▼もくじ
接着細胞の継代
接着性の哺乳類培養細胞の継代の一般的な手順を以下に示します。昆虫細胞の植え継ぎ方法は、哺乳類細胞の植え継ぎ方法といくつかの重要な段階が異なっていますので、注意してください。さらに詳しい情報に関しては、後述する昆虫細胞の継代における注意事項を参照してください。
お客様独自の細胞系の植え継ぎに関しては、実験で使用している各製品添付の説明書に厳密に従われることを推奨します。特定の細胞型に必要とされる培養条件からの逸脱は、異常な細胞型の発現から、細胞培養の完全な失敗に至る様々な結果を引き起こす可能性があります。
接着細胞の継代に必要なもの
- 接着細胞を含む培養容器
- 組織培養処理したフラスコ、プレートまたは培養皿
- あらかじめ37℃に温めておいた、完全増殖培地
- 使い捨ての滅菌済15 mLチューブ
- 37℃の、加湿した5% CO2インキュベーター
- ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)などのカルシウム、マグネシウムまたはフェノールレッドを含まない平衡塩類溶液
- トリプシンまたはTrypLE Expressなどのフェノールレッドを含まない解離試薬
- 生細胞数および総細胞数を決定するための試薬および装置(Countess II 自動セルカウンターなど)
接着細胞の植え継ぎプロトコール
細胞に接触する溶液および機器はすべて滅菌する必要があります。常に適切な無菌操作を実行し、実験は層流フード内で行ってください。
- 使用済みの培地を培養容器から取り除き、廃棄してください。
- 細胞を、カルシウムおよびマグネシウムを含まない平衡塩類溶液(10 cm2の培養表面積について約2 mL)を用いて洗浄してください。培養容器の接着細胞層の反対側から、細胞層を乱さないように洗浄液をゆっくりと加え、容器を前後に数回揺り動かします。(注意: 洗浄過程で、解離試薬の活性を阻害する可能性のある微量の血清、カルシウム、およびマグネシウムが取り除かれます。)
- 培養容器から、洗浄液を除去してください。
- フラスコの側面から、あらかじめ温めておいた、トリプシンまたはTrypLE™などの解離試薬を加えてください。細胞層をカバーするのに十分な量の試薬を加えてください(10 cm2当たり約0.5mL)。ゆっくりと揺り動かし、細胞層を完全に試薬で覆ってください。
- 培養容器を室温で約2分間インキュベートします。実際のインキュベーション時間は、使用する細胞系によって異なることに注意してください。
- 顕微鏡下で細胞の解離を観察してください。解離が90%未満の場合には、インキュベーション時間を数分間延長し、30秒ごとに解離をチェックしてください。培養容器を軽くたたくことで、細胞の解離を促進することも可能です。
- 90%以上の細胞が解離したら、できるだけ短時間培養容器を傾け、培地を除去してください。2倍容量(解離試薬用に使用した容量の2倍)の、あらかじめ温めておいた培地を加えてください。ピペッティングによって、培地を細胞層の上に数回分散させてください。
- 細胞を15 mLのコニカルチューブに移し、200×gで、5分間から10分間遠心分離します。遠心分離の速度と時間は、細胞型によって異なることに注意してください。
- 細胞ペレットを、あらかじめ温めておいた最小量の完全増殖培地に再懸濁し、細胞カウンティングに供する試料を採取してください。
- 血球計算盤、セルカウンターおよびトリパンブルー色素排除法、またはCountess II 自動セルカウンターを使用して細胞の総数および細胞生存率を決定してください。必要な場合には、細胞に増殖培地を添加し、望ましい細胞濃度に調整し、再カウントしてください。
- 細胞懸濁液を、使用している細胞系に推奨される播種密度になるように希釈し、適切な量の細胞液を新しい培養容器にピペットを用いて加え、細胞をインキュベーターに戻します。
注意: 培養フラスコを使用している場合は、ガス透過性キャップの付いた通気性のフラスコを用いる場合を除き、適切なガス交換ができるように、フラスコをインキュベーターに設置する前にキャップを緩めてください。
接着性昆虫細胞の継代に関する注意
昆虫細胞の継代の一般的な方法は、哺乳類細胞の継代と同様の手順に従いますが、両細胞培養系のいくつかの重要な必要条件には、違いが存在します。最良の結果を得るためには、実験に使用している製品付属の説明書に、常に従うようにしてください。
- 昆虫細胞は、対数増殖期に植え継ぎます。ただし、接着性の高い昆虫細胞の場合には、細胞の剥離がより容易になることから、コンフルエントに達した時点、または細胞がフラスコの底面から離れ始めてからわずかな時間が経過してから植え継ぎを行うことも可能です。
- 20%コンフルエント未満の密度は、成長を阻害します。対数増殖期に採取した細胞が、最も健康な細胞です。
- 昆虫細胞に関しては、CO2交換は推奨されません。
