はじめに
リアルタイムPCRは簡便な反応調製と短い測定時間で遺伝子発現定量が行えるため、広く普及しています。一方でリアルタイムPCRは測定する遺伝子が少ない場合の方法で、網羅的な解析には向かないと思われている方も多いのではないでしょうか。今回の記事ではリアルタイムPCRでも網羅的な解析を実施できるApplied Biosystems™ TaqMan™ Array plateという製品をご紹介します。反応調製も非常に簡単で結果の解析も無償のソフトウエアで実施可能です。
このような方にお勧めの製品です。
・網羅的解析に興味があるけれどバイオインフォマティクス解析に自信がない方
・次世代シーケンサやマイクロアレイをお持ちでない方
・解析したい遺伝子の数が10~90程度の方
・リアルタイムPCRの反応調製を楽にしたい方
TaqMan Array plateとは?
TaqMan Array plateはTaqMan Assay(プライマー/プローブ)が乾燥状態で分注されたプレートです(図1)。
各ウェルに異なるTaqMan Assayを配置することで、96ウェルプレートのフォーマットであれば最大で96遺伝子を1枚のプレートで測定できます。

図1. TaqMan Array plateの外観
TaqMan Array plateのメリットは反応調製が非常に簡単であることです。cDNAとリアルタイムPCR用のマスターミックスを混ぜ合わせ、プレートに分注するだけで調製が完了します。調製に必要な時間はプレート1枚あたり10分未満です。また同じ反応液を分注しますので、アプライするウェルを間違えてしまうという操作ミスも減らせます。測定したいターゲットやサンプルが多く反応調製が面倒だなと感じている方に特にお勧めです。
TaqMan Array plateには4種類あります。1つ目はレイアウト固定のInventoried TaqMan Array plate、2つ目はレイアウトが組まれているもののご自身で変更可能なFlexible TaqMan Array plateです。レイアウトが設定されていない製品も2種類あり、一から自由にレイアウトを組むことができるカスタムTaqMan Array plate、遺伝子発現定量以外のTaqMan Assayや384ウェルプレートにも対応している特注TaqMan Array plateに分けられます(表1)。
それぞれのTaqMan Array plateの詳しい紹介はこちらをご覧ください。

表1. 4種類のTaqMan Array plate
レイアウトが組まれている製品であれば測定する遺伝子を選定する手間を省けます。興味がある疾患名やパスウェイから関連遺伝子が搭載されているTaqMan Array plateを簡単に検索できます(図2)。検索ページはこちらから。

図2. 疾患・パスウェイからの閲覧画面
カスタム品は見たい遺伝子が決まっている方にお勧めです。レイアウトは自由で1枚のプレートで1つのサンプル96遺伝子を測定するフォーマットのほか、1枚のプレートで3つのサンプル32遺伝子を測定するフォーマットなど(図3)、1枚のプレートで複数サンプルを測定するレイアウトも設定できます。

図3. レイアウトのイメージ図
解析はExpressionSuite Softwareという無償のソフトウエアで簡便に行えます。データを取り込み、基準にするサンプルと内在性コントロール遺伝子を選択するだけで簡単に相対値を算出できるソフトウエアです。バイオインフォマティクスの知識がない方でも相対定量を行うことができます。ソフトウエアの詳細はこちらの記事をご覧ください。
TaqMan Array plateは常温で保管できます。冷蔵庫や冷凍庫にスペースを用意する必要がないのも便利な点です。
測定データについて
実際にレイアウト固定のTaqMan Array plateで測定をしました。使用したのはApplied Biosystems™ TaqMan™ Array Human Molecular Mechanisms of Cancerです。4つの内在性コントロール候補遺伝子と92のターゲット遺伝子が測定できるプレートです。測定にはApplied Biosystems™ QuantStudio 5 リアルタイムPCRシステムを使用しました。がん関連遺伝子を測定するプレートのためサンプルには肺がんのがん細胞(Tumor)と正常細胞(NAT)のRNAを使用しました。逆転写試薬にはInvitrogen™ SuperScript™ IV VILO™ Master Mixを使用し、リアルタイムPCR用のマスターミックスはApplied Biosystems™ TaqMan™ Fast Advanced Master Mixを使用しました。
データ解析にはExpresionSuiteSoftwareを使用しました。図1はExpressionSsuite Softwareで作成したNATを基準(Reference sample)とした際のTumorの発現量の相対比のグラフです。ランデータを取り込み、内在性コントロールとReference Sampleを設定するだけで92遺伝子について相対比を算出できました(図4)。

図4. Taq Man Array plateの測定結果
データの精度を確認するために次世代シーケンサの結果とも比較しました。次世代シーケンサでは12~1,200のヒト遺伝子からターゲットを自由に選択できるIon AmpliSeq™ RNAカスタムパネルを使用し、リアルタイムPCRで測定した遺伝子と同じ遺伝子を測定しました。
その結果、次世代シーケンサの結果と高い相関性が得られており(図5)、TaqMan Arrayプレートでも精度高い定量が行えていると示唆されました。

図5. リアルタイムPCRと次世代シーケンサの結果比較
短時間で結果が出るのもリアルタイムPCRのメリットです。実際に今回の検証実験でもRNAサンプルからスタートして、逆転写反応と2枚のプレートのランが終わるまで3時間弱と、半日で結果が出ました。
TaqMan Array plateを使用するとリアルタイムPCRでも数十遺伝子を対象とした網羅的解析が行えます。他の手法と比較して短時間で簡単に実験と解析が行え、どなたでも実施しやすい実験系です。
どのようなTaqMan Array plateがあるのか、まずは検索ツールでご覧ください。
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研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。
TaqMan is a trademark of Roche Molecular Systems, Inc., used under permission and license.