細胞毒性薬物(CMR)とは、発がん性、変異原性、または生殖毒性のある細胞にとって有害な物質の総称であり、吸入や経口摂取により極めて深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。一方で、これらCMRは短期的にはがんの治療に有効であるため、主に抗がん剤として使用される場合があります。抗がん剤を含むCMRの取り扱いには細心の注意が必要であり、取り扱いをする際のオペレーターのばく露を防ぐためにガイドラインが整備され、また適切な設備が必要になります。
当社の「細胞毒性安全キャビネット」または「トリプルHEPAフィルター安全キャビネット」と呼ばれるThermo Scientific™ Maxisafe™ 2030i Class II安全キャビネット (https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/lab-equipment/biological-safety-cabinets/models/maxisafe-2030i.html)は、CMRを取り扱う作業者のばく露防止とその周辺環境の安全を提供できるように設計されており、欧州を中心とした安全キャビネットのDIN12980規格とEN12469規格の両方の認証を取得しています(図1)。本ブログでは、CMRを安全キャビネットで取り扱う際の問題点とCMR取り扱い用にデザインされた細胞毒性安全キャビネットの構造と利点について紹介いたします。
▼こんな方におすすめ
・抗がん剤の調剤をされている方
・抗がん剤の研究開発、製剤、および品質管理担当者
・日常的にCMRを取り扱う方

図1. 細胞毒性安全キャビネットMaxisafe 2030i Class II安全キャビネット
▼もくじ
CMRを一般的なClass II安全キャビネットで取り扱う際の問題点
ライフサイエンス研究や検査機関で使用されるClass IIタイプA2安全キャビネット(室内排気型)は、微生物に対する暴露から、オペレーターおよびその周辺環境の保護を目的としています。プレナムの2枚のHEPAフィルターに捕捉されたこれらの微生物は、ホルムアルデヒドや化学除染によって不活性化することができるため、HEPAフィルターを安全に交換することが可能です(図2A)。これに対し、CMRはこれらの化学除染によって不活性化することは不可能であり、中和することも困難です。CMRに汚染されたHEPAフィルターを交換する際は、その作業従事者がCMRに暴露されるリスクと周辺環境の汚染リスクも高まります。このため、CMRを取り扱う場合、一般的な Class II安全キャビネットの使用は適していません。
細胞毒性安全キャビネットと一般的な Class II安全キャビネットの違い
CMRを取り扱う場合、「細胞毒性安全キャビネット」または「トリプルHEPAフィルター安全キャビネット」と呼ばれるMaxisafe 2030i Class II安全キャビネット(以下、Maxisafe 2030i安全キャビネット)が適しています。このMaxisafe 2030i安全キャビネットの構造や機能は一般的なClass II生物学的安全キャビネットと非常に似ていますが、大きな違いは汚染されたフィルターを安全に交換できるよう配慮した設計になっている点です。作業台の真下に一次セットのH14規格HEPAフィルターカートリッジ(プレHEPAフィルター)がインストールされているため、CMRはこの一次セットのHEPAフィルターにトラップされます(図2B、図3)。これにより、二次のダウンフローおよび排気フィルターを通過する空気は全てろ過された清浄な空気の状態で、二次HEPAフィルターを交換することができます。
また、一次HEPAフィルターの交換も安全キャビネットが動作している陰圧環境下で、一次HEPAフィルターの取り外しが行えます。一次HEPAフィルターはコンパクトなモジュール式カートリッジであるため、バッグに入れて封入した後でそのまま取り出すことが可能です(図4)。

図2.Class II安全キャビネットと細胞毒性安全キャビネットの構造的な違い
A:一般的なClass II安全キャビネットの場合、汚染されたエアーはプレナム内のダウンフローと排気にトラップされます
B 細胞毒性安全キャビネットは、作業台の下に一次HEPAフィルターがインストールされており、CMRはこの一次HEPAフィルターにトラップされます
プレナム内の二次HEPAフィルターは一次HEPAフィルターにより、清浄化されたエアーが通過します

図3. Maxisafe 2030i安全キャビネットの作業台下の一次HEPAフィルターカートリッジ
H14規格のHEPAフィルターモジュールがインストールされており、CMRはこの一次HEPAフィルターにトラップされます

図4. 一次HEPAフィルターの交換方法
安全キャビネットが動作している陰圧環境下でHEPAフィルターカートリッジを取り外し、バッグに入れて封入することで取り出せます
一次HEPAフィルターはサイズが小さいため、取り扱いや袋詰めが容易です
必要な場合、オートクレーブ滅菌も可能です
細胞毒性安全キャビネットの規格
Maxisafe 2030i 安全キャビネットは欧州の2つの安全キャビネット規格に適合しています。
DIN 12980:2016-10
ドイツ工業規格で、細胞毒性物質やその他のCMR薬物用の安全キャビネットやグローブボックスを扱っています。欧州では頻繁に推奨され、細胞毒性物質や他のCMR薬物を扱う作業のための安全キャビネットに関する主要な基準です。この規格の大部分は、EN 12469に準じています。
EN 12469:2000
欧州を中心に普及している生物学的安全キャビネットの基本要件を規定しています。安全衛生面では、 Class I、 Class II、および Class IIIがカバーされています。EN 12469は、微生物を伴う作業のための安全キャビネットの最低性能基準を設定し、作業者および環境の保護、サンプルの保護および交差汚染に関する生物学的安全キャビネットの試験手順を規定しています。
カスタマイズが可能
Maxisafe 2030i 安全キャビネットは、お客さまのニーズに合わせたカスタマイズが可能です。抗がん剤の調製に便利なハンギングバーやバスケットをキャビネット内に設置したり(図5)、液体やガスの供給バルブも設置したりすることも可能です。

図5. 安全キャビネットの庫内に設置されたハンギングバーとバスケット
位置や高さはお客さまのニーズに合わせてカスタマイズできます
まとめ
細胞毒性物質(CMR)の取り扱いを含む場合は、細胞毒性安全キャビネットなどの専用の封じ込め装置を使用することを検討してください。CMRは微生物と異なり、通常の除染方法では中和できません。このため、細胞毒性安全キャビネットは、特にCMRを取り扱うアプリケーション用に設計され、その使用者やメンテナンスを行うサービスエンジニア担当者、およびその周辺環境の保護に役立ちます。Maxisafe 2030i安全キャビネットは、欧州のDIN 12980規格とClass II生物学的安全キャビネットのためのEN 12469に適合しています。
Maxisafe 2030i生物学的安全キャビネット
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。