SYBR™ Green法を用いたリアルタイムPCRでは、目的の領域が特異的に増幅されているかを、融解曲線での検証と共に、シーケンスで確認されているということはよく耳にします。
ブログ「SYBR Green法をもちいたPCR産物の検証をシーケンサーで!」
では、TaqMan™ Probe法で増幅した100 bp以下の短い産物は、キャピラリーシーケンサで解析ができるのか?また、Probeはシーケンスの結果にどう影響するのか?と疑問に思い、実際に試してみることにしました。
▼もくじ
TaqMan Assayを用いたリアルタイムPCR
今回はSNP解析に用いられるApplied Biosystems™ TaqMan™ SNP Genotyping Assay に使用するプライマーおよびProbeを個別に準備し、Probeの存在がシーケンス反応に影響を与えるのか否かの検証のため、Probeあり/Probeなしの2通りで検証しました。
テンプレートには、Wild Type(G), Mutation Type(A) の配列をInvitrogen™ GeneArt™ 遺伝子合成サービスで合成した人工合成遺伝子(74bp)を用い、1:1で混合、ヘテロ型テンプレートを調製し検証を行いました。
使用試薬:
・Applied Biosystems™ TaqPath™ ProAmp™ Master Mix
・Primer Forward (100 µM)
・Primer Reverse (100 µM)
・Probe :VIC-WT (10 µM)
・Probe :FAM-MT (10 µM)
・テンプレート:人工合成遺伝子(105 コピー/µL)
反応調製:
- ×10 Assayの組成
(1) Probeあり | 濃度 | 1反応あたり(µL) | |
Primer | Forward | 100 µM | 0.09 |
Reverse | 100 µM | 0.09 | |
Probe | VIC-WT | 10 µM | 0.2 |
FAM-MT | 10 µM | 0.2 | |
DW | 0.42 | ||
Total | 1 |
(2) Probeなし | 濃度 | 1反応あたり(µL) | |
Primer | Forward | 100 µM | 0.09 |
Reverse | 100 µM | 0.09 | |
DW | 0.82 | ||
Total | 1 |
- リアルタイムPCR反応液組成
濃度 | 1反応あたり(µL) | |
TaqPath ProAmp Master Mix | ×2 | 5 |
×10 Assay | ×10 | 1 |
テンプレート(Hetero) | 105コピー/µL | 2 |
DW | 2 | |
Total | 10 |
使用装置:
・Applied Biosystems™ QuantStudio™ 5 リアルタイムPCR システム
条件設定:
・Experiment type: Genotyping
・Fastモード使用
リアルタイムPCR反応条件:
温度 | 時間 | サイクル | |
Pre-Read Stage | 25 ℃ | 30秒 | 1 |
Hold Stage | 95 ℃ | 5分 | 1 |
PCR Stage | 95 ℃ | 5秒 | 40 |
58 ℃ *プライマーに合わせ 今回は58 ℃に設定 |
30秒 | ||
Post-Read Stage | 25 ℃ | 30秒 | 1 |
Allele1-VIC(WT), Allele2-FAM(MT)
Probeあり:増幅曲線が得られていることを確認
Probeなし:Probeが含まれていないため増幅曲線の確認不可
ゲル電気泳動でのバンド確認
念のため、リアルタイムPCR後の反応産物をInvitrogen™ E-Gel™ Power Snap Electrophoresis Systemで電気泳動し、バンドの確認を行いました。
使用装置・試薬:
・E-Gel Power Snap Electrophoresis System
・Invitrogen™ E-Gel™ EX Agarose Gels, 4%
・Invitrogen™ E-Gel™ 50 bp DNA Ladder
泳動条件:
・Program: E-Gel EX Agarose Gels 4%, 16分泳動
レーンM:E-Gel 50 bp DNA Ladder 5 µL + DW 15 µL
レーン1,2:リアルタイムPCR産物(Probeあり)10 µL + DW 10 µL
レーン3,4:リアルタイムPCR産物(Probeなし)10 µL + DW 10 µL
レーン5:E-Gel 50 bp DNA Ladder 5 µL + DW 15 µL
泳動した結果、リアルタイムPCR産物Probeあり/なし共に、想定サイズ74 bpの位置に1本のみのバンドが確認され、Probeなしの反応溶液でも目的の領域が増幅されていることが確認できました。
Qubit4 Fluorometerでの濃度測定
シーケンス反応に、適切なテンプレート量を添加するため、リアルタイムPCRで増幅した産物をInvitrogen™ Qubit™ 4 Fluorometerで測定しました。
PCR産物 100 bp~200 bp推奨濃度:1~3 ng
BigDye™ Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit クイックリファレンス 参照
使用機器:Qubit 4 Fluorometer
使用試薬:Invitrogen™ Qubit™ 1× dsDNA HS
反応組成:
Std1 10 µL + Working Solution 190 µL=200 µL
Std2 10 µL + Working Solution 190 µL=200 µL
リアルタイムPCR反応産物 2 µL + Working Solution 198 µL=200 µL
濃度測定結果:
(1) Probeあり 4.28 ng/µL
(2) Probeなし 3.46 ng/µL
※Thermo Scientific™ NanoDrop™ シリーズ微量分光光度計のdsDNAモードでPCR後の反応溶液を測定すると、PCRに使用されなかったプライマーや、dNTPsが上乗せされて検出されてしまい、測定が不可なため、今回はQubit 4 Fluorometerを用いて測定しました。
