結論
逆転写反応の時間を超短くして、反応時間0 minでも逆転写は一応できました。
はじめに
逆転写(Reverse Transcription)は、RNAをcDNA(complementary DNA)に変換する反応であり、PCRやリアルタイムPCRと組み合わせて実施したことがある方も多いのではないでしょうか。逆転写の反応時間は、弊社の製品だけに限ってみてもその種類によってさまざまですが、試薬の取扱説明書・プロトコルに従わないとどうなるのでしょうか?今回は、どこまで反応時間を短くできるのか、実際に逆転写反応をやってみました!
材料と方法
逆転写に用いたRNA
HeLa細胞からInvitrogen™ PureLink™ RNA Mini Kitを用いて抽出しました。
抽出したRNAの濃度・品質
Thermo Scientific™ NanoDrop™ OneCを用いて確認しました。
濃度:252.6 ng/µL
A260/A28:2.05
A260/A230:2.21
Agilent 2100 バイオアナライザ(RNA6000ピコキット)で算出しました。
RIN値:9.70
逆転写反応
Invitrogen™ SuperScript™ IV Reverse Transcriptaseやその他必要な試薬が含まれたcDNA合成キットであるThermo Scientific™ First Strand cDNA Synthesis Kitを使用しました。本キットのUser Guide:SuperScript™ IV First-Strand cDNA Synthesis Reactionプロトコルに従い、逆転写反応の時間だけを0 min、1 min、5 min、10 minとふって100 ngのRNAを逆転写しました(図1)。逆転写反応にはoligo d(T)20 primerとrandom hexamerを別々に使用し、それぞれのプライマーを使用する際のプロトコルに従いました。逆転写反応の温度は50℃で統一しました。逆転写の反応時間ごとに差が出ないように試薬はなるべくまとめて調製し、同じものを分注して実験を進めました。逆転写したcDNAは、次の実験に使用するまで-20℃で保存しました。
逆転写反応時間の長短の影響は、リアルタイムPCRで評価しました。
リアルタイムPCR反応液 (µL) |
HeLa cDNA(5 ng/µL) 2 |
Applied Biosystems™ TaqMan™ Fast Advanced Master Mix 10 |
Applied Biosystems™ TaqMan Gene Expression Assay (20x) GAPDH 1 |
Nuclease-Free Water 7 |
Total 20 |
※ウェル間で調製誤差が生じないようにするため、必要本数分をまとめて調製しました。
リアルタイムPCRシステムは、Applied Biosystems™ 7500 FastリアルタイムPCRシステムを使用し、Fast モードに設定して下記条件でランを実施しました(n = 3)。
条件:
1. 95℃ 20sec
2. 95℃ 1 sec
3. 60℃ 20 sec
※2~3を40 cycle反復
結果と考察
早速結果を確認しましょう。
まずはoligo d(T)20 primerの結果です。0 min、1 min、5 min、10 minそれぞれの時間で逆転写したcDNAについて、リアルタイムPCRを実施しました。その結果、0 minのものだけ増幅曲線が右にずれていて、その他3条件はだいたい同じでした(図2)。しかし、増幅曲線を拡大してよく見てみると、右から0 min、1 min、5 min、10 minと増幅曲線がぴったりとは重なっていませんでした。CT(Threshold cycle)値の平均を確認すると、0 minは23.0と最も大きく、1 minでは21.0、5 min、10 minは20.7というように小さくなりました(図3)。この結果から、逆転写反応(50℃)の時間が0 minなのに意外と逆転写できていることが分かりました。反応時間0 minは50℃静置の時間が0 minですが、逆転写酵素を加えてから80℃で逆転写酵素を失活させるまで、氷上で数分間が経過します。この間にある程度は逆転写反応が進行したのだと推察しました。あるいは、80℃まで温度上昇する過程で温められ、逆転写反応が進んだのかもしれません。
では、0 minの場合はどれくらい逆転写されたでしょうか。逆転写反応時間0 minとプロトコル通りの10 minのCT値の差は2.3でした。CT値の差1をターゲットの存在比2倍として計算すると、2の2.3乗なので4.9倍の差があったと計算できます。つまり、10 minの逆転写効率を100%とすると、0 minでは約20%しか逆転写できなかったことになります。0 minでも逆転写は一応できましたが、やはりプロトコルに従って実施していただければと思います。
次にrandom hexamerの結果です。逆転写時間5 minの1 wellだけ若干ずれていましたが、おおむね全ての条件で増幅曲線がそろっていました(図4)。CT値の平均を確認すると、0 minは20.6、1 min、5 min、10 minは20.5とほぼ同じ値でした(図5)。oligo d(T)20 primerの逆転写反応時間0 minでは、他の反応時間と比較して逆転写効率が顕著に低下しましたが、なぜrandom hexamerではそうならないのでしょうか。poly(A) tailに結合するoligo d(T)20 primerと、random primingするrandom hexamerの違いでしょうか。これはprimerの違いではなく、それぞれのprimerを使用する際のプロトコルの違いを反映していそうです。具体的には、oligo d(T)20 primerは逆転写酵素を加えた後、そのまま50℃で逆転写反応を進めますが、random hexamerはその配列が短いために23℃で10 minアニーリングさせた後に50℃の逆転写反応を開始します(図1)。この23℃のステップでアニーリングと同時に逆転写反応がかなり進んだため、random hexamerでは逆転写反応時間が0 minでも他の条件との差がほとんど見られなかったと考えました。
いかがでしたでしょうか。
今回はSuperScript™ IV Reverse Transcriptaseを使用して、逆転写反応時間の影響を見てみました。この酵素は、プロトコル通りの逆転写反応時間である10 minで、9 kbのcDNAを合成することが可能な高効率な逆転写酵素です。とはいえ反応時間0 minでは、さすがに逆転写できないだろうと予想して実験してみたのですが、意外なことに逆転写できていました。当然のことではありますが、ご使用の逆転写酵素や逆転写効率の評価方法、サンプルによって結果は変わってくると考えられます。今回の実験結果では、逆転写は一応できていましたが、プロトコル通りに実験した場合と比較して効率が20%と低かったので反応時間0 minはまったくお勧めできません。実験される際には、必ず試薬の取扱説明書・プロトコルに従って実験を進めていただければと思います。
今回の記事に関連するサイト
Molecular Biology Education: 逆転写教室(逆転写:概説)
Molecular Biology Education: 逆転写教室(逆転写反応の注意点)
Molecular Biology Education: 逆転写教室(逆転写酵素の注意点)
Molecular Biology Education: 逆転写教室(逆転写に関するアプリケーション)
SuperScript™ IV Reverse Transcriptase
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