リアルタイムPCR史の第2弾です。今回はリアルタイムPCRの歴史を試薬の面からたどってみたいと思います。研究の息抜きにぜひお楽しみください。記事の後半では最新の試薬の紹介もあります。
装置の歴史についてご紹介した前回の記事はこちらからご覧いただけます。
▼もくじ
リアルタイムPCRは1993年にRussell Higuchiらによって報告されました。リアルタイムPCRはDNAの増幅を蛍光値によってモニタリングする系で、PCR反応が進むと蛍光値が増加するしくみになっています。
現在リアルタイムPCRで使用される蛍光色素は大きく2つに分類できます。1つ目はインターカレーターでSYBR™ Greenが代表的です。インターカレーターとはDNAの2本鎖に入り込んで蛍光を発する蛍光色素のことです(図1)。開発当初に使用されていたエチジウムブロマイド(EtBr)もこちらに分類されます。

図1.SYBR Greenの模式図
2つ目は蛍光色素を付与したプローブ(TaqMan™プローブ)を使用する方法です。TaqMan プローブは5’末端に蛍光色素、3’末端にクエンチャーという蛍光色素の蛍光を吸収するものがついています。PCR反応が進むとDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によってプローブが分解されて蛍光値が増えるという仕組みです(図2)。1991年にHollandらによって現在のTaqManプローブのもととなる方法、DNAポリメラーゼと5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を利用したPCR法が提唱されました。当時リアルタイムPCRはなかったため、RI標識したプローブの分解を電気泳動によって確認しました。
ところでTaqManプローブの名前の由来はご存じでしょうか。なんと日本のゲームPac-Man™(パックマン)が由来です。DNAポリメラーゼがプローブを分解する様子がパックマンに似ているとのことで命名されました。

図2.TaqManプローブの模式図
TaqManプローブは3’末端のクエンチャーによって分類することができます(図3)。リアルタイムPCR装置が初めて販売された1996年当初はクエンチャーにはTAMRAが使用されていましたが、2000年頃に現在主流となったNFQ-MGBプローブが登場しました。NFQ-MGBプローブのMGBとはMinor groove binderのことでDNAの溝に入り込んでTm値を上げる構造です。これにより短いプローブ長でプローブに必要なTm値を満たすことができるようになりました。1塩基当たりのTm値への寄与度が大きくなったため、SNPのように1塩基の違いを見極める系にも最適です。
当初使用されていたTAMRAブローブはTAMRA自身が蛍光色素であることからバックグラウンドシグナルが高い傾向にあります。そのため現在は非蛍光のクエンチャーであるNFQ-MGBやQSYなどのプローブが主流となってきています。

図3.TaqManプローブの種類
DNAポリメラーゼやdNTPsが混合された試薬であるマスターミックスも大きな発展を遂げています。
ラン時間が短いFastモード試薬が誕生しました。Standardモード試薬では1時間半程度の測定時間であるのに対し、Fastモード試薬ではなんと1/3の約30分でデータを取得することができます。ラン時間が短くなることで結果を速く確認できるようになったのはもちろん、1日でたくさんの測定を実施できるようになり研究スピードが大きく向上しました。
反応液を調整した後の室温安定性も向上しました。現在販売している試薬では長いものですと最大72時間(3日)も室温で安定です。自動化装置と組み合わせることで(図4)昼間にプレートを調整し、夜間に一気にランを終わらせるという使い方もできます。72時間安定ということは、金曜日の夜から月曜日の朝にかけてと休日に装置をフル稼働させることもできます。

図4.自動化装置Thermo Scientific™ Orbitor™とリアルタイムPCR装置Applied Biosystems™ QuantStudio™ 7 Pro
一般的なリアルタイムPCRのフローはRNAを抽出し逆転写をするという流れです。一部の試薬ではRNA抽出をせずに細胞溶解液からリアルタイムPCRを行うことができます(図5)。当社はInvitrogen™ Cells to Ct™シリーズとして販売しています。作業工程が少ないため時間の短縮や、作業量の減少になります。スクリーニングを目的としてたくさんの細胞を測定される方に好評をいただいています。

図5.Cells to Ct Kit ワークフローの一例
技術の開発から30年たった現在でもリアルタイムPCR用試薬は日々進化しています。最近発売された試薬についてご紹介します。
SYBR Greenの試薬ではApplied Biosystems™ PowerTrack™ SYBR Green Master Mix(A46112)をご紹介します。
写真の通り色付きの試薬です(図6)。Master Mixが青色、サンプルに添加するバッファーが黄色です。ウェル上で2つの溶液が混ざると緑色になるため、ウェルへのアプライミスを防止できる試薬です。「どこまでサンプルを入れたかわからなくなった」という苦い経験がある方も多いのではないでしょうか。色の変化でアプライしたウェルを判別できますので、初心者の方やサンプル数が多い方に特におすすめです。
TaqManプローブの試薬ではApplied Biosystems™ TaqPath™ BactoPure™ Microbial Detection Master Mix(A52699)をご紹介します。
低濃度の微生物検出に強い試薬です。DNAポリメラーゼを合成した細菌のDNAによるバックグラウンドシグナルを極力抑えた試薬です。
リアルタイムPCRの技術が開発されて30年となりますが、装置だけでなく試薬も日々進化し続けています。今後どのように試薬が進化していくのか楽しみですね。
当社では用途に合わせたさまざまなリアルタイムPCR用の試薬をご用意しています。ご自身の実験に最適な試薬をぜひ探してみてください。
また当社が長年培ってきたリアルタイムPCRの技術・知識をお伝えするハンズオントレーニングやセミナーを開催しています。
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研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。