- 昆虫細胞は、非加湿環境下、27°Cで維持してください。昆虫細胞は、室温下、遮光した実験台上または引き出しの中で維持することが可能ですが、27°Cの制御環境が推奨されます。
- 昆虫細胞増殖用に特別に調製された培地を使用します。
- 昆虫細胞は、血清の存在しない条件下では、接着性が非常に高く、剥離がより困難です。細胞を分離するためには、手首をスナップさせて、1度フラスコをすばやく振る操作が必要になる場合もあります。汚染を防ぐため、この操作の前には必ずしっかりとキャップを締めてください。
注意: 細胞を損傷する可能性があるため、当社ではフラスコを激しく振とうすることは推奨しません。
浮遊細胞の継代
哺乳類培養細胞の浮遊細胞培養における継代の一般的な手順を以下に示します。昆虫細胞の継代方法は、哺乳類細胞の継代方法といくつかの重要な段階が異なっていますので、注意してください。さらに詳しい情報に関しては、後述する昆虫細胞の継代における注意事項を参照してください。
浮遊培養細胞の植え継ぎ
浮遊培養細胞の継代は、接着細胞の植え継ぎよりも簡単です。浮遊培養においては、細胞がすでに増殖培地に懸濁しているため、細胞を酵素処理して培養容器の表面から剥離する必要が無く、工程全体がより迅速で、細胞の損傷がより少なくなります。浮遊培養においては、増殖培地の交換は行わず、代わりに、細胞がコンフルエントに達するまで2~3日毎にフィードを繰り返すことによって、細胞を維持します。この細胞の維持は、培養フラスコ内の細胞を直接希釈して増殖を継続させる方法や、培養フラスコから細胞の一部を取り除き、残りの細胞をその細胞系に適切な播種濃度まで希釈する方法により行うことが可能です。一般的に、浮遊培養においては、植え継ぎに続く誘導期が接着培養よりも短くなります。
浮遊培養容器
浮遊培養物は、組織培養処理していない、滅菌培養フラスコ(例: バッフルの付いていない振とうフラスコ)中で維持できますが、浮遊細胞培養用に特別にデザインされたスピナーフラスコ(すなわち、スターラーボトル)は、気体交換効率が良く、より高容量の細胞を培養することが可能です。
スピナーフラスコには、基本的に2種類のデザインがあります。培地は、つり下げ攪拌棒、または垂直攪拌羽根によって攪拌され(すなわち、かき混ぜられ)ます。エアレーションに関しては、垂直攪拌羽根の方が、つり下げ攪拌棒よりも優れています。適正なエアレーションのためには、スピナーフラスコ中の培地の容量は、フラスコに表示されている容量の半分を超えないように(例: 500 mLのスピナーフラスコは、250 mL以上の培地を含まないように)する必要があります。
浮遊細胞の継代に必要なもの
- 浮遊培養細胞を含む培養容器
- バッフルの付いていない振とうフラスコ、またはスピナーボトル(上述の、浮遊培養容器の項を参照してください)
- あらかじめ37°Cに温めておいた完全増殖培地
- 37°Cの、加湿した5%CO2インキュベーター
- マグネチックスターラー(スピナーフラスコを使用する場合)、ローラーラック(ローラーボトルを使用する場合)、またはシェイキングインキュベーター(従来型の培養フラスコまたはシャーレを使用する場合)
- 生存細胞数および総細胞数を決定するための試薬および装置(例えばCountess II 自動セルカウンターなど)
浮遊細胞の植え継ぎプロトコール
細胞に接触する溶液および器機はすべて滅菌する必要があります。常に適切な無菌操作を実行し、実験は層流フード内で行ってください。細胞は、コンフルエントになる前の対数増殖期に継代することが必要です。浮遊培養細胞は、コンフルエントに達すると凝集し、培養フラスコを振り混ぜると、培地が濁って見えます。植え継ぎ前の最大推奨細胞密度は、細胞系によって異なります。詳細に関しては、製品説明書またはマニュアルをご参照ください。
振とうフラスコ内で成長させた細胞
振とうフラスコを使用して、シェイキングインキュベーター内で浮遊培養した哺乳類細胞の植え継ぎの一般的な手順を以下に示します。プロトコールの詳細に関しては、製品説明書を常にご参照ください。
注意: 振とうフラスコに、バッフル(攪拌を促進するようにデザインされた、フラスコ底面の突起)が付いていないことを必ず確認してください。バッフルは振とうのリズムを乱します。
- 細胞が植え継ぎに適した状態(すなわち、コンフルエントに達する前の対数増殖期)に達したら、フラスコをインキュベーターから取り出し、少量の細胞試料を、滅菌済ピペットを用いて培養フラスコから採取します。試料の採取前に細胞が沈降した場合には、細胞が培地中に均一に分散するように、フラスコを揺り動かしてください。
- 採取した試料から、Countess II 自動セルカウンター、または血球計算盤およびトリパンブルー色素排除法などを用いて、細胞総数および生細胞率を決定してください。
- 細胞培養物を、推奨される播種密度に希釈するのに必要な培地の添加容量を計算してください。
- あらかじめ温めておいた増殖培地を適切な容量、無菌的に培養フラスコに添加してください。必要であれば、培養物を複数のフラスコに分割することも可能です。
