リアルタイムPCRのプライマー設計では「増幅産物の長さを50~150 bp以下にする」というのが1つの基準となっています。なぜ増幅産物を短くするのでしょうか。今回の記事では増幅産物が長い場合、結果に影響があるのかを検証しました。核酸の断片化が進んでいるとされるホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed paraffin-embedded : FFPE)サンプルも検証に使用しました。増幅産物を短くする重要性を実際のデータから感じていただければと思います。
▼こんな方におすすめです!
・リアルタイムPCR用のプライマー設計をされる方
・FFPEサンプルが解析対象の方
▼もくじ
FFPEサンプルでの核酸の断片化
FFPEサンプルではDNAやRNAの断片化が進むといわれています。実際にどの程度分解が進んでいるのか、バイオアナライザーを使って確認しました。
材料:
・FFPEサンプル:Mouse Liver (ジェノスタッフ社より購入)
・15 µmスライス(10 mm x 2 mm)
方法:
・Invitrogen™ RecoverAll™ Total Nucleic Acid Isolation(製品番号 AM1975)でRNA抽出
・Agilent™ BioAnalyzer™(アジレント・テクノロジー社)で測定
18Sと23Sのピークが通常よりも低くなっています。RNAの分解度の指標であるRIN値は3でした。RIN値は1~10の数値で10に近いほど分解しておらず、1に近いほど分解が進んでいることを意味します。FFPEサンプルではRNAの分解が進んでいることがわかりました。

図1. BioAnalyzer™ による解析結果
増幅産物の長さによるリアルタイムPCRへの影響 FFPEサンプルの例
増幅産物の長さによる影響を見るために、フォワードプライマーとプローブは共通、リバースプライマーのみを変えて増幅産物の長さが異なるプライマーセットを設計しました。FFPEサンプルから抽出したRNAを逆転写し、リアルタイムPCRで、CT値を算出しました。
方法:
・ターゲット:Arginase 1 Accession No. NM_007182
Mouse Liverで高発現、かつ相同性が高い遺伝子が他に存在していないことを考慮して選定
増幅産物の長さは66 bp, 87 bp, 134 bp, 192 bp, 309 bp, 459 bp, 665 bp, 925 bpの8種類
・装置:Applied Biosystems? StepOnePlus? リアルタイムPCRシステム

図2. FFPEサンプル増幅曲線

100 bp以下である67 bpと87 bpはCT値に大きな差はみられませんでした。134 bp, 192 bp, 309 bpと増幅産物が長くなるにつれて立ち上がりが遅れCT値が大きくなりました。459 bpと925 bpは増幅がみられませんでした。665 bpは立ち上がりがみられましたが、増幅産物を電気泳動したところ非特異的産物が増幅していました。87 bp以下では増幅の遅れはみられず100 bp程度までであれば安定して検出できることが示唆されました。一方で134 bpでは明確に立ち上がりが遅れています。一般的な基準の150 bp以下であってもFFPEサンプルの場合は定量結果に影響がある可能性があります。
核酸が分解してしまっている場合、フォワードおよびリバースのプライマーが同一フラグメント内にないという状況になります。同一フラグメントにない場合はPCRで増幅できません。FFPEサンプルでは、発現しているのに分解が原因で検出できないという事態が起こりやすくなります。
増幅産物の長さによるリアルタイムPCRへの影響 FFPEサンプル以外のサンプルの例
FFPEサンプル以外のサンプルでも増幅産物の長さによる影響があるか検証しました。
材料:Mouse liver由来のcDNA
方法:FFPEサンプルの場合と同じ

図3. FFPEでないサンプルの増幅曲線

FFPEでないサンプルであっても増幅産物が長いほど立ち上がりが遅れ、CT値が大きくなりました。66 bpと87 bpの増幅曲線は、ほぼ一致しました。増幅産物が長い場合の立ち上がりの遅れはFFPEサンプルほど顕著ではありませんでした。ただし459 bpより長いものでは電気泳動でスメアになっており、非特異的産物も増幅していました。FFPEサンプル以外であっても増幅産物は短い方がよいといえます。
まとめ
増幅産物の長さがリアルタイムPCRには重要ということを感じていただけたでしょうか。
FFPEサンプルの場合は分解の影響が大きいため、特に増幅産物の長さの影響が大きいです。FFPEサンプルを解析される方は増幅産物が100 bp以下になるようなプライマー設計をご検討ください。
設計が面倒という方には既製品のApplied Biosystems™ TaqMan® Assayをおすすめします。多くが150 bp以下となるように設計されており、100 bp以下に設計されているものも多数あります。増幅産物の長さはTaqMan Assayの製品ページ「Amplicon length」の項目からご確認いただけます。TaqMan Assayの検索ページはこちらから。
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