空港は、町、都市、そして国を結ぶインフラとして不可欠なものですが、乗客や貨物の移動に加え、SARS-CoV-2のような感染性病原体の拡散を助長することもあるため、病原体のサーベイランスにとって戦略上重要な場所となっています。
空港でのPCR検査によるSARS-CoV-2陽性者の特定は、国内での感染拡大を阻止するための水際対策となる可能性があります。一般的な空港でのPCRベースのSARS-CoV-2スクリーニングにおいて、到着した乗客はスワブ検査を受ける必要があり、これにより入国が許可されるか、隔離あるいはそれに類するものか決定がなされます。到着した乗客から採取されたスワブサンプルの一部は、通常、新しい変異型の出現を監視するために全ゲノム配列決定が行われ、世界的な公衆衛生活動の指針として用いられます。しかし、何千もの個別のスワブサンプルを収集し、処理を継続的に行うことはロジスティクス的に困難な場合があります。環境サーベイランスはこの問題の解決策となる可能性があり、Agrawalらの最近の論文1では、空港廃水のサーベイランスによるオミクロン株の検出がいかにうまく機能するか示しています。
廃水サーベイランスの概要と現状
環境中、特に廃水に存在するSARS-CoV-2粒子から核酸を収集することで、科学者はその水の採取地点となる地域でのSARS-CoV-2集団の現在の状況を匿名かつ非侵襲的に把握することができます。また、これを繰り返すことで経時的変化を追跡することもできます。
廃水処理施設や起源がわかっている廃水からサンプルを採取すれば、特定の集団におけるウイルス量と変異株組成をモニターできます。この方法は、都市内におけるSARS-CoV-2の状況を把握するために、すでに世界中で使用されています。欧州疾病予防管理センター(eCDC)は、廃水サーベイランスの推進者として、欧州20カ国の廃水監視網を強化する取り組みを率先して行っています。オミクロン株の出現を受け、eCDCは空港でのゲノム解読による廃水サーベイランスによって入国者からのオミクロン株侵入を検出するよう提案しています。空港はこの高度な監視手法の利点と、遠方から流入する新しい変異株を発見する機会を兼ね備えることで、廃水サーベイランスの特に興味深い適用例となっています。Agrawal らはドイツのフランクフルト空港でこの手法を使用し、素晴らしい効果をもたらしました。
空港廃水のゲノムシーケンスによる変異株の早期検出
Agrawalらは、フランクフルト空港からの廃水が流入している運河と、フランクフルト市の廃水処理場へ流入する水流という2つの廃水流をモニターしました。11月2日と11月23日の両日、24時間のあいだに採取された複合試料を用い、Ion GeneStudio™ S5でIon AmpliSeq™ SARS-CoV-2 Research Panelを利用したゲノムシークエンシングを実施しました。フランクフルト地域で最初にオミクロン株が検出されたのは、11月23日にフランクフルト空港から採取された廃水サンプルでした。フランクフルト市の他の廃水サンプルからはオミクロン株は検出されず、このシーケンス以前にフランクフルトでオミクロン株の症例が確認されたことはありませんでした。その後、26日にフランクフルト空港に到着した乗客から採取された個人試料による最初のオミクロン株の症例が29日に初めて報告されました。すなわち、オミクロン株が個人のスワブから検出される前に、廃水サンプルで確認されたことになります。廃水サーベイランスが新型変異株の到着を早期に警告できたのは、今回が初めてではありません。このような対策は、ヨーロッパのさまざまな都市、北米、アジアを結ぶフライトの主要なハブ空港であるフランクフルト空港で特に重要と言えます。
まとめ
空港は、SARS-CoV-2変異株が新たな地域に伝搬する最も一般的な侵入経路であるため、空港でのウイルスの動きを監視することは、その後数週間のうちに都市部でどのようなウイルス集団が検出されるかを事前に知ることにつながります。Agrawalらの研究は、空港のような交通の要衝におけるゲノム配列解析を用いた廃水サーベイランスが、早期かつ網羅的な変異株検出のために有効であることを実証しています。継続的なスワブベースの検査と組み合わせることで、廃水サーベイランスは世界中のSARS-CoV-2の亜種を包括的に把握することができます。そして研究者や公衆衛生当局は、新規変異株の拡大を抑えるための軽減措置について十分な情報に基づいて決定を下すことができるようになるのです。
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参考文献:
1. Ballester LY, Luthra R, Kanagal-Shamanna R, Singh RR. Advances in clinical next-generation sequencing: target enrichment and sequencing technologies. Expert Rev Mol Diagn. 2016;16(3):357-72. doi: 10.1586/14737159.2016.1133298. Epub 2016 Jan 18. PMID: 26680590.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8793729/
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