リアルタイムPCRで使用されるTaqMan™プローブはクエンチャーの種類によって分類されます。当社ではMGBプローブ、TAMRAプローブ、QSY™プローブ、QSY™2プローブの4つのプローブを販売しています。4種類あるため、どのプローブを選べばよいのか迷った経験がある方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、それぞれのプローブの特徴を詳しく解説し、どのプローブを選ぶとよいのか解説します。
▼もくじ
プローブの分類方法 クエンチャーとはなにか?
当社のTaqManプローブはクエンチャーの種類によって分類されていますが、そもそもクエンチャーとは何でしょうか。TaqManプローブの構造のイメージ図をご覧ください。TaqManプローブは、5’末端にはレポーター(蛍光色素)、3’末端にクエンチャーが存在します。PCR反応が進むまでは、5’末端の蛍光色素は光りません。なぜなら、クエンチャーによって蛍光色素の蛍光が吸収されているためです。クエンチャーは、日本語では「消光剤」と呼ばれ、文字通り蛍光を「消す」役割を果たします。PCR反応が進むとプローブが分解され、蛍光色素とクエンチャーの距離が離れます。その結果、蛍光色素の蛍光はクエンチャーによって吸収されなくなり、蛍光が検出されるようになります(図1)。クエンチャーによってPCR増幅が起きた時だけ蛍光が検出されるような仕組みとなっています。

図1 TaqManプローブの仕組み
4種類のTaqManプローブ それぞれの特徴とは?
当社ではMGBプローブ、TAMRAプローブ、QSY、QSY2プローブの4種類のプローブを販売しています(図2)。それぞれに特長があります。

図2 TaqManプローブの模式図
TAMRAプローブは最初に販売されたプローブで歴史が長いです。TAMRAはクエンチャーとしても働きますが、蛍光色素でもあるためバックグラウンドの蛍光値が高くなりやすいという特徴があります。そのため新規の実験系で使用されることは少なく、昔からある実験系で使用されることが多いです。
MGBプローブとQSYプローブは蛍光が出ない「非蛍光」のクエンチャーを使用したプローブです。MGBプローブはNFQというクエンチャーを使用していて、クエンチャーとは別にMGBという構造もついています。MGBはMinor Grove binderの略でDNAに結合することでTm値を高める役割を持ちます。これによりTm値が高くなるため、MGBプローブは他のプローブよりも短い配列でプローブを作成できます。TaqManプローブのTm値は70℃を目安に設計します。MGB以外のプローブでは30塩基程度の長さが必要であるのに対し、MGBプローブでは15~20塩基程度でTm値を70℃程度にできます。短い配列である利点として1塩基当たりのTm値への寄与度が大きくなる点があげられます。ミスマッチがある配列に対してアニーリングしてしまうミスアニーリングの可能性を減らせます。特にSNPのタイピングなど1塩基の違いを識別するような実験系に有用です。またプローブが短いことにより蛍光色素とクエンチャーの物理的距離も短くなりクエンチング効率も高くなります。当社で販売している既製品のApplied Biosystems™ TaqMan™ Gene Expression AssayやApplied Biosystems™ TaqMan™ SNP Genotyping AssayにもMGBプローブが採用されています。
QSY・QSY2プローブはマルチプレックスPCR用に開発された非蛍光のクエンチャーを使用したプローブです。マルチプレックスPCRとは同じウェルで複数ターゲットを測定する実験系です。各ターゲットで使用する蛍光色素の種類を変えることで、どのターゲットが増幅したか検出される蛍光色素の種類から判断できます。QSYプローブは3ターゲット、4ターゲットといったマルチプレックスPCRでの測定にも対応しています(図3)。QSY2プローブはCy5やCy5.5といった高波長の蛍光色素を使用する場合に選択します。

図3 マルチプレックスPCR解析の増幅曲線
どのプローブを選ぶべきなのか?
4種類あるプローブのどれを選ぶべきかプローブの配列が決まっている場合と決まっていない場合に分けてお伝えします。
Case1:プローブの配列が決まっている場合
MGBプローブとそれ以外のプローブではTm値が大きく異なります。そのため文献を参考にする場合など既に配列が決まっている場合は、MGBプローブとして設計されているのかを最初に確認します。MGBプローブとして設計されている場合は必ずMGBプローブで合成します。MGB以外のプローブで合成してしまうと、Tm値が低くなりすぎてしまいプローブが反応しなくなってしまいます。MGB以外のプローブである場合はQSYとTAMRAの両方が使用できます。TAMRAプローブはバックグラウンドシグナルがあるため、特にこだわりがない場合はQSYプローブでの合成を推奨します。使用する蛍光色素がCy5とCy5.5の場合はQSY2プローブで合成します。
Case2:プローブの配列が決まっていない、またはこれから設計する場合
これから設計する場合はMGBプローブがおすすめです。MGBプローブは1塩基当たりのTm値の寄与度が大きく、ミスマッチがある配列がアニーリングしづらいためです。ただしマルチプレックス反応で1つのウェルで3つ以上のターゲットを測定する場合、3つ目以降のプローブはQSYプローブ、Cy5やCy5.5を使用する場合はQSY2プローブを選択します。
MGBプローブはTm値が通常よりも高くなっているため専用のTm値計算ソフトウエアPrimer Expressが必要です。Custom品では設計から当社にご依頼いただくことも可能です。Custom品をご注文いただく場合は、当社がTm値を最適化した設計をしますので、MGBプローブでの合成をご希望の場合はご検討ください。
まとめ
4つのプローブの違いや選択の基準は明確になったでしょうか。基本的にはMGBプローブがおすすめですが、どのプローブが適しているか迷う場合は弊社テクニカルサポート(jptech@thermofisher.com)までお気軽にお問い合わせください。
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TaqMan is a trademark of Roche Molecular Systems, Inc., used under permission and license.
Cy is a trademark of Cytiva.
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。