- 適正なガス交換ができるように、培養フラスコのキャップを1回転分緩めて(または、ガス透過性のキャップを使用して)、フラスコをシェイキングインキュベーターに戻してください。振とう速度は、細胞系によって異なります。
注意: 細胞破片および代謝老廃副産物の、振とう培養物中における蓄積を最小限に抑えるため、3週間毎に(または必要に応じて)、細胞懸濁液を100×g で5~10分間緩やかに遠心分離し、細胞ペレットを新しい増殖培地に再懸濁してください。
スピナーフラスコ内で成長させた細胞
スピナーフラスコを使用して浮遊培養した、哺乳類細胞の植え継ぎの一般的な手順を以下に示します。プロトコールの詳細に関しては、製品説明書をご参照ください。
細胞は物理的なせん断により損傷され易いため、注意が必要です。攪拌羽根装置がスムーズに回転し、培養容器の側面や底面に接触しないことを確認してください。培養物への十分な通気が確保されるように、パドルの上部は培地よりもわずかに上にあることが必要です。スピナー装置を調節して、パドルが培養容器の側面および底面に触れないようにしてください。各スピナーフラスコの容量に対して、それぞれ必要な培地の最小容量を下表に示します。
スピナーフラスコの容量 | 培地の最小容量 |
100 mL | 30 ml |
250 mL | 80 mL |
500 mL | 200 mL |
当社では、500 mLを超える容量のスピナーフラスコで培養することは推奨しません。すでに確立されている、より小容量のスピナーからスケールアップされることをお勧めします。
- 細胞が植え継ぎ可能な状態(すなわち、コンフルエントに達する前の対数増殖期)に達したら、フラスコをインキュベーターから取り出し、少量の細胞試料を、滅菌済ピペットを用いて、培養フラスコから採取します。試料の採取前に細胞が沈降した場合には、細胞が培地中に均一に分散するように、フラスコを揺り動かしてください。
- 採取した試料から、Countess II 自動セルカウンター、または血球計算盤およびトリパンブルー色素排除法などを用いて、細胞総数および生細胞率を決定してください。
- 細胞培養物を、推奨される播種密度に希釈するのに必要な培地の添加容量を計算してください。
- あらかじめ温めておいた増殖培地を適切な容量、無菌的に培養フラスコに添加してください。必要であれば、培養物を複数のフラスコに分割することも可能です。
- 適正なガス交換ができるように、培養フラスコのサイドアームのキャップを1回転分緩め、フラスコをインキュベーターに戻してください。スピナーの速度は、細胞系および攪拌羽根のタイプによって異なります。細胞へのせん断ストレスによる損傷を避けるため、必ずスピナー速度が、推奨される数値内にあることを確認してください。
注意: 細胞破片および代謝老廃副産物の、スピナー培養物中における蓄積を最小限に抑えるため、3週間毎に(または必要に応じて)、細胞懸濁液を100×g で5~10分間緩やかに遠心分離し、細胞ペレットを新しい増殖培地に再懸濁してください。
浮遊昆虫細胞の継代に関する注意
昆虫細胞の継代の一般的な方法は、哺乳類細胞の継代と同様の手順に従いますが、両細胞培養系のいくつかの重要な必要条件には、違いが存在します。最良の結果を得るためには、実験に使用している昆虫細胞系付属の説明書に、常に従うようにしてください。
- 浮遊細胞培養においては、培地を交換する必要はありません。通常の継代においては、細胞懸濁液の一部を取り除き、培養細胞を適切な密度に希釈するのに必要な量の培地を添加することが必要です(細胞特異的な製品説明書をご参照ください)。新しい培地を添加することで、細胞に必要な栄養素を十分に補充できます。
- 昆虫細胞に関しては、CO2交換は推奨されません。
- 昆虫細胞は、非加湿環境下、27°Cで維持してください。昆虫細胞は、室温下、実験台上または引き出しの中で維持することが可能ですが、27°Cの制御環境が推奨されます。
- 昆虫細胞増殖用に特別に調製された培地を使用します。
- せん断を減少させるために、界面活性剤を使用してください。スピナー昆虫細胞培養には、0.1%Gibco™ Pluronic™ F-68を推奨します。Pluronic F-68(BASF)は、攪拌羽根による細胞膜のせん断を減少させる界面活性剤です。(注意: Sf-900 II SFMおよびExpress Five SFMは、界面活性剤を含んでいます。)
- 昆虫細胞系の一部には、浮遊培養への適応化が必要な場合があります。さらに詳しい情報に関しては、製品説明書またはマニュアルをご参照ください。
【無料ダウンロード】Gibco細胞培養基礎ハンドブック
細胞培養に関する基礎情報を解説したハンドブックをご用意しています(日本語版、約100ページ)。PDFファイルのダウンロードをご希望の方は、下記ボタンよりお申し込みください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。