アガロースゲル電気泳動は、DNAなどの核酸を分離するために広く使われている方法です。皆さまの中にも、日常的にアガロースゲルを自作されている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。普段何気なく作っているアガロースゲルですが、アガロースの粉が溶け残ったゲルで電気泳動するとどうなるか、試してみました。
ゲルの作成
1×TAEバッファーに、2%濃度になるように秤量したアガロース粉末を加え、電子レンジで加熱して溶解しました。繰り返し加熱して完全に溶解させたものと、十分に加熱せずアガロースの粉が残ったままのものを準備しました。
加熱したアガロースゲル溶液がやや冷めたら、それぞれにInvitrogen™ SYBR™ Safe DNA Gel Stainを1/10,000量加える先染め法で実施しました。ゲル作成装置にアガロース溶液を流し込み、1時間ほど室温で放置して凝固させました(図1)。粉を溶かしきらなかったゲルは、凝固後もざらつきが見られました(図1右)。

図1 作成したゲルの様子
左:アガロースを完全溶解したゲル、右:加熱が不十分でアガロースの粉が残ったゲル
結果
1時間室温で放置した後、それぞれのゲルを使用して同じ条件で電気泳動しました。泳動の様子を確認するDNAとしてサイズマーカー(Invitrogen™ 1 Kb Plus DNA Ladder)とPCR産物(856 bp)を泳動した結果がこちらです(図2)。

図2 泳動の結果
左:アガロースを完全溶解したゲル、右:加熱が不十分でアガロースの粉が残ったゲル
どちらのゲルも両端のサイズマーカーを流し間にPCR産物を泳動。
完全にアガロースを溶かしたゲルでは、各バンドがシャープに分離されています。一方で粉が溶け残ったゲルでは、各バンドが分離されてはいるものの、ところどころバンドが線を引くように乱れているのが見て取れます。これは、アガロースの粉が溶け残った部分では網目構造が形成されず、不均一なゲルになっていることが原因であると予想されます。その結果、DNAの分離が乱れ、今回のように引きずったような形のバンドとなってしまったと考えられました。以前のブログ記事(アガロースゲルを凍結保存してからDNAを電気泳動してみた)では、ゲルを凍結・解凍させた際に脱水されて空洞が残り、ゲルの網目構造が不均一になってしまったことでバンドが可視化できないほどに泳動が乱れました。このことからも、DNAをサイズごとにきれいに分離するためには、均一な網目構造のゲルを用意することが重要であることが分かります。
まとめ
アガロースの粉をしっかりと溶かさずにゲルを作ると、バンドが乱れることが分かりました。予想通りの結果ではありましたが、慌てているとうっかりやってしまいがちなポイントでもあります。電気泳動のやり直しを避けるために、アガロースの粉は丁寧に溶かすことを私も肝に銘じます。
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