プレディクティブゲノミクスは、疾患リスクの研究と薬物反応の理解により、結果の改善とコストの管理にヘルスケアリソースを集中させるための強力なツールです。ファーマコゲノミクス(PGx)の専門家であるUlrich Broeckel博士は、彼が率いるウィスコンシン医科大学の研究室からスピンオフしたRPRD(Right Patient Right Drug)ダイアグノティックス社を新たに立ち上げました。Broeckel博士は、ウィスコンシン医科大学の教授でもあり、ファーマコゲノミクス研究ネットワーク(PGRN)と臨床薬理遺伝学実装コンソーシアム(CPIC)で活動しています。サーモフィッシャーサイエンティフィックではUlrich Broeckel博士にファーマコゲノミクス研究における彼の仕事についてお話を伺いました。
▼こんな方におすすめです!
・ファーマコゲノミクス研究に興味がある方
・マイクロアレイを利用した多検体のPGx解析に興味がある方
▼もくじ
- ファーマコゲノミクスのビジョンについて教えてください。
- 過去10年間、いくつかの臨床研究病院と連携し、ファーマコゲノミクススクリーニングのさまざまなプロジェクトに携わってこられました。その経験を教えていただけますか?
- 薬物応答遺伝子や薬物の組み合わせと薬物応答遺伝子のリスクプロファイルを理解する研究のために、PGxスクリーニングを広く普及させる際の障害となるものは何だと思いますか?
- 新しく立ち上げられたファーマコゲノミクス企業について教えてください。
- RPRDダイアグノスティックスではどのようなサービスを提供していますか?
- PharmacoScan Solutionについて触れていただきました。 これまでの経験について教えてください。
- PharmacoScan Solutionは、このような種類の解析で使用される可能性のある他のツールとは何が違うのでしょうか?
ファーマコゲノミクスのビジョンについて教えてください。
Broeckel: 現在、薬剤と遺伝子の組み合わせやその他の遺伝的変異が、患者の薬剤に対する反応に影響を与えうることが続々とわかっています。CPICは、臨床医が利用可能な遺伝子検査結果をどのように活用して薬物療法を最適化すべきかを理解するために役立つガイドラインを発行しています。
CPICはこれまでに30種類以上の薬剤について具体的な遺伝子検査ガイドラインを発表しています。米国FDAは、200種類近くのFDA承認薬のうち、ファーマコゲノミクス情報が表示されている薬剤リストを公表しており、これら薬剤の多くには、患者固有のバイオマーカー情報に基づいて取るべき具体的な行動が記載されています。この中には、FDAのブラックボックス警告に該当する7つの薬剤が含まれています。(ブラックボックス警告:米国処方箋医薬品のリスクについてラベルに記載される警告文の1つで、最も強い警告。生命に関わる重篤な副作用を引き起こす可能性があるリスクを伴うことを示します。)
当初は、バイオマーカーが一つずつ発見され、検査が開発されました。保険償還はこの開発された検査に沿って行われ、個々のバイオマーカーの検査が対象となりました。しかし、患者によっては複数の検査を必要とする場合があり、それぞれの検査には数日かかるため、その分治療が遅れることになります。良い面としては、この1回の検査/1ターゲットのプロセスでは、管理しやすい量の情報を医師に提供できることが挙げられます。
私たちは今、重要な岐路に立っています。単一のアッセイですべての既知のPGxマーカーの研究を実行するために利用可能なツールを持っています。この包括的なスクリーニング研究の結果は、検体プロファイルに重要な情報を追加し、患者の電子カルテ(EHR)の一部となり、何十年にもわたり、医師の洞察に役立つ情報を提供することができます。これが、私たちが先制的薬理遺伝学スクリーニング研究と呼んでいるものであり、ビジョンです。
今日、薬理遺伝学の分野、特に精密医療研究に注目が集まっています。今後数年で、薬物受容体や薬物代謝に関与する遺伝子などのPGxターゲットの影響に関する情報がますます増え、その知識が本当の意味で臨床に影響を与えることができると信じています。
過去10年間、いくつかの臨床研究病院と連携し、ファーマコゲノミクススクリーニングのさまざまなプロジェクトに携わってこられました。その経験を教えていただけますか?
