リアルタイムPCRでGenotyping実験をされていて「結果が自動で判定されない」、「クラスターがきれいに分かれない」というような経験はないでしょうか。実際にこれらの「困った」はGenotyping実験をされている方から、よくお問い合わせをいただくトラブルです。今回の記事ではGenotyping実験でのトラブルシュートを実際のデータをお見せしながらお伝えしていきます。この記事が解析の手助けになれば幸いです。
▼こんな方におすすめです!
- リアルタイムPCRでGenotyping実験をされている方
- Genotyping実験でうまく結果が出ずに困っている方
- Genotyping実験をこれから始める方
▼もくじ
Genotypingデータの見方
トラブルシュートについてお話しする前に、Genotyping実験の原理とデータの見方についてお伝えします。
Genotyping実験ではFAM™色素、VIC™色素でそれぞれ標識されたTaqMan™プローブを変異がある領域に設計します。アレル1の配列をVICプローブで、アレル2の配列をFAMプローブで認識できるようにします。アレル1の鋳型のみあればVIC色素のみ、アレル2の鋳型のみであればFAM色素のみ蛍光強度が増加します。アレル1とアレル2のヘテロのサンプルであればFAM色素とVIC色素の両方の蛍光強度が増加します(図1)。

図1:Genotyping実験の概念図
リアルタイムPCRの実験結果といえば増幅曲線(Amplification plot)を思い浮かべる方が多いと思いますが、Genotyping実験は増幅曲線ではなく「Allelic Discrimination plot」で結果を確認します。このグラフは横軸にFAM色素の蛍光強度、縦軸にVIC色素の蛍光強度をプロットしたグラフです。VIC色素のみ蛍光強度が増加していればアレル1のホモ、FAM色素のみ蛍光強度が増加していればアレル2ホモと判断できます。FAM色素とVIC色素の両方の蛍光強度が増加していれば、ヘテロと判断ができます。図2のように自動でアレルタイプが判断され、色分けされます。

図2:Genotypingの結果の見方
ウイルスの変異解析の場合はヘテロのサンプルは生じず、野生型もしくは変異型の2クラスターとなります。
困ったその1 プロットが分離できていない
クラスターに分かれている?分かれていない?と迷ってしまうようなプロットが得られる場合があります。図3は実際の実験データです。アレル1ホモのクラスターとヘテロのクラスターが非常に近い位置にプロットされています。ソフトウエアによる自動判定も行われず、判定結果が表示されていません。このような結果が得られた場合は反応条件を変えたり、解析条件を変えたりすることで解析できるようになる場合があります。

図3:分離が不明瞭なデータ例
- 反応条件を変える場合
アニーリング温度を上げるもしくは下げることでプロット分離が明瞭になる場合があります。通常は60 ℃でアニーリングを実施しますが、62 ℃や64 ℃へと温度を上げたり、もしくは下げたりして改善するか確認します。 - 解析条件を変える場合
一部の装置では増幅中のリアルタイムデータを用いて解析することが可能です。アレルタイプによってPCRラン中の蛍光値の軌跡が異なる場合があり、判断がしやすくなる場合があります。図3では2つのクラスターに見えましたが、実際には3つのクラスターに分かれていると判断できました(図4)。
設定方法は操作ガイドをご覧いただくか、弊社テクニカルサポート(jptech@thermofisher.com)までお問い合わせください。

図4:リアルタイムデータを用いた解析結果
困ったその2 結果が自動で判定されていない
サンプル数が非常に少ない場合やクラスターが2つ以下の場合は結果が自動で判定されない場合があります。プロット図では×マークで結果が表示されます。
このような場合は解析の設定を3つのクラスターがあるとする解析から2つのクラスターがあるとする解析に変更したり、マニュアルで判定したりして解析します。

図5:自動で解析結果が判定されていない例
ポジティブコントロールを測定するメリット
ポジティブコントロールを同時に測定することで、判定結果の信頼性を高めることができます。特に初めて測定する場合にはポジティブコントロールを設定し、プロットが適切に分離されるか確認することをお勧めします。サンプル数が少なく解析結果が表示されない場合もポジティブコントロールを設定すると自動判定できるようになるケースがあります。
ポジティブコントールにはシーケンサなどで配列を確認したサンプルや、人工合成DNAが使用できます。人工合成DNAの場合、ヘテロのサンプルは、野生型アレルと変異型アレルを1:1に混合した疑似サンプルを使用します。
ポジティブコントロールがきれいに分離できていれば実験系がワークしていると判断できます。一方でポジティブコントロールの分離が不明瞭だったり、判定結果が誤ったりしている場合はラン条件や解析条件の見直しが必要となります。
まとめ
Genotyping実験のトラブルシュートについて述べてきましたが、いかがでしょうか。解析設定だけで結果が得られる場合もありますので、まずは設定で解析結果が改善するかお試しください。お使いの装置での設定方法については弊社テクニカルサポートまでお問い合わせください。
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