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Accelerating ScienceLearning at the Bench / その他 / 皮脂RNA解析がもたらす先端スキンケアの可能性

皮脂RNA解析がもたらす先端スキンケアの可能性

Written by LatB Staff | Published: 05.13.2025

大手企業も注目する「皮脂RNA解析」。本ブログでは、この革新的な技術が私たちのスキンケアや健康管理の未来をどのように変えていくのか、その驚くべき可能性を具体的な事例とともにご紹介します。皮膚の状態をより正確に把握することで、疾患の早期発見や個々の健康状態に応じたケアが実現するかもしれません。ブログの最後に、花王株式会社様による本記事に関連した講演動画をご紹介していますので、ご参照ください。

▼もくじ

  • 皮脂RNA解析とは
  • 皮脂RNA解析の研究事例
  • まとめ
  • さらに詳しく知りたい方へ
    • 皮脂RNAモニタリング®技術についての紹介動画
    • 次世代シーケンス入門ハンドブック
    • Ion Torrent™ 次世代シーケンサ テクニカルハンドブック

皮脂RNA解析とは

皮膚は身体のさまざまな状態が反映されます。生体分子の1つであるRNAは、外側からは観察できないような微細な皮膚の変化を情報として含んでいます。これまで皮膚のRNAを解析するためには、侵襲的(外科的)に皮膚を採取する方法が一般的でした。そのため、非侵襲的にRNAを皮膚から回収する方法が望まれていました。近年、皮脂に分析可能なRNAが含まれていることが明らかとなってきました。また、あぶら取りフィルムなどを用いると皮脂とともにRNAを採取することができ、遺伝子発現パターンを解析できるようになってきました。

遺伝子発現解析には、リアルタイムPCRやマイクロアレイの他に、次世代シーケンサも強力なツールとして利用されています。今回ご紹介する皮脂RNA解析は、当社のIon Torrent™ 次世代シーケンスシステムとIon AmpliSeq™ Transcriptomeという技術が使用されており、約10,000種の皮脂中のmRNAの発現データを網羅的に解析することができます。本技術では、まず複数の対象遺伝子に対するプライマーペアを1本のチューブにまとめたプライマーセットを準備します。RNAを逆転写して得られたcDNAを鋳型にして1チューブ内で複数ターゲットのPCR増幅(マルチプレックスPCR)を行い、そのアンプリコンについての次世代シーケンス解析を行います。各遺伝子について150 bp程度の比較的短い領域をPCRによって増幅することで、微量かつ分解の進んだサンプルでも解析可能な技術です。

次世代シーケンスシステム Ion GeneStudio™ S5 シリーズ

皮脂RNA解析の研究事例

皮脂のRNAを解析できる1つの事例として、皮脂RNAモニタリング技術®️が挙げられます。これは皮脂の中にヒトのRNAが存在するという発見が契機となりました。花王株式会社が構築したこの技術は、あぶら取りフィルムで顔の皮脂を採取し、そこから抽出したRNAを材料として次世代シーケンサを利用して網羅的に発現情報を解析するものです。この技術には、以下のような特徴があります。

非侵襲的なサンプリング 血液や組織サンプルを採取するのとは異なり、あぶら取りフィルムで皮脂を採取するため、サンプリングの負担が少ないです。
リアルタイムモニタリング 皮脂から得られるRNAを定期的に分析することで、健康状態の変化をリアルタイムで追跡でき、早期の病気発見や治療効果の評価が可能です。
多様な情報 皮脂には多くのRNAが含まれており、これを分析することで、皮膚の健康状態だけでなく、全身の健康状態に関する情報を得ることができます。
パーソナライズドメディスン 各個人の皮脂RNAプロファイルを分析することで、個別化された治療計画を立てることが期待されます。
簡便なモニタリング 皮脂サンプルの採取は比較的簡便であり、自宅での自己採取も可能です。これにより、遠隔医療や在宅医療の一環として利用することができます。

公表されているこれまでの研究事例を2つご紹介します。

  1. 乳幼児におけるアトピー性皮膚炎
  2. ある実験では、皮脂RNAの解析により、アトピー性皮膚炎の早期発症を検出できる可能性が示されました。例えば、生後1カ月でニキビのある乳児の中で、その後アトピー性皮膚炎を発症した乳児は、後2カ月目でアトピー性皮膚炎を発症した乳児と類似した皮脂RNA発現パターンを持っていることが明らかになりました。この情報を基に、個々の患者に合わせたターゲット治療や、より効果的な治療法の開発が可能になるかもしれません。

  3. パーキンソン病への応用
  4. 神経変性疾患の1つであるパーキンソン病は、ドーパミンを生産する脳内神経細胞が死滅することにより発症します。現在は、この病気を根治するための治療方法は存在しませんが、早期診断と適切な治療により症状をコントロールすることは可能です。そのために簡便な検査方法が求められています。研究によると、パーキンソン病患者の皮脂RNA解析を行った結果、特定のRNAマーカーが病気と関連していることが明らかになりました。このRNAマーカーを用いることで、パーキンソン病の早期診断や進行状況のモニタリングなど、患者のQOL(生活の質)向上に寄与する新しい検査方法の開発につながる可能性があります。

まとめ

皮脂RNA解析は、非侵襲的に皮脂からRNAを採取し、遺伝子発現パターンを解析することで、皮膚の状態や健康状態を詳細に把握するための革新的な技術につながる可能性がありますこの技術の進展により、アトピー性皮膚炎やパーキンソン病などの疾患の早期発見や、個別化された治療法の開発が期待されています。皮脂RNA解析は、スキンケアや健康管理の分野において大きな変化をもたらす可能性があります。今後、この技術のさらなる発展とともに、私たちの生活の質が大きく向上することが期待されます。

さらに詳しく知りたい方へ

井上 高良 様(花王株式会社 スキンケア研究所 ライフケア事業開発部 主席開発員)による、皮脂RNAモニタリング®技術についての紹介動画を公開しています。この動画では、技術の詳細や実際の研究事例についてわかりやすく解説されています。ぜひご覧ください。動画の視聴はこちらから。

皮脂RNAモニタリング®技術についての紹介動画

  動画はこちら  

次世代シーケンス入門ハンドブック

ダウンロードはこちら

Ion Torrent™ 次世代シーケンサ テクニカルハンドブック

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皮脂RNA モニタリングは、花王株式会社の登録商標です。

 
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。

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