NanoDropを用いた核酸サンプルの吸光度測定により、得られる吸光度情報から核酸濃度や夾雑物の有無を確認できます。しかしどのような核酸サンプルなら測定することが可能なのでしょうか? 分子生物学実験ではさまざまな核酸サンプルを取り扱います。今回、分子生物学実験においてさまざまな用途で用いられるPCR産物について、吸光度測定が可能かを確認します。
▼こんな方におすすめです!
- 吸光度測定を実施されている方
- 超微量分光光度計をご利用・ご検討の方
PCR産物の吸光度測定
今回検証に用いるPCR産物は、Plasmid DNAを鋳型としてPlasmid DNA内の一部配列を以下のプロトコルに従って増幅しました。
試薬 | 添加量(μL) |
Plasmid DNA 1 ng / μL | 1 |
2 × Platinum SuperFi PCR Master Mix | 25 |
10 μM フォワードプライマー | 2.5 |
10 μM リバースプライマー | 2.5 |
Nuclease Free Water | 10 |
Total 反応液 | 50 |
得られたPCR産物の吸光度を測定したところ、吸光度のスペクトル情報は核酸サンプルを測定した吸光スペクトル(260 nmに極大の吸収を有する)と酷似した結果となります。つまりPCR産物の吸光度測定ができているということになるのでしょうか?
PCR反応液に含まれるさまざまな夾雑物
PCR産物の吸光度測定から得られるスペクトルは、一見PCRで増幅された核酸が測定されているように確認されます。この情報をもとに実験を行っても問題ないでしょうか?
結論から申しますとPCR産物の吸光度測定は正しくPCR産物を測定できているとは限りません。理由としまして、PCR反応液は鋳型に用いたPlasmid DNA以外にもさまざまな“核酸“が含まれています。それを示すために、Plasmid DNAを添加せずにPCR反応を実施したPlasmid DNA freeのPCR産物の吸光度測定を行いました(図3)。
いかがでしょうか?Plasmid DNAを鋳型としないPCR産物でも、核酸サンプルを測定した場合と酷似する吸光スペクトルを示します。この要因はPCR反応液に含まれる「プライマー」と「dNTP mix」によるものです。
つまり、PCR反応に用いるプライマーもdNTP mixも「核酸」であるため260 nmに吸光度を有します。以下はプライマーとdNTP mixの吸光度スペクトルになります。
PCR反応液にはこのように核酸の吸収波長である260 nmに吸収を有する「核酸」が含まれています。つまり、PCR産物の吸光度を測定した場合、これらPCR反応液に含まれる「核酸」、さらには鋳型として用いたPlasmid DNAが含まれることから、PCR産物の吸光度を測定することはできません。
ではPlasmid DNAを添加しないPCR産物の吸光度スペクトルと比較して測定すれば差分からPCR産物の吸光度を測定できるでしょうか?
結果を図6に示します。Plasmid DNAを含まないPCR産物とPlasmid DNAを鋳型にしたPCR産物の吸光度スペクトルを比較した結果、Plasmid DNAを含まないPCR産物の方がPlasmid DNAを鋳型にしたPCR産物よりも260 nmの吸光度は高い値を示しました。これは、おそらく反応液に含まれるPCRマスターミックス、プライマーの添加量がわずかにサンプル間で異なることでこのような結果となったと示唆されます。
つまりPlasmid DNAを含まないPCR産物を比較対象としてPCR産物の吸光度を求めようとする場合、非常に正確なピペット操作が求められ、かつ同等量が含まれるかどうかを確認することは難しく、以上のことからこのような方法でのPCR産物の吸光度測定は現実的ではないと考えます。
ではPCR産物の吸光度情報が必要な場合どのようにすればいいでしょうか?
PCR産物の精製はPCR増幅産物の測定に有効か?
プライマーは20 bp程度の長さからなる核酸、dNTP mixはモノヌクレオチドであり、PCR産物の精製でこれら夾雑物を除くことが可能です。ここでは、Invitorogen™ PureLink™ PCR Purification Kit(製品番号:K310001)を用いてPCR産物の精製を実施し、再度、吸光度を測定しました。
精製されたPlasmid DNAを鋳型にしたPCR産物を測定した結果、得られる260 nmの吸光度は低いですがPCR増幅された「核酸」を吸光度スペクトルからはある程度判断できることが示されました。
今回の場合、50 μL反応産物の濃度が2.2 ng/μLであり、おおよそ100 ngのPCR産物が増幅されたことが推測されます。従って、PCR産物の濃度測定が必要な場合、PCR産物の精製を実施してから吸光度を測定することが必要になります。
理論上は、PCR産物中のプライマーなどの「核酸」を除くことで増幅された核酸を確認できると考えます。PCR反応の増幅はあくまでもコピー数(分子濃度)の増幅であり、サンプル濃度の増幅ではありません。よって精製後の溶媒量によっては260 nmの吸光度が低いことがあり、吸光度の信頼測定域の関係上、正確な吸光度測定は困難な場合もあります。さらにはPCR反応用の鋳型に使ったPlasmid DNAはPCR産物の精製後も除去されません。以上のことからPCR産物を精製してもPCR産物のみの吸光度は測定できず、あくまでも鋳型に使用したPlasmid DNAを含む推測値となる点、注意が必要になります。
精製を行うことなく、PCR産物の濃度を測定する方法として、一般的には濃度既知のDNAサイズマーカーとPCR産物を一緒に泳動することで得られる泳動像から、デンシトメーターを用いておおよそのPCR産物の重量を予測することも可能です。
まとめ
今回は、PCR産物の吸光度測定についてご紹介しました。実際にPCR産物という「核酸」であっても反応液中にさまざまな核酸夾雑物が存在することで、そのままではPCR産物の吸光度を測定できないことがお分かりいただけたかと思います。
このシリーズではNanoDrop微量分光光度計による吸光度測定に関わる情報やTipsをご案内していく予定です。以下リンクより「NanoDrop」に関連するブログ記事をご覧いただけます。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/tag/nanodrop/
NanoDropご利用のお客様へ
Webサイトのリソースページ(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)には、How-to動画などNanoDrop One / OneCに関する様々なお役立ちコンテンツを掲載しています。
併せてご参照ください。
またNanoDrop微量分光光度計シリーズにご興味のユーザーさまは以下リンクよりデモのご依頼も可能ですのでご活用いただければと思います。
連載NanoDrop道場
第1回 吸光度測定による夾雑物の影響を考えよう!
第2回 いろいろな核酸サンプルの吸光度を測定しよう!~PCR産物~
第3回 いろいろな核酸サンプルの吸光度を測定しよう!~cDNA産物~
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。