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Accelerating ScienceLearning at the Bench / 分子生物学実験関連 / そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第6回 オフターゲット効果~

そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第6回 オフターゲット効果~

Written by LatB Staff | Published: 06.08.2023

ゲノム編集の初心者A君による「初めてのゲノム編集実験」、前回は、変異導入効率と変異の確認方法について学びました。

前回ご紹介した流れに従って、ゲノム編集で変異が入っていることが確認できれば、ひとまずは安心です。しかし、ゲノム編集実験をここで終わらせてはいけません。もうひとつやることが残っています。どんなに優れたデザインのガイドRNAでも避けては通れないオフターゲット効果を確認する必要があるためです。

第6回では、このオフターゲット効果についてご紹介します。

▼もくじ

  • ゲノム編集のオフターゲット効果とは?
  • そもそもオフターゲット効果を防ぐには?
  • まとめ:オフターゲット配列は必ず確認しよう
    • 実際にCRISPR/Cas9ゲノム編集を始める方におすすめ!
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ゲノム編集のオフターゲット効果とは?

Aさん:
先輩。実はターゲット遺伝子と配列が似ている別の遺伝子の配列を見てみたんですが、ここにも変異が入っているかも知れません。どうしましょう。

先輩:
それはオフターゲット効果だね。ゲノム編集では多かれ少なかれ起こることだよ。

Aさん:
そうなんですか?なんだ、心配しちゃいました。

先輩:
どんなにガイドRNAのデザインが優れていても、オフターゲット効果は起きるのが普通だよ。だから、オフターゲットの可能性のある配列付近も、シーケンスでしっかり見ておくことがとても大切なんだ。

オフターゲット効果とは、目的の遺伝子以外のところに変異が入ることを指します。どれだけガイドRNAのデザインを工夫しても、対策を立てても、オフターゲットがゼロになることはありません。そのため、「基本的には起こる可能性のあるもの」として、オンターゲット(ターゲットの変異)をシーケンスで確認するとき、併せてオフターゲットの有無も確認しましょう。

では、オフターゲットをどのようにして確認すればよいでしょうか。

もちろん全ゲノム配列を確認すれば間違いないですが、次世代シーケンサなど大型機器が必要になってしまい、解析も大変になってしまいます。そのため、オフターゲットを引き起こす配列付近のみをシーケンスで確認しましょう。

では、オフターゲットを引き起こす配列はどのように特定すればよいでしょうか。

第2回でもご紹介したように、ガイドRNAをデザインしたとき、オフターゲットとなりうる配列がいくつかピックアップされました。表1は、当社Invitrogen™ TrueDesign™ Genomic Editorを用いてノックアウト用のガイドRNAをデザインしたときに表示されたものです。4種類のガイドRNAがデザインされていますが、このうち「Off-Targets」の欄には数字が記載されています。この数字が、オフターゲットを引き起こす可能性のある配列の数を表しています。

表1 TrueDesign Genomic Editorオフターゲット配列の表示(1)TrueDesign Genomic Editorオフターゲット配列の表示(1)

たとえば表1の最上行の「5」をクリックすると、表2のように配列情報が表示されます。

表2 TrueDesign Genomic Editorオフターゲット配列の表示(2)
TrueDesign Genomic Editorオフターゲット配列の表示(2)

表2に表示された配列が、ゲノム上でオフターゲットを引き起こす可能性が高い配列です。そのため、ここに記載された配列すべてをシーケンスで確認しておきましょう。

または、同じくTrueDesign Genomic EditorツールのガイドRNA注文直前の画面で「Download Designs and Protocol」をクリックし、注文内容をダウンロードされていたら、そのファイルからもオフターゲット配列が確認できます。

オフターゲットの可能性のある配列が確認できたら、これらの配列に対してプライマーをデザインし、シーケンサで読み取り、変異が入っていないか確認しましょう。変異が入っている株は、オフターゲット株として除外することをおすすめします。

そもそもオフターゲット効果を防ぐには?

