▼もくじ
1.お客様:東洋合成工業株式会社 感光材事業部 感光材研究開発部
半導体製造に欠かせないフォトレジストに用いられる感光性材料やポリマーなどのレジスト材料に関する研究開発を行われている東洋合成工業株式会社 感光材事業部 感光材研究開発部様にインタビューさせていただきました。
レジスト材料のデザインルールがどんどん微細化してきている昨今、材料の品質向上が今まで以上に求められています。日々の研究開発の中での弊社分析機器の使用感やこぼれ話などお話をうかがいました。
2.お仕事の背景:求められる、レジスト材料の品質向上と迅速な開発スピード
―― お仕事の背景について教えてください。
東洋合成工業様(以下「東洋合成」敬称略):弊社では、半導体製造に欠かせないフォトレジストに用いられる感光性材料やポリマーなどのレジスト材料に関する研究開発を行っています。
―― フォトリソグラフィはデザインルールがどんどん微細化してきていると聞きますが、それに伴ってレジスト材料にはどういったことが求められているのでしょうか?
東洋合成: 近年はリソグラフィの微細化がどんどん進むに従って、レジスト材料の品質向上とともに迅速な開発スピードが求められています。
3.ニーズと解決策:不純物管理の課題とLC-CADとの出会い
―― 御社の経営理念である「人類文明の成長を支えるため、人財・創造性・科学技術を核として、事業を行い、その寄与度を高めるために成長する」、また、Webトップページにある「独創的な視点で世界へ」というメッセージが印象的です。開発や技術力をドライバーとして社会に貢献される御社が、弊社の装置を導入される前にどのような課題やニーズをお持ちだったのでしょうか?
東洋合成: 導入する前は、UV吸収のない化合物の定量は主にNMR分析に頼らざるを得ない状況でした。レジストの微細化が進むにつれて化合物も複雑になってきますので、NMRですと化合物のスペクトルが被ってしまって微量な不純物ピークを追うのが難しいという問題がありました。そのため、化合物と不純物をしっかりと分離し、成分を個別に検出したいというニーズがありました。従来技術としては既存のガスクロマトグラフィー(GC)を使うという選択肢もあるのですが、GCの場合、熱に不安定な成分の取り扱いは難しいですし、さらに、対象化合物が複雑になり、分子量が大きくなっていきますと、当然揮発性が低くなってきます。結果、GCで検出するのが難しくなるという問題もありました。
―― そのような問題について、弊社製品が解決策になるかもしれないと思われたきっかけはどういったものだったのでしょうか?
東洋合成: きっかけは分析展でした。当時のメンバーが、液体クロマトグラフィー(LC)の検出器としてUV吸収がなくても不揮発性であれば検出できる検出器があることを分析展(JASIS)で知り、持ち帰ってきたのです。
―― 荷電化粒子検出器(CAD)のことですね。どのような報告があったのでしょうか?
東洋合成: 化合物の構造に寄らずユニバーサルな検出が可能なので、レジスト材料中に含まれるUV吸収のない化合物の分析に使えるのではないかと。さらにCADの前段にはLCが付きますので、化合物と不純物をLC分離でき、さらに開発品の管理レベルを上げることが可能になるのではないかという話でした。UV吸収のない微量な成分の管理ができるという点と、LCで極性範囲が広い既存のレジスト材料の分離ができるという点は魅力的でした。
4.選択の理由:LC延長線上にある扱いやすさを備えたCAD
―― UV吸収のない化合物や、非常に複雑になる化合物の微量な不純物管理を行いたいという御社の課題やニーズに対して、LCとCADの組み合わせが非常にマッチしていたということになりますが、しかしそれだけでは導入には至らないと思います。どうして弊社の製品が選ばれたのでしょうか?
東洋合成: LC-UVや差屈折率検出器(RI検出器)とCADを並べて、たとえば脂肪族系化合物を定量分析した際の検出感度ですね。そのあたりの差は一目瞭然だと思います。そこにプラスして質量分析計(MS)と差別化できる部分ですね。
―― 質量分析ですか?
東洋合成: やはり検出感度でいうとMSの方が高いのですが、CADの優位性を示すことができたので、導入計画をスムーズに進めることができました。 MSに比べると扱いやすさは遥かによくて、そこがCADの最大のメリットですね。LCの延長線上で考えられるので、いままでLCを使っていた人が導入してもすぐ対応できるというのも大きいですね。特に品質管理などの面からも、定量下限等を調べるのもやりやすいですし、そういった面でも重宝しています。
―― 御社の業務上、どういったところがMSの利便性を感じる部分になりますか?
