はじめに
質量分析では、血清や血漿からの高含量タンパク質除去、リン酸化などの翻訳後修飾に対する選択的濃縮、イオン交換カラムによる分画などが行なわれますが、これらの前処理はサンプルの複雑さを軽減させることで、特に発現量の低いタンパク質の検出感度や同定数における改善を期待して行なわれます。今回は質量分析におけるタンパク質の分画・濃縮についてご紹介します。
タンパク質の抽出
質量分析でのタンパク質の抽出では、尿素やSDSなどによる一斉抽出が広く行なわれますが、抽出の段階で目的タンパク質を含む画分を濃縮することでタンパク質の同定結果における変化がみられることがあります。下記では抽出法の違いによるタンパク質の同定数における違いについてご紹介します。
分画抽出によるMS同定結果の改善
A549細胞ライセートの調製をM-PER Mammalian Protein Extraction ReagentまたはNE-PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagent Kitで行ない、各サンプルから同定されたタンパク質を細胞機能で分類したうえで同定数を比較しました。細胞質タンパク質と核タンパク質を抽出するM-PER抽出物に対して、細胞質タンパク質と核タンパク質を分画できるNE-PERでは、主に核内イベントに関与するタンパク質の同定数における改善がみられました。
MS解析における分画
安定同位体置換したアミノ酸で細胞培養時に代謝標識を行なうSILAC法では、おおくの培養細胞に適用できる分画キットが併用できるため、回収した細胞から分画したサンプルをSILAC解析している例もあります。例えば、水溶性のビオチン標識試薬Sulfo-NHS-SS-Biotinを用いて細胞表在タンパク質を選択的に標識して精製するキットPierce Cell Surface Protein Isolation Kitでは、膜タンパク質または膜会合タンパク質の発現変動解析における同定および相対定量における結果の改善が報告されています。
最後に
弊社では細胞局在や翻訳後修飾により培養細胞からタンパク質を分画するさまざまな製品をご用意しております。このような製品をSILAC法などとして使用することで、タンパク質の同定や相対定量における結果が改善される可能性もありますので、最後にご紹介させていただきます。
参考文献
- Protein Quantitation of p53-Regulated Proteins using Stable Isotope Labeling with Amino Acids in Cell Culture (SILAC)
- Quantitative Analysis of Surface Plasma Membrane Proteins of Primary and Metastatic Melanoma Cells. Journal of Proteome Research 2008, 7, 1904–1915
- Differential protein expression on the cell surface of colorectal cancer cells associated to tumor metastasis. Proteomics. 2010 Mar;10(5):940-52.
【無料ダウンロード】タンパク質解析ワークフローハンドブック
効率的なタンパク質抽出からウェスタンブロッティングの解析ツールまで、包括的にソリューションを紹介しております。PDFファイルのダウンロードをご希望の方は、下記ボタンよりお申込みください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。