Broeckel: ウィスコンシン医科大学の私の研究室では、セント・ジュード小児研究病院と密接に協力しており、小児の臨床研究サンプルが病院で収集されたときに、先取りして遺伝子型を決定しています。これにより、PGx情報が前もって一度にすべて生成され、その後の遺伝子実験の結果を数日待つ必要がなくなるというシナリオが生まれます。この PGx 情報はその後、患者の医療記録の一部となり、患者を診る医師なら誰でもすぐに利用できるようになります。この情報は、患者が成人するまでその価値を維持します。これは、小児臨床研究サンプルの先制的薬理遺伝学的スクリーニングにおいて、最も長く続いている研究プロジェクトです。このプロジェクトは、医師が薬剤の選択や薬剤を組み合わせて処方する際に、臨床的な決定をサポートするための遺伝情報を容易に入手できるようにすることを目的としています。これまでのところ、大多数の患者において、このPGx情報が利用されていることが確認されています。先制的な薬理遺伝学的スクリーニングは、即時かつ持続可能な影響をもたらすことが明らかになっています。この研究プロジェクトで共同研究者が収集しているデータはユニークで、他の病院や医療機関からも関心を寄せられています。
何年もの間、私たちはApplied Biosystems™ DMET™プラスソリューションを薬理ゲノミクススクリーニング研究に使用してきました。ウィスコンシン医科大学の私たちの研究室では、この解析結果を臨床研究者に最初に提供しました。現在、この研究プロジェクトを、より多くのカバレッジを提供し、よりスケーラブルで費用対効果の高いプロジェクトに移行させることを計画しています。
薬物応答遺伝子や薬物の組み合わせと薬物応答遺伝子のリスクプロファイルを理解する研究のために、PGxスクリーニングを広く普及させる際の障害となるものは何だと思いますか?
Broeckel: 先ほど、診療報酬とより広範な検査の考え方へのシフトを促進する必要性について触れました。セント・ジュード小児研究病院のようなプロジェクトでは、バイオマーカーの解析結果と臨床的有用性が示されており、これを利用して、標準的な検査を1回の検査で1ターゲットの検査から、プロアクティブで先取り的な完全検査へとシフトさせることが可能であることを、医療費支払い側に伝えることができる可能性があるのです。しかしながら、データは障害も提示します。これらのPGxスクリーニングは大量のデータを生成するため、そのデータについて臨床医は意思決定が必要な時に正しく解釈することが難しいかもしれません。
PGxスクリーニングよって生成された大量の情報をどのように解釈し、医師が使える簡潔な形式でタイムリーに届けるかを改善する必要があります。医師は、”A剤を使うべきかB剤を使うべきか”、”この薬を完全に避けて他のものを使うべきか “と尋ねますが、遺伝子データを他の臨床パラメータと合わせて評価する必要があります。また医師に対して、先制的遺伝子型検査の価値を伝える必要があります。
新しく立ち上げられたファーマコゲノミクス企業について教えてください。
Broeckel: RPRDダイアグノスティックスは、私たちがウィスコンシン医科大学で行っていたファーマコゲノミクスの研究から生まれたもので、私たちの目標は、その研究をさらに発展させることで、RPRDダイアグノスティックスの使命は、医療機関や医薬品開発業務受託機関(CRO)、そして製薬会社が単一遺伝子検査に匹敵する価格で包括的なPGx分析を行えるようにすることです。
多くの医療機関は、薬剤選択の意思決定支援に使用するためにPGx情報を収集するというアイデアを熟考してきましたが、残念ながら、現在のPGx検査はコストが高く、まだルーチンの一部にはなっていません。
RPRDダイアグノスティックスでは、まず、私たちが豊富な経験を積み、副作用を回避することが最も重要である小児科センターにサービスを提供することに焦点を当てていきます。
さらに、薬理遺伝学的検査への投資は、小児患者を対象とした長期的な医療費の抑制が可能であり、投資の正当性をさらに高めることができます。また、製薬会社は、医薬品開発PGx情報を利用し、臨床研究コホートを層別化することにますます関心を寄せています。これにはRPRD ダイアグノスティックスが提供する広範なジェノタイピングの経験が必要です。臨床研究に関わる製薬企業やCROへのサービスも予定しており、臨床研究のラボとしての役割も担っていきたいと考えています。
RPRDダイアグノスティックスではどのようなサービスを提供していますか?
