エタノール沈殿は分子生物学実験の中で行う手法の1つです。この手法はDNAを精製したり、濃縮する際に用いたりします。そこで、今回はエタノール沈殿でDNA量によって回収率にどのくらいの違いがあるのかを検証してみました。
エタノール沈殿の原理
エタノール沈殿は「エタ沈」と略されて呼ばれることもありますが、その原理について簡単に説明します。DNAやRNAのような核酸は塩基・糖・リン酸からなるヌクレオチドのポリマーであり、糖やリン酸部分はエタノールに溶けにくいものです。その性質を利用して、塩(一価の陽イオン)を加えることでリン酸基の負電荷が中和され、エタノール中で核酸分子が凝集して沈殿します。その沈殿物を遠心分離によって回収する方法がエタノール沈殿です。
材料と方法
実験にはThermo Scientific™ Jurkat Genomic DNA(製品番号: SD1111)を使用しました。また、エタノール沈殿にはさまざまな操作条件がありますが、以下の条件に統一して検証しました。
- Jurkat Genomic DNA 20 ng、100 ng、200 ng、1000 ng、2000 ngがLow EDTA TE Buffer(pH8.0) 100 μL中に溶解している状態に調製(テクニカルレプリケートはn=2)
- 3M 酢酸ナトリウム(pH5.2) 10 μL(1/10量)を添加して混合
- エタノール 250 μL(2.5倍量)を添加
- 転倒混和を10回行って均一に混合
- -20 ℃で30分間静置
- 室温で13,000 ×g、15分間遠心
- マイクロピペットを使って上清を廃棄
- 70%エタノール 500 μLを添加してリンス
- 室温で13,000 ×g、10分間遠心
- マイクロピペットを使って上清を廃棄
- キャップを開けた状態で実験台上に5分間静置して、沈殿物を乾燥(風乾)
- Low EDTA TE Buffer(pH8.0)50 μLを添加し、ピペッティングを20回行って沈殿物を懸濁
- Invitrogen™ Qubit™ 4 FluorometerとInvitrogen™ Qubit™ 1X dsDNA High Sensitivity Assay Kitを使って、濃度測定して回収率を計算

図1. エタノール沈殿操作の概要
結果と考察
各DNA量における回収率は以下の通りです(折れ線はn=2の平均値を示します)。

図2. DNA量による回収率の比較
各DNA量の回収率と平均値は以下の通りです。
Input DNA (ng) |
回収率 (%) | ||
Sample-1 | Sample-2 | 平均値 | |
20 | 31.6 | 33.0 | 32.3 |
100 | 57.0 | 56.0 | 56.5 |
200 | 74.3 | 75.0 | 74.6 |
1000 | 77.9 | 78.4 | 78.2 |
2000 | 85.0 | 82.8 | 83.9 |
遠心後のチューブ内の状況は、DNA量が2000 ngでは白っぽい沈殿物が目視できました。また、1000 ngでは目視できませんでしたが、沈殿物が存在していると思われるチューブの壁に添加したLow EDTA TE Bufferがベタっとまとわりついて、沈殿物が存在しているような雰囲気を確認できました。それ以外のDNA量では、沈殿物が存在しているような雰囲気は確認できませんでした。
エタノール沈殿によるDNAの回収率は一般的には80%~90%と言われていて、DNA量が多ければ多いほど回収率は良くなります。今回検証した条件では、1000 ngや2000 ngのDNA量では80%前後の回収率が得られており、プラトーに近い状態に達していると思われました。また、少ないDNA量では回収率は下がり、100 ng、20 ngのような量では、それぞれ55%、30%程度の回収率でした。
まとめ
エタノール沈殿でDNAの精製や濃縮を行う際には、DNA量が多い場合は一般的に言われている回収率でしたので、操作条件をそれほど気にする必要はないかもしれません。しかし、少量しかないDNAを精製・濃縮したい場合は、回収率をできるだけ上げて処理したいと考えると思います 。そのため、今後は少量のDNAに対して回収率を上げる条件検討を行う予定です。
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