今回は機器間の誤差についてご案内します。同一機器で同一サンプルを測定したとしても、得られる吸光度の結果が機器ごとに異なることがあります。そこで今回は、なぜ、同じNanoDrop微量分光光度計を使用しても、同じサンプルの吸光度の測定結果が異なる場合があるか、について考察します。
▼こんな方におすすめです!
・吸光度測定を実施されている方
・微量分光光度計をご利用・ご検討の方
Webサイト(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)にある動画資料も併せてご参照ください。
3台のNanoDrop Lite微量分光光度計で同一dsDNAサンプルの測定
今回はNanoDrop Lite微量分光光度計を3台用いて、同一のdsDNAサンプルの測定を行いました。
サンプルは1 µLを使用して10回測定を行い、260 nm吸光度の平均値およびSDを算出しました。測定結果を図1に示します。
同一サンプルを用いたにもかかわらず3台の機器は異なる吸光度を示しました。
この要因を検討するためにNanoDrop Lite微量分光光度計のキャリブレーション試薬であるCF-1(製品番号:CHEM-CF-1)を用いて機器が性能内で機能しているかどうかを検討しました。今回用いたCF-1キャリブレーション試薬のTarget Absorbanceは「1.0500」と規定されており、各個体での測定吸光度および、Target Absorbanceからの%error値を図2に示します。
(%Error値 = {(Target Absorbance – Average Absorbance)-Target Absorbance}×100)
CF-1キャリブレーション試薬による検証の結果、Target Absorbanceに対して基準値より低い吸光度を示したのはNo1、2でしたが、No3は基準値より高い吸光度を示しました。
また、No2、No3は検証をPASSしたことからパフォーマンス内で正常に機能する機器であった一方、No1はConditional Passを示したため、機器の性能がやや低下していることが確認されました。
機器間誤差情報による吸光度補正
CF-1キャリブレーション試薬による検証で得られた機器固有の差である%Error値を用いて、得られたサンプル吸光度を修正してみました(図3)。
機器固有の個体差情報をもとにオリジナル吸光度データを修正した結果、オリジナルのデータでは、No2とNo3の吸光度は有意な差異を認めたにもかかわらず、キャリブレーションチェックをPASSしたNo2とNo3で修正吸光度は有意な差異を認めませんでした。
有意差検定はオリジナルデータの3台間、修正後データの3台間でそれぞれチューキークレーマー検定にて実施しました。
検定結果は以下になります。
- オリジナルデータ:
No1-No2 : p < 0.0001/No2-No3 : p < 0.0001/No1-No3 : p < 0.0001 - 修正データ:
No1-No2 : p =0.06/No2-No3 : p = 0.1/No1-No3 : p < 0.0001
以上の結果より、機器間差情報はCF-1キャリブレーション試薬を用いて確認でき、この機器間差情報(%Error値)ともとにオリジナルの吸光度を修正することで、同一サンプル測定での機器間の測定差を修正できました。ただ、機器のパフォーマンスが低下していることが懸念された機器では機器間差情報を用いた修正では対応できない可能性が高いことも示唆されました。機器がパフォーマンス内で正常に機能しているか、および機器の誤差を確認するためにも定期的な機器パフォーマンスの確認は重要な検証となると考えます。
まとめ
今回は機器間の差について、光路長0.5 mmの固定タイプのシンプルな微量分光光度計であるNanoDrop Liteを用いて考察を行いました。同一サンプルを複数のNanoDrop機器で測定した場合、機器ごとに測定値が異なることがあり、この要因は機器固有の個体差に起因しての影響と示唆されます。この情報をもとに得られた吸光度を修正することで、より精度の高い測定データの収集が可能です。ただ、吸光度の測定は測定する環境(温湿度や明度)・サンプル特性などさまざまな要因によっても左右される可能性があります。以上のことから異なる機器間でサンプル吸光度を比較する場合、機器固有の個体差があることを理解したうえで測定・比較検証を行う必要があると考えます。
このシリーズではThermo Scientific™ NanoDrop™微量分光光度計による吸光度測定に関わる情報やTipsをご案内していく予定です。以下リンクより「NanoDrop」に関連するブログ記事をご覧いただけます。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/tag/nanodrop/
NanoDrop One / OneC微量分光光度計について新しく動画マニュアルをご用意しました。
Webサイト(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)にある動画資料も併せてご参照ください。
またNanoDrop微量分光光度計シリーズにご興味のユーザーさまは以下リンクよりデモのご依頼も可能ですのでご活用いただければと思います。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。