ラボの安全管理、安全対策、ラボスタッフの健康は最優先される事項です。
そこで今回は「ラボの安全」をテーマに、考え方、対策、準備などについてシリーズ全4回にわたって紹介します。
▼こんな方におすすめです!
・職場(ラボ)の安全管理、リスクマネジメントをする立場にある方
・バイオセーフティ、バイオセキュリティ対策をしたい方
・2024年4月に改正される「労働安全衛生法」の「化学物質規制」対策をしたい方
・ラボの安全が気になる方
▼もくじ
「セーフティ」と「セキュリティ」は何が違うのか?
このブログ読者の皆様はラボにおける「セーフティ」と「セキュリティ」の違いを明確に説明できるでしょうか?どちらもなんらかのリスクや危険に対し安全や対策、またそれらの取り組みや仕組みを意味しますが、「セーフティ」と「セキュリティ」は保安対象が異なり、さらに考え方や対策も全く異なります。このことから、「セーフティ」と「セキュリティ」を別個に考え、保安対象とリスクを明確にした上で、それぞれのスタッフ訓練やトレーニング計画を立案し実施することが必要とされています。どちらもラボを運営する上ではとても重要ですが、有効な「バイオセーフティ」が「バイオセキュリティ」の基礎となっており、ラボでは何より優先されるのは「バイオセーフティ」です。
ラボの「セーフティ」
機器や機材の取り扱い中における事故や怪我などの事項に加え、生物学的に危険な病原体や毒素、また有害とされる薬品や化学物質、放射能の非意図的(うっかりやうかつに)暴露や放出を予防し、スタッフや環境にそれらの危険がおよばないようにすることやそのための 仕組みなどを意味します。これには組織内の規則や注意事項、対策や作業工程などの事項も含まれます。特に化学薬品や生体試料を扱うラボでは、薬品、病原体や毒素は封じ込め(規定の範囲から放出しない様に)することが重要になり、封じ込めに関連する機器の操作や取り扱い、スタッフの定期的な訓練が実施されていることがとても大事な取り組みと位置づけられています。封じ込め措置は人や環境が保安対象ですが、扱うサンプルも「セーフティ」の観点では保安対象と考えられます。サンプルのコンタミネーション(異物混入)や、サンプル間のクロスコンタミネーション(交差汚染)、サンプルの取り扱いミスによる品質劣化は、正しい実験・研究結果を得られない可能性が高まり、検査では誤った検査結果やデータが誤った指示や対策を招き、大きなリスクに繋がる可能性があります。扱うサンプルを汚染や品質劣化から守るための予防措置はラボの「セーフティ」の中で講じる必要があるといえます。サンプルをハンドリングするマイクロピペットの操作やサンプルを保管する容器、また遠心機やフリーザーなどの機器が正しく使われ、適切にメンテナンスされていること、さらにそれらの状態(メンテナンス記録やスタッフの力量など)を管理者がしっかり行っていることが重要になります。この取り組みや考え方については、ラボの安全シリーズ4の「ラボの機器、機材の安全管理」で詳細を説明します。
ラボの「セキュリティ」
実験、研究、検査の途中経過を含めたアウトプット(結果やデータ)、生体試料においては患者やドナー(提供者)の個人情報や、個人が特定される可能性があるゲノム情報、薬品や病原体および毒素の紛失、盗難、悪用、無許可な使用や転用など、意図的、非意図的に関わらず流出や放出を予防する組織内の規則や注意事項、技術、対策、作業工程などを意味します。意図的、つまり盗難や悪用のセキュリティ対策は非常に難しいですが、特に危険な物質や機微な情報の取り扱いはアクセスの権限管理、規則や仕組みとしてスタッフ単独では扱えないようにすることや、然るべき権限を持った人が立ち会うことを義務付けるまたは複数人でアクセスするなどの仕組みを工夫することなどが考えられます。対策を厳重にすればするほどセキュリティのレベルは高くなりますが、その分コストがかかるだけでなく、実験、研究、検査の工程や作業が複雑になり、使いたい時にすぐ使えないなどのラボのパフォーマンスが低下する可能性につながりかねません。
情報セキュリティの3原則とは?
