どのようなリアルタイムPCR装置においても、適性な性能を維持するために、適切な時期に正確な補正を実行することが極めて重要です。補正により、データの完全性および一貫性が長期間にわたり維持されます。リアルタイムPCR装置は、定期的なメンテナンスの一環として、また新しい色素を初めて使用する前に、製造者から提供される取扱説明書に従って補正する必要があります。今回は補正が必要なリアルタイムPCRにおける光学的変動についてまとめましたのでご紹介します。
励起/蛍光の補正
リアルタイムPCR装置の光学系は大きく2つの種類に分類されます。一つはハロゲンランプやLEDなどの励起光源、もう一つはCCDまたはフォトダイオードのような蛍光検出器です。製造メーカーによりブロック内のウェル間の励起強度および蛍光感度に関した優れた均一性が得られていますが、常にいくらかの変動は存在し得ます。この変動は、装置の使用年数および使用回数の増加とともに増大する可能性があります。プレート間の補正されていない励起/蛍光はCt値がシフトする原因となる可能性があります。しかし、パッシブレファレンス色素を反応に使用している場合には、これらの差はレポーターおよびパッシブレファレンスのシグナルに同等の影響を与えるため、レポーターをパッシブレファレンスに対して標準化することにより差が補正されます。
一般的な光学的変動
従来のプラスチック製PCRプレートおよびチューブにおいては、液体試薬がウェルの底部にあり、その液体の上に空隙が存在し、プラスチックのシールがウェルを覆っていました。この形状では温度に関連した様々な現象が発生します。
サイクル中において、温度は95℃に達します。そのような高温においては、水分はウェルの空隙へと蒸発していきます。この水蒸気あるいはスチームはチューブの低温壁上に凝結し、水滴として底部の試薬に戻っていきます。この「還流」と呼ばれる過程はPCR反応を通して継続します。
次に、高温においては液体試薬中に溶解している空気の溶解度が低下し、小さな気泡が発生します。
さらに、スチームの圧力がプラスチックのシールに力を及ぼし、PCRの間にシールの形状が少し変化します。
これらの温度に関連した現象はすべて、励起および蛍光の光路において発生し、蛍光シグナルに変動を起こす原因となる可能性があります。これらの変動の度合いは、試薬に溶解している空気の量やプレートがいかによくシールされているかといった要因によって様々に変化します。
一般的にこの光学的変動はレポーターシグナルに明らかな歪みを引き起こすことはありませんが、反復の精度には影響を与えます。パッシブレファレンス色素が存在する場合、パッシブレファレンス色素はレポーターと同じ光路に存在するため、レポーターをパッシブレファレンスに対して標準化することによりこれらの変動は補正されます。
精度の向上
パッシブレファレンスによる標準化の補正効果は、リアルタイムPCRデータの精度を向上させます。改善の度合いは、試薬やプレートの調製方法など、多くの因子により異なります。
特殊な光学的変動
特殊な光学的変動は、サーマルサイクルに関連した異常で、レポーターシグナルに明らかな異常を引き起こしますが、ラン中のすべての反応に普遍的ではありません。特殊な光学的変動の一つの例は、プレートシールの大きな形状変化であり、「光学的ワーピング」と呼ぶこともできます。光学的ワーピングは、ウェルのシールが不十分な場合に、PCR反応中に加熱された蓋からの熱と圧力によってシールが正しく装着されることにより起こります。もう一つの例は、PCR反応中に破裂する大きな気泡の発生です。
増幅プロットにおける異常はベースラインに問題を引き起こす可能性があり、Ct値にも影響を及ぼす可能性があります。パッシブレファレンス色素に対する標準化は光学的ワーピングに対する優れた補正を提供するため、補正された増幅プロットには全く異常が見られない場合もあります。標準化は大きな気泡の破裂に対する完全な補正は行いませんが、大きな気泡の破裂に起因するデータの異常を最小限に抑えることは可能です。
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