東洋合成: m/zが分かりますので化合物の定性という面ではMSは非常に効果的ですね。ただ場合によっては感度が高すぎて、サンプル前処理や使用溶媒に気を遣う必要があると思います。そういった面で維持費もかかります。また、CADは既存の溶媒やサンプル調製方法でそのまま測定できるというのが大きなメリットだと思います。もちろんMSはMSで、なくてはならないものではありますが。
―― 移動相の選択はMSの方が気を遣うというお話ですが、実際CADもMSと同じような移動相をお使いいただくよう私どもメーカーは推奨しています。運用上、実際御社ではMSとCADを使われる際に移動相についてはどのようにされているのでしょうか?
東洋合成: MSの場合、使用している溶媒もMSグレードの高価な物を使いますし調製後一定期間経過したらすべて再調製をしています。もちろんCADについても溶離液を長時間放置するのは好ましくありませんが、MSに比べるとそれほどシビアにならなくても測定には支障ない印象を持っています。
―― 他に弊社製品の御導入を決めていただいた「決め手」は他にありましたか?
東洋合成: 導入する決め手というのはやっぱりMSよりリーズナブルなところですね。
―― 近年ではシングル四重極も汎用機器レベルにまで進んできていると思うのですが、そういった部分では如何でしょうか?
東洋合成: やっぱり使いやすさという面ではCADですね。当社は、反応工程確認でサンプルをそのまま測定することも多々あるのですが、シングル四重極に限らずMSとなると、反応液をそのまま測定するのは汚染の問題もあって、ちょっと難しいですよね。前処理をするという選択肢もありますが、前処理によるロスや回収率を考えると見落としをする可能性がありますし、手間にもなります。それに比べると、CADは前処理なしでサンプルを測定できますので、検出器としてのアクセスのしやすさがありますし、無理が効く印象がありますね。
―― 実際使っていただいていてCADに「汚れにくさ」や「堅牢性」を感じることはありますか?
東洋合成: あると思います。あと、何か起きた時のランニングコストですかね。それをトータルして年間かかる費用なども考えればやっぱりCADの方がリーズナブルかなと思います。
―― 検出器の機構からすると、蒸発光散乱検出器(ELSD)などもUV吸収のない化合物も検出できるうえに、同様の使い方が出来ると思うのですが、そちらはお考えにならなかったのでしょうか?
東洋合成: 検出レベルはどうですか?
―― そうですね。検出感度自体は10倍ぐらい違うので、あと重量応答性というところからするとやはりCADの方が勝っていますね。
東洋合成: そうですよね。その言葉自体を信じて考えてなかったですね。
RIも検討しましたが、装置安定化までの時間がかかるので、当社のワークフローからすると選択肢から外れましたね。
―― 先ほどお話にも出ましたけれども、素材がどんどん複雑化していくなかで微量な不純物を分けようとしたときにイソクラティック分析が基本となるRIで分離というのは限界がありますよね。
東洋合成: すべてMSで分析する必要があるかといえば、そこまでの検出感度が必要ないケースもあります。例えば反応をモニタリングしているケースですけど、反応工程のモニタリングではMSを使う必要はないんですよね。検出感度でいえば次はUVですが、UV吸収がないとなると、やはりRIという選択になります。ただRIは今おっしゃったような分離の問題があるため、最後はELSDかCADという話になりますけど、そうなると感度や重量応答性において優位性があるCADを選びますよね。
MSまでの検出・定性レベルを求めないケースでは、そのアクセスのし難さがネックになります。そういう部分でCADがちょうどマッチしていて、痒い所に手が届いた印象です。
―― ありがとうございます。そうすると今あるテクノロジーを比べた中ではやはり弊社のCADが最も御社のニーズに合っていたということになるのでしょうか?
東洋合成: そうですね。やっぱり測定対象によってはMSでうまく検出できないことも多くて。その場合、CADは楽ですよね。
―― 使いやすさやアクセスのしやすさという面でも、ご評価いただいているということですね。ありがとうございます。
5.導入の効果:今まで検出できなかったものもしっかり検出
―― ここからは、導入されてからのお話、導入の効果をお伺いしていきたいと思います。
実際に、弊社の装置をどのように活用されていらっしゃるのでしょうか?研究開発部においてどのような用途で役立てていただいているのかお聞かせください。
東洋合成:先述したように益々品質管理強化が望まれるため、UV吸収のないものを管理できるCADは非常に役に立っています。御社の装置があることで検証スピードも上がっていると思います。
―― 不純物の含量が品質管理に重要なのですね。
東洋合成: 例えば、今までNMRで見ていたものをクロマトレベルで管理できるようになったので、不純物の管理強化につながっていますね。
―― 御社ではご導入頂いたCADを、不純物の管理強化につなげていらっしゃるということですね。実際導入前の運用イメージと比べていかがですか?
