透析とは、目には見えない小さな穴がたくさんあいた透析膜(半透膜)を用い、サンプル溶液内の小さな分子と大きな分子を分離する方法です。タンパク質サンプルのバッファー交換や脱塩などに使われます。原理や特徴についてはこちらのブログをご参照ください。
透析法のうち、従来よく利用されてきたのは、透析チューブを用いる方法です。サンプル液量に応じてチューブを用意し、両端を結んだりクリップで留めたりして、外液を入れたビーカー内に浮かせて透析します(図1)。

図1. 従来の透析チューブを用いた透析
しかし、透析チューブはぬれているとお互いに張り付きやすいため、チューブ内へサンプルをロードするときや回収するときのハンドリングが難しく、サンプルをロスしやすいという欠点があります。
大切なサンプルの場合、少しのロスでも防ぎたいですよね。そんな大切なサンプルにこそおすすめしたいのが、カセット型の透析膜です。
透析チューブと透析カセットの違い
透析カセットは、プラスチック製のフレームの両側面に透析膜があらかじめ溶着された、カセット型の製品です。

図2. 透析カセット Thermo Scientific™ Slide-A-Lyzer™ G3 Dialysis Cassettes
透析カセットと透析チューブの違いを表1にまとめました。
![]() チューブ |
vs. |
![]() カセット |
![]() ※写真はThermo Scientific™ SnakeSkin™ Dialysis Tubing |
形状 |
![]() ※写真は Slide-A-Lyzer G3 Dialysis Cassettes (以降Slide-A-Lyzer G3) |
透析チューブを手で持ってチューブ内へアプライ![]() |
サンプルアプライ 方法 |
ピペットやシリンジ※でアプライ ※透析カセットのタイプによります ![]() |
難しい | アプライ時の ハンドリング |
易しい |
ぬれた透析チューブはチューブ同士で張り付きやすく、また、手で持つと滑りやすいため、サンプルのロスを最小限にとどめられるよう、慎重に行う必要がある | サンプル アプライ時の 注意点 |
シリンジでアプライする場合は、透析膜を傷つけないように注意する |
サンプル量に応じて太さや長さを決める | サンプル量への 対応 |
ラインアップの中からサンプル容量に応じて製品を選ぶ |
比較的安価 | 価格 | 比較的高価 |
透析カセットの主な利点は、使いやすさとサンプルロスのしづらさです。透析カセットでは、カセット内にピペットなどでサンプルを入れ、空気を抜いてふたをした後はカセットごと透析バッファー(透析外液)に入れるだけです。透析チューブのようにハンドリングに難しい点はなく、どなたでも簡単に透析が実行できます。
Slide-A-Lyzer G3の使用の流れを図3に示しました。カセットは自立しますので、机上に置いてピペットでアプライができます。また、Slide-A-Lyzer G3は透析バッファー内で浮くため、「浮き」を用意する必要もありません。使用の流れをまとめた動画はこちらです。
一方、透析チューブの主な利点は、価格です。チューブの方が一般的に安価なため、たとえば普段は透析チューブを使用し、失敗したくない実験の場合や貴重なサンプルには透析カセットを使用するといったように、使い分けるとよいかも知れません。

図3. Slide-A-Lyzer G3使用方法の流れ
(上図は使用の流れを模式的に示したものですので、ご使用の際は必ずユーザーガイドをご確認ください)
透析製品の使い分け
Slide-A-Lyzer G3は、サーモフィッシャーサイエンティフィックの透析カセットの3世代目です。1997年に、はじめて従来の透析チューブに代わる透析カセットとしてThermo Scientific™ Slide-A-Lyzer™シリーズが開発されました。初代はサンプル容量によっては「浮き」を用意する必要があり、またサンプルの添加もシリンジでしかできませんでしたが、ユーザーの声を取り入れ、より使いやすくなるよう改良を重ねて登場したのが、G3タイプです。

図4. Slide-A-Lyzerシリーズ
ところで、透析カセットシリーズはG3タイプだけでなく、G1(初代タイプ)も販売を継続しています。また、Slide-A-Lyzer G3以外にも、容量やMWCO(分画分子量)に応じて複数の透析製品がありますので、目的やサンプル量に合わせて選ぶことができます。
シリーズ名 | 容量 | MWCO | こんなときにおすすめ |
Thermo Scientific Slide-A-Lyzer G3 (第3世代タイプ) |
1~125 mL | 2K、3.5K、 10K、20K |
ファーストチョイス |
Thermo Scientific Slide-A-Lyzer MINI |
10 μL~2 mL | 2K、3.5K、 7K、10K、 20K |
少量サンプルに |
Thermo Scientific™ Slide-A-Lyzer™ Flask |
230 mL または 250 mL |
2K、3.5K、 10K、20K |
大容量サンプルに |
Thermo Scientific™ Slide-A-Lyzer™ G1 (初代タイプ。こちらの「オリジナルのSlide-A-Lyzer透析カセット」をクリック) |
0.1~30 mL | 2K、3.5K、 7K、10K、 20K |
G3ではカバーできない容量やMWCOの場合に |
Thermo Scientific™ Pierce™ Microdialysis Plates (48ウェルまたは96ウェル) |
0.1、0.3、1 mL | 2K、3.5K、 10K、20K |
多サンプルの透析を一度で行いたいときに |
表2のうち、特徴的な製品であるThermo Scientific™ Slide-A-Lyzer™ MINI Dialysis Devicesを、ピックアップしてご紹介します。こちらは少量サンプル用の透析製品で、カップの底に透析膜が付いています。0.1 mLタイプは1.5 mLチューブかフロート、0.5 mLタイプは15 mLコニカルチューブ、2 mLには50 mLコニカルチューブにセットして透析を行います。0.1 mLというわずかなサンプル液量を透析できるということで、長らくご愛顧いただいている製品です。

図5. Slide-A-Lyzer MINIタイプ各種
まとめ
タンパク質サンプルを脱塩・バッファー交換するために、透析は昔からよく選ばれてきた方法です。昨今は、透析チューブだけでなく、よりサンプルアプライがしやすくロスしづらい透析カセットという選択肢があります。貴重なサンプルや失敗したくない実験の場合には、透析カセットでサンプルのロスを防ぎましょう。
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