免疫療法による有害事象を理解するためのバイオマーカーの発見は、がん免疫研究の重要な部分であり、T細胞レセプターベータ(TCRB)遺伝子内の多型が有力な指標となる可能性が示唆されています。
免疫療法は体内の免疫系を刺激して、がんと闘うための治療法の1つですが、副作用により病変部分 ではない組織が危険にさらされる可能性があります。T細胞は病気に対する防御の重要な役割を担っており、免疫反応の調節やがんなどの異物を直接攻撃することもあります。多くの種類のがんでは、がん細胞表面上のチェックポイントタンパク質がT細胞と相互作用することで、T細胞の攻撃を防いでいます。チェックポイント阻害剤(CPI)などを用いた治療法は、この相互作用をブロックし、T細胞のがん細胞に対する攻撃活性を回復させることができます。しかし、これは健康な組織への攻撃を促進し、免疫関連の有害事象(IRAE)を誘発する可能性もあります。免疫療法による潜在的な有害事象を理解するために、T細胞レセプター(TCR)シーケンス研究は役に立つかを検討します。
TCR遺伝子座の複雑性によって生じる解析の困難さ
TCRB遺伝子多型を理解するために、まず思いつく方法としては、次世代シーケンサ(NGS)を使用した全ゲノムシーケンシング(WGS)があります。しかし、この方法は困難であることが知られており、WGSはいくつかの理由から潜在的なバイオマーカーをまだ特定できていません。TCR遺伝子座は非常に反復的で複雑であるため、ショートリードで配列を決定するには困難な遺伝子といえます。一塩基変異を特定し、TCRB遺伝子座の対立遺伝子を決定するためには、この問題を解決できる NGSソリューションが必要です。
ロングリードシーケンスによるTCR遺伝子座の分析
最近の論文では、Looneyらが(2019)、末梢血サンプル由来のRNAを用いて、白色人種81人の対立遺伝子とハプロタイプを同定するために、ターゲットTCRシーケンスの使用を実証しました。著者らは、Ion Torrent™シーケンシングテクノロジーとIon Torrent™ Oncomine™ TCR Beta-LR assayを使用したロングリードシーケンスによって、複雑なTCRB遺伝子座を分析するという課題を克服できることを発見しました。このアッセイは、置換エラー率が低いため、研究者が多型を正確に特定し、既存のデータベースにはなかった新しいTCRB対立遺伝子を発見することもできました。81人はいくつかの主要なハプロタイプに分割され、論文の著者らが知る限りでは、これはハプロタイプレベルの解像度でTCRB遺伝子座を分析した最初のNGSベースの取り組みです。
今後の展望
現在、TCRB遺伝子多型をよりよく理解するためのターゲットNGSソリューションがあり、やるべきことはまだたくさんありますが、研究者はIRAEとの潜在的な関連があるかどうかを詳しく調べて、それに対処するのに役立てることができます。バイオマーカーの特定と継続的な研究の進歩により、より個別化された薬剤の選択が可能になることで、将来の免疫療法がより安全で効果的になる可能性があります。
関連情報
参考文献
次世代シーケンサ入門
Ion Torrent次世代シーケンサをより詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。
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