PCR産物の精製
今回の検証では、増幅領域を人工合成で作成、テンプレートとしているため、確実に目的領域のみが増えているという状況です。
そのため、酵素処理でPCRプライマー(1本鎖)消化、dNTPsを不活化するApplied Biosystems™ ExoSAP-IT™ Express PCR Product Cleanup Reagent を用いて、リアルタイムPCR産物の精製を行いました。
使用試薬:75001.200.UL ExoSAP-IT Express PCR Product Cleanup Reagent
反応組成:
qPCR産物 | 5 µL (Qubit 4 Fluorometer測定値 約4 ng /µL×5 µL =約20 ng 相当) |
ExoSAP-IT Express PCR Product Cleanup Reagent | 2 µL |
Total | 7 µL (約2.8 ng/µL相当) |
サーマルサイクラー反応条件:
温度 | 時間 |
37 ℃ | 4分 |
80 ℃ | 1分 |
4 ℃ | ∞ |
シーケンス反応
テンプレートの長さが100 bp以下と短いため、今回はApplied Biosystems™ BigDye™ Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kitを使用。
v3.1が長い鎖長(500bp以上)のシーケンス反応に適しているのに対し、v1.1は短い鎖長のシーケンス反応に適しています。
特にv3.1と比較するとv1.1はプライマー直下の波形が読み易い、というのが特長です。
使用試薬:
・BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit
・リアルタイムPCRに使用したPrimer(Forward/Reverse)
反応組成:
濃度 | 1反応あたり(µL) | |
Ready Reaction Mix | ×2.5 | 2 |
×5 Buffer | ×5 | 1 |
Primer(ForwardまたはReverse) | 1µM | 3.2 |
DW | 2.8 | |
Template (リアルタイムPCR産物をExoSAP-IT Expressで 処理したもの) |
約2.8ng/µL相当 | 1 |
Total | 10 |
サーマルサイクラー反応条件:
温度 | 時間 | サイクル |
96 ℃ | 1分 | 1 |
96 ℃ | 10秒 | 25 |
50 ℃ | 5秒 | |
60 ℃ | 1分15秒 | |
4 ℃ | ∞ | Hold |
シーケンス反応後の精製
Applied Biosystems™ BigDye™ XTerminator™ Purification Kitを使用して、シーケンス反応後の精製を行いました。
使用試薬:BigDye XTerminator Purification Kit
反応組成:
1反応あたり(µL) | |
シーケンス反応産物 | 10 |
BDX | 10 |
SAM solution | 45 |
Total | 65 |
プレートシェーカーで振とう(2,000rpm、30分)
キャピラリーシーケンサでの泳動
使用装置:Applied Biosystems™ SeqStudio ジェネティックアナライザ
DyeSet:E
RunModule:ShortSeq_BDX
Rawデータの確認
(1) Probeあり
・Forward
・Reverse
(2) Probeなし
・Forward
・ReverseProbeの存在がシーケンスデータに及ぼす影響をProbeのあり・なしで検証しましたが、Rawデータを比較すると、Probeありのデータで検出されたピーク(赤点線枠)はProbeなしでは検出されておらず、おそらくこのピークがProbe由来のピークではないかと考えられます。
ただし、プライマー直後の1塩基目よりも前に検出されているため、配列解析に影響はありませんでした。
波形データの確認
(1) Probeあり
・Forward
・Reverse
(2) Probeなし
・Forward
・Reverse
BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kitを使用したことで、プライマー直下(20 bp以内)のSNP位置もなんとか特定されているような状況ですが、より精度の高い解析を行うため、Applied Biosystems™ SeqScapeソフトウエアを用いて解析を行いました。
SeqScapeソフトウエアを使用した解析
変異解析ソフトのSeqScapeソフトウエアを使用して、74 bpのリファレンス配列を登録、得られた配列データのアライメントを取り、SNPの位置を確認しました。
Mutation Reports
結果、SNPの位置(Position 41)にG/Aの混合塩基であるRが表示され、Mutation Reportsでも、QV=6と精度は低いものの該当位置に変異が確認されました。
まとめ
通常キャピラリーシーケンスにおいては、短くても100 bp以上の断片長が必要とされていますが、BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kitを使用し、Forward/Reverseの両鎖から解析することで、100 bp以下の短い断片でも、変異の検証が(なんとか)できるということが分かりました。今回は変異部分の確認を行いましたが、両鎖を読むことで増幅域全長を確認することができ、発現解析にも応用できます。
また今回の検証では、目的領域を人工合成で作成しテンプレートとしたため、目的の領域のみが確実に増えているという状況でした。仮に実サンプル で行う場合は、TaqMan Assayの性質上Probeを使用することにより特異性を担保している為、非特異的領域が増幅している可能性がありますので、注意が必要です。
サンガーシーケンス ガイド
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