Broeckel: 会社は立ち上げたばかりですが、データ解析、コンサルテーション、電子医療記録の統合を含む、包括的でカスタマイズされた PGx 研究パネルと関連サービスの両方を提供しています。当社が現在提供しているのは、PharmacoScan ソリューションを使用した迅速なスクリーニング研究と、複雑なケースに対応するためIon Torrent™ 次世代シーケンサプラットフォームでの詳細な分析を行っています。
ジェノタイピングの結果が表現型と一致しないサンプルや、サンプルが異なる民族グループのものであるために不明瞭な場合があります。解決するためのアイデアは、幅広いPGxジェノタイピングから高度にターゲットを絞ったシーケンスまで、完全なパイプラインを持つことです。サーモフィッシャーサイエンティフィックが一連のテクノロジーを提供していることは素晴らしいです。 さらに、先制薬理遺伝学が将来的に進む道だと思いますが、1つの薬剤について1つの遺伝子を分析するという特定の臨床ニーズにも対応します。
PharmacoScan Solutionについて触れていただきました。 これまでの経験について教えてください。
Broeckel: サーモフィッシャー・サイエンティフィックとこのアレイプラットフォームで仕事ができることを非常に嬉しく思っており、製品のアーリーアクセスの段階から関わってきました。現在、私たちは600以上のサンプルを解析していますが、コンテンツとデータ解析ソフトウェアのコラボレーションに満足しています。アレイを評価するために珍しいタイプの遺伝子型を決定する挑戦的なサンプル解析に取り組むことができました。私たちの解析では、私たちがプロジェクトに参加している米国疾病対策予防センター(CDC)のサンプルが一部含まれています。このプロジェクトでは、現在、多数の異なるPGxプラットフォームでジェノタイピングされたDNAサンプルのリファレンスセットが確立されました。
薬理遺伝学研究分野へのサービスとして、私たちはこのデータを他のPharmacoScan Solutionユーザーのためのリファレンスセットとして利用できるようにします。他の協力者からも興味深いサンプルが送られてきており、現在ジェノタイピングを行っています。RPRDダイアグノスティックスは、PharmacoScan Solutionを利用した最初の企業となります。このアレイは解析される遺伝子のコンテンツと数、そして競争力のある価格設定という点で、本当に傑出していると思います。私たちは、アレイが生成するコンテンツと価格を考慮に入れて、臨床有用性試験のケース作成を開始する予定です。これらのアレイにさらにマーカーを追加することは、コストをかけずにかなり簡単にできるため、研究結果に応じて成長させることができるテクノロジーを使用することは理にかなっています。
PharmacoScan Solutionは、このような種類の解析で使用される可能性のある他のツールとは何が違うのでしょうか?
Broeckel: 1つ目の特徴は、アレイ上にあるプローブの数と、1回のラウンドで解析できる遺伝子の数です。アッセイの結果は非常に一貫性があり、コール率も高いです。このメリットは、スターアレルと呼ばれる異なるマーカーの組み合わせが必要となることが多いCYP遺伝子を調べる場合に特に重要です。同時に多数のバリアントをコールする必要があるため、ドロップアウトしてしまう可能性のあるツールでは結果に悪影響を及ぼしてしまうことがあります。また、CYP2D6を研究する上で非常に重要なコピー数の変異も調べていますが、PharmacoScan Solutionプラットフォームでも解析可能で、非常に稀な遺伝子変異に関する解析も行っています。
2つ目の特徴は価格で、これが製品全体の価値を高めています。
マイクロアレイを用いたファーマコゲノミクス研究の詳細はPharmacoScan ArrayのデータシートやPharmacogenomics Solutionのページ、集団医療や個別化医療の将来を担う予測ゲノミクスのページからご参照ください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。