Aさん:
先輩、オフターゲット配列付近をシーケンスで見るのが怖くなってきました。もし変異が入った株すべてにオフターゲットが入っていたら、実験やり直しですか?

先輩:
変異を入れるところからもう1回か、ガイドRNAを作り直した方が良いケースもあるよ。でもやり直しは面倒だし、だからこそ、あらかじめ実験デザインのときにオフターゲット効果を防ぐ対策を立てておくのが重要なんだ。

今までのゲノム編集シリーズの第1回~第5回で、オフターゲット効果を防ぐポイントがいくつか出てきました。復習を兼ねてポイントをまとめると、下記のようになります。

<ゲノム編集(CRISPR)におけるオフターゲット効果を防ぐ方法>

  1. ガイドRNAの3’の10~12塩基(Seed領域)の特異性を高める
    (つまり、ターゲット以外の配列が、Seed領域にミスマッチを持つような配列を探す)
  2. CAS9はProtein方法を用いる
  3. Cas9タンパク質として、Invitrogen™ TrueCut™ HiFi Cas9 Proteinを使う

Aさん:
先輩、1と2は習った内容ですが、3は初耳です。TrueCut HiFi Cas9 Proteinってなんでしょうか。

先輩:
TrueCut HiFi Cas9は、オフターゲット効果を低減させる工夫がされているCas9だよ。

TrueCut HiFi Cas9 Proteinは、従来型のTrueCut Cas9に変異を組み込むことで、オフターゲット効果を低減させるように開発されたCas9です。図1は従来型のCas9(wt-Cas9)と、オフターゲット低減型のTrueCut HiFi Cas9のオンターゲット効果・オフターゲット効果の比率をまとめたものです。縦軸はオフターゲットのイベント総数で、従来型Cas9と比較してTrueCut HiFi Cas9ではオフターゲットの総数が劇的に低いのがわかります。

従来型Cas9とTrueCut HiFi Cas9のオフターゲット総数の比較

図1 従来型Cas9とTrueCut HiFi Cas9のオフターゲット総数の比較

なお、TrueCut HiFi Cas9はオフターゲット低減には劇的な効果を及ぼしますが、場合によって、肝心のターゲット部分への変異導入効率が従来型に比べてわずかに下がることがあります。

そのため、オフターゲット効果が十分低いときに、TrueCut HiFi Cas9を用いる必要はありません。しかし、たとえばガイドRNAのデザイン上、オフターゲット効果を引き起こす配列数が多い場合や、実験の都合上、供与方法としてProtein方法が採用できないとき、通常のTrueCut Cas9で実施した結果オフターゲット効果が高かったときなどに検討しましょう。そういったときは、TrueCut HiFi Cas9がオフターゲットの大幅な軽減に活躍をしてくれます。

まとめ:オフターゲット配列は必ず確認しよう

オフターゲットの確認には、ガイドRNAデザインツールでピックアップされた配列付近を確認しましょう。また、実験のやり直しが極力生じないように、実験計画を立てるときにはオフターゲットを防ぐ方法をなるべく採用することをおすすめします。

Aさん:
僕の実験は無事に終えることができました。
そうだ、ノックインについても知っておきたいな。

さて、第1回~第6回を通して、Aさんの初めてのゲノム編集実験は順調に終えることができました。しかし、今までの連載はゲノム編集実験のノックアウト実験を前提としています。そのため、次回最終回では、ノックアウトに比べてまだまだ歴史が浅いけれど確実に論文数が増えているノックイン実験について、ポイントをご紹介します。

<ゲノム編集実験シリーズ>
そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第1回 CRISPR/Cas9システムの原理~
そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第2回 ガイドRNAのデザイン~
そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第3回 3つのCRIPSR/Cas9実験系~
そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第4回 トランスフェクション~
そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第5回 変異の確認方法~
そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第6回 オフターゲット効果~
そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第7回 ノックイン~

<ゲノム編集の基礎的な内容>
ゲノム編集の原理と手引き

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