情報セキュリティの3原則とか3要素として「CIA」という言葉を耳にされたことはありますか?これは機密性のConfidentiality、完全性のIntegrity、可用性のAvailabilityの3つの言葉の英単語の頭文字を並べた言葉で、ITの分野やサイバーセキュリティ関連で良く耳にする表現の1つです。機密性のConfidentialityは、おおよその意味は分かると思いますが、情報を漏らさない様、対象のモノに制限がかけられていることやその状態を意味します。完全性のIntegrityは少し補足説明しますと、該当する情報が正確な状態で保持されていることを意味します。例えば改ざんされていないとか、変更された場合履歴や署名が付いているなど、情報そのものの信頼性を問う事項です。可用性のAvailabilityは機密性のConfidentialityと相反すると誤解されるかもしれませんが、いかに使い勝手が良いか、ということです。生体試料や付随する情報も、後生大事に保管することが目的ではなく、やはり使うためのものなので、必要な時にサッと使えないと可用性が低いとなってしまいます。例えば、機密性のConfidentialityを高めるために何重もパスワード入力と複雑な承認プロセスがあると、可用性が低く、CIAのバランスが悪いと言えます。ラボのプロセスや目的に応じて、現場のCIAの程度は異なりますが、やはり現場で作業している時は速やかに情報にアクセスし使える様にしておくことが望ましいでしょう。ところで筆者は、過去にAvailabilityを高めるためか、扉に鍵をつけたままの薬品棚、ラボの出入り口のオートロック扉の隙間に緩衝材を挟み、ロックがかからないようにされた扉のラボを見かけたことがあります。これはラボにスタッフがいる場合は、この様にすることを組織内で取り決められていたとしても、セキュリティの観点では非常にリスクが高い状態で、CIAのバランスが悪い例と言えます。皆様のラボは大丈夫でしょうか?
サンプルとサンプル情報のセキュリティに貢献
ラボの「セキュリティ」対策の1つとしては効果的な製品は当社のサンプル保管容器(チューブ/バイアル)2次元(2D)コード付きチューブのシリーズがあります。2Dチューブとは、凍結保存用クライオチューブの底面に、レーザーエッチングされた2次元(2D)コードが付いているものです。印刷やラベルと違いレーザーで彫り込みをしているので、ハンドリング中にコードが消えたり剥がれたりするリスクが極めて低く、チューブ内のサンプルとそれに付随する情報が確実に紐づけされ、かつ継続的にトラッキングする仕組みを構築することが可能になります。
何故この2Dチューブがラボの「セキュリティ」対策に効果的なのか?
バーコード(1次元コード)と同じく2Dコードも、識別が“一意”である点と、サンプルに関わる情報を直接チューブに表記せず、コードに情報を紐づけする形で管理するため、第三者(部外者だけでなく、実験、研究や検査に関係のないスタッフ)は、チューブのコードを読み取るだけでは、情報が得られないからです。つまり、読み間違いがなく、然るべきスタッフでなければサンプル情報にアクセスできない仕組みを構築できます。例えば、ヒト生体試料を扱うラボでは、試料の患者さんや提供者の方の個人を特定することはありませんが、仮名加工化、匿名化した識別子を更に2Dコードに紐づけするので、個人を特定できうる情報や特定の情報から完全に切り離すことが可能になり、「セキュリティ」のレベルを上げられます。
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まとめ
放射能汚染物質やバイオハザード物質の流出はスタッフや周辺の環境だけでなく公衆衛生上極めて大きな脅威になる場合もあり、また生体試料の個人情報流出はラボの信用を失墜させ活動に影響を与えるだけでなく、社会的に大きな問題に発展する可能性があります。その様に考えると「セーフティ」も「セキュリティ」もラボの責任者やマネージメント層だけが担うものではなく、スタッフ一人一人が正しく理解し、日々の活動に取り組む必要があり、また大きな責務でもあると言えます。
当社製品やサービスが皆様のラボのさまざまな安全対策のお役に立てることを願っております。
「セキュリティ」は解除されることがあっても「セーフティ」が解除されることはありません!
~ラボの安全シリーズ~
・ラボの安全管理・安全対策シリーズ1「ラボ安全管理・安全対策の概略」
・ラボの安全管理・安全対策シリーズ2「化学物質規制」対策について
・ラボの安全管理・安全対策シリーズ3「バイオセーフティとバイオセキュリティの違い」
・ラボの安全管理・安全対策シリーズ4「ラボの機器、機材の安全管理」
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。