといい方法があるんだよ。最初に言ったSeqScreenerっていうツールの話、覚えてる?
Aさん:
あっ、変異導入効率の確認もできるやつですね。
ゲノム編集で変異を入れると、図4のように、2本の相同染色体のうち、片方にしか変異が入らないこともあれば、2本それぞれに入った変異が異なることがあります。こういう遺伝子をシーケンスで読むと、波形が重なってしまい、解析が難しくなります。こういうときは、解析が難しかった分すべてに対して、PCR産物をクローニングして、再度シーケンスで解析するのが従来の方法でしたが、どうしても手間がかかりました。
そこで登場したのが、ゲノム編集後の複雑な波形を簡単に解析できるツール、Applied Biosystems™ SeqScreener Gene Edit Confirmation Appです。このツールはデータ(.ab1)を分析できる無償クラウドアプリで、プレート配置と各ウェルの結果を一括で確認でき、欠失/挿入配列のバリエーションや欠失/挿入割合の分布もソフトウエアが算出してくれます。
先輩:
SeqScreenerがなかった頃は、手間暇かけて解析するしかなかったんだよ。便利になったね。
まとめ
トランスフェクション後は、変異導入効率と、変異の確認をしよう
変異導入効率の確認にはミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析がよく使われます。その後、単一細胞ごとにクローニングし、シーケンスで変異の確認を行う流れです。SeqScreenerのようなツールが使用できる場合は、ミスマッチ特異的ヌクレアーゼ切断解析の代わりにシーケンスとSeqScreenerで変異導入効率を確認できます。また、SeqScreenerがあれば、ヘテロ変異などの解析も今までより簡易的に行うことができます。
ところで、Aさんの「初めてのゲノム編集実験」はつつがなく進んでいますが…
Aさん:
あ、この結果は…
オフターゲット効果なのかな?あとで先輩に訊いてみよう。
どうやらオフターゲット効果と思われる現象が見られているようです。次回はオフターゲット効果をどうやって軽減したらよいか、ポイントをご紹介しましょう。
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