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Accelerating ScienceLearning at the Bench / 分子生物学実験関連 / 【やってみた】冷蔵庫と恒温器の中でアガロースゲル電気泳動して温度の影響を考えてみた

【やってみた】冷蔵庫と恒温器の中でアガロースゲル電気泳動して温度の影響を考えてみた

Written by LatB Staff | Published: 04.24.2025

アガロースゲル電気泳動は、DNAをサイズごとに簡便に分離する手法で、精製した核酸やPCR産物の確認などに利用されています。過去の【やってみた】実験では、ゲルの厚さや染色方法(先染め・後染め)の違い、アガロースの代わりに寒天を使うなどして、アガロースゲル電気泳動の注意点をご紹介しました。今回はアガロースゲル電気泳動で失敗しないために、泳動時の温度について考えてみたいと思います。

▼もくじ

  • 温度の違いによるDNA移動度への影響
  • 連続して泳動するとどうなるか?
  • まとめ
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温度の違いによるDNA移動度への影響

今回の実験には、電気泳動のサンプルとしてPCR産物(856 bp)とInvitrogen™ 1 Kb Plus DNA Ladderを使用しました。ゲルはInvitrogen™ UltraPure™ Agaroseを1%で溶解して、Invitrogen™ SYBR™ Safe DNA Gel Stainを使用して先染法にて作成しました。泳動バッファーにはInvitrogen™ TAE (10X), RNase-freeを10倍希釈して使用し、100 Vの一定電圧で電気泳動しました。

まずは冷蔵庫と恒温器を使用した実験の概要です(図1)。
泳動槽には泳動バッファーをあらかじめ入れておき、冷蔵庫(4℃)と恒温器(37℃)に6時間ほど静置して泳動バッファーの温度を調整しました。その後、同じように作成したゲルを2枚用意して泳動槽に沈め、サンプルをアプライして20分間泳動しました。泳動バッファーの温度は、冷蔵庫の方は泳動前の6℃から泳動後には10℃に上昇していました。また、恒温器の方は泳動前の31℃から41℃にまで上昇しました。

図1. 冷蔵庫と恒温器での実験概要

図1. 冷蔵庫と恒温器での実験概要

それでは、電気泳動像を確認してみましょう(図2)。
冷蔵庫(4℃)も恒温器(37℃)も全く同じサンプルを泳動しましたが、DNAのバンドの移動度が大きく異なる結果となりました(図2上)。また、泳動後のゲルの写真ではLoading Bufferに含まれるトラッキング用色素だけが可視化されていますが、それらの移動度も温度によって大きく異なっていました(図2下)。つまり、冷蔵庫(4℃)のように温度が低いと移動度が小さく(ゆっくり流れる)、恒温器(37℃)のように温度が高いと移動度が大きい(早く流れる)結果となりました。この原因としては次のようなことが挙げられます。温度が上昇するとイオンの移動度も高まり電流値が増加します。一定電圧で泳動している時に電流値が上がると、オームの法則に基づいて抵抗値が下がるので、電気泳動の移動度が増加したと考えられました。

図2. 温度の違いによるバンド移動度への影響

図2. 温度の違いによるバンド移動度への影響

連続して泳動するとどうなるか?

次に、実際の実験でありそうなシチュエーションで実験してみました。
冷蔵庫と恒温器を使った実験から、低温だと泳動がゆっくりになり、高温だと泳動が速くなることがわかりました。しかし、わざわざ冷蔵庫や恒温器に入れて実験することは通常はないでしょう。では、どのような時に泳動温度の影響が出るのでしょうか。その1つの例として2回連続して泳動する状況で移動度を確認してみました。

2回の連続した泳動実験の概要です(図3)。
同じように作成したゲルを2枚用意しておき、そのうちの1枚を使用して1回目の電気泳動を実施しました。今回は室温(23℃)にて実験を進めました。泳動前のバッファーの温度は23℃でしたが、1回目の電気泳動後には31℃に上昇していました。続いて、同じ泳動槽にてバッファーを交換することなく、続けざまに2回目の泳動を実施しました。すると、泳動前のバッファーの温度は31℃でしたが、2回目の電気泳動後には35℃にまで上昇していました。泳動時間は1回目も2回目も30分で統一して実験しました。

図3. 連続した泳動実験の概要

図3. 連続した泳動実験の概要

それでは、2回連続して電気泳動した2つのゲルを確認してみましょう(図4)。
1回目でも2回目でも、電気泳動の前後で泳動バッファーの温度が上昇していました。皆様も泳動後にゲルを取り出す際、泳動バッファーがぬるくなっていることを感じたことはないでしょうか。冷蔵庫と恒温器の実験でも確認したように、泳動の温度が上昇すると移動度が増加します。そのため2回目の泳動では、1回目と比較するとさらに温度が上昇し、結果として早く流れたことがわかります(図4上)。同じ30分の泳動でも2回目の泳動ではトラッキング用色素がゲルの下まで到達していました(図4下)。もし、もう少し泳動時間を長くしていたら、トラッキング用色素だけでなく低分子のDNAもゲルから流れ出してしまい、泳動バッファーの藻屑となってしまった可能性も考えられました。

図4. 連続して泳動した時のバンド移動度の違い

図4. 連続して泳動した時のバンド移動度の違い

まとめ

今回の実験では、温度がアガロースゲル電気泳動のDNAバンドの移動度に与える影響について考えてみました。泳動槽にゲルをセットしてアプライしたら、泳動したまま20~30分ほど放置することもあるのではないでしょうか。しかし、いつも同じ泳動時間で安心していると、泳動バファーの温度の違いによって、時には早く流れすぎてしまうことがあります。また、泳動中にもバッファーの温度は上昇するので、連続して泳動する際には注意が必要です。せっかく用意して実験を進めてきたサンプルをゲルの外にまで流しきってしまわないためにも、トラッキング用色素の位置を確認しながら泳動時間を調整していただけると良いと思います。

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