東洋合成: 想像通りに、ほとんどの成分が測定できていますね。
―― 弊社ではお客様に、「CADはUV吸収がなくても不揮発性であれば検出できますよ」と大まかな説明をさせて頂くのですが、御社のお仕事ではそういった化合物が多いのでしょうか?
東洋合成: はい。アミンや酸なども、ある一定の検出レベルでCADだと検出できるので助かっています。GCで測定しようとすると、カラム含めて色々と条件を設定する必要があるので、そこはかなりの強みだと思いますね。極性の順番でちゃんと検出ができるのがありがたいです。今までのUV検出器だと検出できないものも多くありましたが、CADだとその中の多くを見ることが出来るので非常に助かっています。
―― そういって頂けるのはとてもうれしいです。ありがとうございます。逆にCADを導入してみて何かイメージと違ったところはありましたか?
東洋合成: UVとCADは同じサンプルでデータを取るので、先ほど揮発性成分の話が出ましたけど、それがどれぐらいの沸点を持ったものかというのも想像しやすくなっています。UVでは検出されているがCADには出ていないピークがあれば揮発性が高いとある程度当たりをつけられる。そういった情報が得られることも特徴だと思います。
―― 大まかな目安ではあるけれども、そこを確認、ないしは想像・当たりがつけられるというのは面白いですね。
6.装置サポート:クイックレスポンスのアフターフォロー
―― 次は、弊社のお客様サポートについて、忌憚ないご意見を頂きたいと思います。日本国内には、大手国内メーカーさんも、国外メーカーさんも、いらっしゃいますが、他社様と比べた時に弊社のサポート体制はいかがでしょうか。
東洋合成: すぐ対応してくれますので、特に不満など無く、とても満足しています。 サーモさんもそうですし、間に入っている代理店さん、どちらかが必ずすぐに対応してくれますので助か
っています。何かを問合せして「ちょっとお待ちください」と、数日間寝かされたことは一切ないと思います。
―― もしかするとですが、すごくしっかりと使っていただいているので、トラブルもあまりないのではないでしょうか?
東洋合成: ちょこちょことは、起きています。電流値がちょっと上がって。それも直接やりとりさせていただいて、対策を聞いたりしてやっています。
7.今後のご要望:低沸点化合物の検出
―― 弊社を含め、装置メーカーに対してご要望があればお聞かせいただけないでしょうか。
東洋合成: 難しいと思いますけど、化合物の沸点によって条件を変えられるような機能というか、「このメソッドだと低沸点まで見えますよ」みたいなものがCADに備わってくれるとうれしいですね。もうちょっと低い沸点まで検出できたらいいなと思います。感度や溶剤に依らず、低沸点化合物も検出することができるようになると、今測定出来ていないような微妙な沸点のものも検出できるので助かりますね。あとはMSのレベルで測定しないといけないかなというものも出てきているので、もう一桁、定量下限が下がってきたら、もっと長く使えるかなという気はします。そうすれば、CAD自体の裾野が広がるのではないかと思います。
―― もう少し広い化合物、具体的には低沸点の成分も検出できて、さらに感度向上が達成されれば、御社のお仕事により長期間貢献できるということですね。本日はありがとうございました。
8.今回のお客様
東洋合成工業株式会社様
独創的な研究開発から生まれた世界唯一の技術。フォトレジスト用感光材分野で世界トップクラスのシェア。全世界26カ国への直接輸出で海外売上高比率約35%の実績。東洋合成工業株式会社様は60年以上にわたって世界の最先端テクノロジーを支えていらっしゃる、まさに研究開発型グローバルカンパニーです。
9.編集後記
『高純度な生成技術で世界に貢献』を掲げていらっしゃる東洋合成工業株式会社様の品質向上や製品開発に対する熱意を感じるインタビューとなりました。また、さまざまなお客様にもLC-CADを試して欲しいとおっしゃって頂きました。こういったお客様の言葉はうれしいものですね。より多くのお客様のニーズや課題に寄り添えるメーカーでありたいと改めて思える機会を頂けたことに感謝いたします。ありがとうございました。(田口)
10.関連情報
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。